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第31回 音楽院でのヴィオラフェスティバルとコンクール in Amsterdam

日照時間がぐっと短くなり、冬を感じる日々が続くオランダ。2021年11月20日から27日にかけて、アムステルダム音楽院を舞台に、ヴィオラのための特別なイベントが開かれました。第8回アムステルダム・ヴィオラフェスティバル、国内ヴィオラコンクールという2つのイベントです。
第8回アムステルダム・ヴィオラフェスティバルは、同音楽院のヴィオラ・セクションの主催で、2年に1度開かれているヴィオラに特化した音楽祭です。
早朝8時ごろから夜まで、コンサートやマスタークラス、レクチャーなどのプログラムがびっしりと詰め込まれており、音楽院の学生を中心にした若手プレイヤーの学びの場としての意義がメインですが、アマチュア奏者を含むヴィオラ愛好家やプロ奏者同士の交流も考えられています。
また、演奏についてのレクチャーはもちろん、ヴィオラの楽器としての特徴をオランダ国内在住の弦楽器製作者が解説したり、オーディション準備のためのトレーニング・ワークショップが行われたりと、様々な角度からヴィオラの魅力を取り上げ、理解を深めるために用意されたプログラムが魅力です。

ヴィオラを『解放』した作曲家ヒンデミットを特集

今回は、今井信子さんの発案で、ヴィオリストにとって重要な作曲家であるパウル・ヒンデミットをプログラムの中心に据える運びとなりました。
自身もヴィオラを奏でていたヒンデミットは、ソロ曲、ヴィオラソナタ、室内楽作品など、ヴィオラの名曲を数多く遺しました。
ヒンデミットのことをヴィオラ独奏曲に真剣に取り組んだ初めての作曲家として、「ヴィオラを解放した作曲家」と讃える同フェスティバル。今回のフェスティバルでは、ヴィオラが主役をつとめる作品の上演がなんと28曲も予定されました。
2020年に生誕125周年を迎え、アニバーサリーイヤーだったものの、コロナ禍の影響でイベントを組むことが叶いませんでしたが、この機会に取り上げることができたというわけです。

ヒンデミット作品づくしのコンサートで取り上げられた曲の中には、名曲として知られるヴィオラソナタ第4番や『葬送音楽(Trauermusik)』などはもちろん、『瞑想曲(Meditation)』、ソプラノとオーボエ、ヴィオラ、チェロの四重奏『セレナーデ』など、普段聞く機会の少ないレパートリーも積極的に取り上げられ、知られざる名曲の数々が紹介されました。ヴァイオリン二重奏のヴィオラ二重奏編曲版といった新しいアプローチもみられました。

さらに、イギリス・バーミンガムのヴィオラ奏者・指導者で、ヒンデミットの研究者でもあるルイース・ランスダウン(Louise Lansdown)も音楽祭に参加したことで、この作曲家についての知識をより深める機会も提供されました。
演奏された作品や背景、作曲家の人生について解説を行われ、学生や若手のヴィオラプレイヤーにとっては、ヴィオリストにとって大切なレパートリーであるヒンデミット作品についての理解をより深め、演奏に役立てる機会になったようです。

注目を集める国内ヴィオラコンクール


フェスティバルと同時開催の国内ヴィオラコンクールは、今年で7回目を迎えました。2009年から10年以上にわたり、音楽祭と併催され、素晴らしい若手ヴィオリストを世に送り出してきたコンクールです。
参加条件は、27歳までのオランダ人もしくは国内で学ぶ学生であること。今回は21名が参加しました。コンクールの第1次、2次ならびに最終審査の課題曲には、ヒンデミットの作品がそれぞれ盛り込まれていました。
第2審査では、ブロッホ「ヘブライ組曲」、ヒンデミットのヴィオラ協奏曲「白鳥を焼く男」第1楽章のほかに、アムステルダム出身の戦前の作曲家であるレオ・スミットの「クラリネット、ヴィオラ、ピアノのための三重奏」も課題曲として用意されていました。

今回の優勝者は、2000年生まれのセドナ・ヘイツマンさん。アムステルダムのムジークヘボウでの受賞者コンサートに出演する権利と賞金が授与されました。ヘイツマンさんの今後の活躍が楽しみです。

音楽院に集った国際的な顔ぶれ

こちらの音楽祭ならびにコンクールを創設したのは、ソリストとしての輝かしいキャリアに加え、アムステルダム音楽院などで優秀な後進を育ててきたことで知られているヴィオリストの今井信子です。日本においてもコンクールと音楽祭を合わせたヴィオラのためのイベント『ヴィオラスペース』を1992年に東京で創設し、関わりつづけているので、ご存じの方も多いのではと思います。

期間中は、ほぼ毎日マスタークラスが開かれました。同音楽院の今井、フランシーン・スハトボーン、スヴェン・アルネ・テプル、マルヨライン・ディスパに加えて、同音楽院卒業生のジュディス・ワインベークも指導や演奏に参加しました。
演奏会では、コンクール審査員たちも教授陣や学生に交じって舞台にのぼることも。これは他の音楽祭やコンクールではなかなか見られない光景でしょう。

なお、コンクールの審査員長は、ヴィオリストではなく、新進アーティストのためのコンサルタント・アドバイザーで、音楽院で教鞭を執るアルト・ヤン・ファン・デル・ポルが務めました。コンクール審査員には、ソリストで作曲家でもあるガース・ノックス、ヴィオリストでヒンデミット研究者のランスダウンに加え、フィンランドのリリ・マイヤラ、第4回の同コンクール優勝者のアルメン・ナザリアンらの活躍著しいヴィオリストたちも参加しました。同音楽院のヴィオラ指導陣は、審査メンバーに含まれていません。

学びあえる場の価値

なお、開催のようすはストリーミング中継でネット配信されましたが、残念ながら現在は公開されていません。

フェスティバルを締めくくるための最終コンサートとして企画されていた11月27日の夜公演は、オランダの部分的ロックダウン期間の直前にかかってしまったため、キャンセルされました。こちらは2022年4月16日に延期されたので、4月を楽しみに待ちたいですね。音楽院の学生たちや教師、招聘されたガース・ノックスらソリストが舞台にのぼり、有志による即興演奏も予定されています。

ベテランから学生まで、幅広い層のヴィオリストが集う同フェスティバル。新しい才能を育てていくため、指導陣だけではなく、それぞれが積極的に関わりあって学びあえる場の価値というものについて、改めて考えさせられました。
取材・文 安田真子