■日曜・月曜定休
Closed on Sundays & Mondays
10:30~18:30
112-0002 東京都文京区小石川2-2-13 1F
1F 2-2-13 Koishikawa, Bunkyo-ku,
Tokyo 112-0002 JAPAN
後楽園駅
丸の内線【4b出口】 南北線【8番出口】
KORAKUEN Station (M22, N11)
春日駅 三田線・大江戸線【6番出口】
KASUGA Station (E07)
写真:“駅の税関吏による荷物検査、19世紀” / Illustrated Australian News, 1 June 1889 by Museums Victoria
さて、穴のわけをこれから説明しよう。全部の楽器がケースから取り出されると、キリを持った一人の男が進み出てきた。税関吏が一台のチェロを横に立てた。私には彼等が何をしようとしているか、すぐにピンときた。
すばやく前に出てチェロを逆さに立て、緒留糸を外してエンドピンを引き抜いてみせた。私の動作をじっと見つめていた税関吏が「何をしようとしているのか。」と私に尋ねるので、「さあ、これで楽器に穴をあけないで内部が見られますよ。」と言うと、彼は笑いながら「良い勉強をした。これからは楽器を損傷しないようにしましょう。」と言って、私の行動を理解してくれた。
この穴あけ作業は、イタリアから入ってきた楽器を、フランスの税関吏が行なったやり方を習ったものであることは疑いの余地はなかった。このことは相互啓発の良い例で、結果は残りの検閲も無事に済ませることが出来た。
それからチェロの再梱包が三時間程かかって終ったが、次の列車の時刻までまだ数時間あった。もっとも次の列車にケースが持ち込めるかどうかは、はっきりわからなかったのだけれども。そこで問い合わせてみると、 荷物を携行したいのなら特別車を買い取れば良いことがわかった。残念なことに、その列車はベルリンまでしか行かず、もう一度乗り換えねばならなかったが、私はそうすることに決めた。
私は時間をつぶすために、この国境の地を見物しておこうと思って出かけてみたが、結局すぐに駅へ戻ってのんびりとすることにした。
ドイツとロシアの国境地方ほど、わびしく荒廃した土地は他のどこにも見られないひどさだったから。私はレストランに入ってタ食を注文した。それを待っている間に、数人の官吏が入って来て、葡萄酒を飲みに簡易食堂の方へ行くのが見えた。その中に駅長とその友人もいた。私が彼等の方に目を向けると、私の傍を通って出て行く時、駅長は軍隊式の挨拶を私にした。
私はそこで立ち上がって彼とその友人に、葡萄酒のお付き合いをお願いした。彼等は席に着いたのだが、その友人は2、3分してゆっくり出来ないことを詫びて出ていった。私は駅長にタ食を共にしてくれるようにお願いした。そこで我々は、楽しいタ食と一瓶のラインワインを飲み、さらにコーヒーと最後の一杯の小さいグラスで切り上げたのであった。
写真:“鉄道駅ベルリンフリードリッヒシュトラーセ1900” Train station Berlin Friedrichstrasse 1900 by wikimedia commons
私はつとめてケースのことには触れないように心がけ、色々な話題に興じて楽しいひと時を過ごした。食後、彼は自分の職場に戻らねばならなかったが、一時間もしないうちに戻って来て、臨時に客車が増結されるということを教えに来てくれた。
私のケースは二つの車室の片方に入れられ、さらにその隣の第三室も一人占めすることが出来た。その上、彼はベルリンの駅長宛てに書いた手紙も渡してくれたのであった。かくて私のとるにたりない好意が、色々なわずらわしさを取り除いてくれる働きをしてくれたのであった。
彼は車窓へ別れを告げにやってきて、「又お目にかかれると嬉しい」と、そしてベルリンでもし困ったことが起きたら、彼宛てに電報を打つようにつけ加えた。私には、彼が相当な才能と地位のある人だということが理解出来た。