第37回 コンセルトヘボウ管の新首席指揮者が決定 in Amsterdam
6月10日、「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(以下コンセルトヘボウ管)新首席指揮者について」とだけ告知され、オランダ・アムステルダムのコンセルトヘボウにて記者会見が開かれました。2016年のダニエレ・ガッティ就任から数えると、6年ぶりの首席指揮者に関する発表です。
会場には主に国内のジャーナリストが集まったほか、ストリーミング中継も行われ、海外に向けても広く発表されました。
空白の期間を経て
コンセルトヘボウ管には、1888年の創設以来、歴代の首席指揮者が名を連ねてきました。
初代はオランダ出身のヴァイオリニストでもあったウィレム・ケスが最初期に関わり、2代目になったウィレム・メンゲルベルクは、24歳の若さで同オーケストラの首席指揮者となり、半世紀にもわたってコンセルトヘボウの音を作りあげ、定評を築き上げたことで知られています。
エドゥアルト・ファン・ベイヌム、昨年逝去されたベルナルト・ハイティンクと、オランダ人の首席指揮者が続けて就任。1988年、外国人として初めて首席の座に就任したのはイタリア人のリッカルド・シャイーでした。
2004年から2015年にかけてはラトヴィア出身のマリス・ヤンソンス、2016年からはイタリアのダニエレ・ガッティが就任したものの、セクハラ疑惑が浮上し辞任に追い込まれ、業界に少なからぬ衝撃を与えました。
2018年のガッティ辞任から、今月の発表に至るまで、首席指揮者の座は、空席のままずっと据え置かれていたのです。そういった意味から、今回の発表は、待ちに待った重大発表だったといえるでしょう。
オーケストラの新時代の幕開け
1888年のコンセルトヘボウのホール開館と同時に誕生したコンセルトヘボウ管は、
134年という長い歴史の中でも、今までに
たった7人しか首席指揮者を受け入れてきませんでした。最長で50年にわたるコラボレーションをする相手である首席指揮者は、オーケストラにとって非常に重要なポストであり、オーケストラの音の響きや方向性を大きく変化させるほど、
大きな影響を与える存在です。
6月10日の記者会見では、こちらの映像を通して、新しい首席指揮者の名前が発表されました。
ホール内に飾られている
歴代首席指揮者の肖像画を映し出してから、新しい首席指揮者に任命された
クラウス・マケラの姿が浮かび上がってくるという、凝った映像です。
画面にマケラが指揮をする姿がはっきりと映しだされた瞬間、会場は驚きと喜びの入り混じった歓声で包まれ、拍手が鳴り響きました。ドヴォルザークの交響曲第9番「
新世界より」第4楽章の演奏を使っていることからも、オーケストラとしての新時代を迎える気概が伺えます。
クラウス・マケラは、
現在26歳の
フィンランド出身の指揮者。
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団のほか、2022/23シーズンから、
パリ管弦楽団のディレクターに就任することが決まっているうえ、同時期にコンセルトヘボウ管でも『
芸術監督』という役割に就くことが決定しています。
さらに
2027年からはコンセルトヘボウ管の首席指揮者となり、より密接に同オーケストラと活動予定です。コンセルトヘボウ管との初めての共演は、2020年9月のことでした。
同連載の
過去記事でも、ロックダウン時にコンセルトヘボウ管が限定していたコンサート映像の中から、特におすすめのものとして、クラウス・マケラの指揮するシベリウスの演奏をご紹介しました(現在は公開終了)。
コンセルトヘボウのデビュー当時から、バランス感覚にすぐれ、いきいきとした流麗な演奏で、
聴衆だけではなくオーケストラ団員の心をもつかんでいたことが、今回の
大抜擢につながったようです。
コンセルトヘボウ管の首席指揮者のポストが空いたままになっていた期間、オランダの新聞を始めとするメディアは、次期指揮者について
さまざまな予想をめぐらせていました。
同オーケストラと長年密接な関係を築いている
イヴァン・フィッシャーや、2021年コロナ開けのコンサートでも名演を聴かせた
アンドリス・ネルソンスらの名前が挙がっていました。しかし、
クラウス・マケラを予想した人はいなかったようです。
マケラが
2027年に31歳でシェフの座につき、長期的にコンセルトヘボウ管とコラボレーションを行うことで、同オーケストラの音楽を変えていくことでしょう。その若さは、過去に2代目首席指揮者
メンゲルベルクが24歳で就任し、
50年もの長期にわたって共演したことが連想されます。
今年8月、マケラとコンセルトヘボウ管は、同オーケストラにとって重要なレパートリーであるマーラーの交響曲第6番を含むプログラムをもって、国内外3箇所のツアーを行います。
コラボレーションはまだ始まったばかり。
歴史あるオーケストラが変革を求め、新鋭の指揮者マケラがそれに応えるという形は刺激的で、目が離せません。
★コンサート情報
https://www.concertgebouworkest.nl/en/concert/M%C3%A4kel%C3%A4-conducts-Mahlers-sixth【以下の点について修正いたしました。申し訳ございません。(7/6)】
①オランダ人のマリス・ヤンソンス⇒ラトヴィア出身のマリス・ヤンソンス
②オスロ管弦楽団⇒オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
取材・文 安田真子
写真 Marco Borggreve