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イタリア各地の劇場を巡るコンサート・シリーズ

冬の寒さが緩みつつあるこの頃。陽気が良くても外出を控える日が続き、もどかしさを感じているという方もいらっしゃるかもしれません。
こちらの記事では前回に引き続き、イタリアの室内楽シーンにおける興味深いプロジェクトをご紹介します。映像を通して、イメージ上の旅に出てみてはいかがでしょうか。

イタリア各地の劇場を巡るオンライン・コンサート・シーズン
『Silenzio in sala a tempo di Musica』

通常なら、10月に始まっていたはずのクラシック音楽のコンサートシーズン。昨秋はコロナのため、あちこちの劇場で待望のシーズンが中止に追い込まれたことは、音楽関係者や音楽ファンの心に深く傷を残しています。

イタリアもその例を漏れませんでしたが、コロナ禍の最中に誕生したとある全国組織のおかげで、各地の音楽協会が集まり、インターネット上で、疑似的なひとつのコンサートシリーズを形づくっています。

同コンサートシリーズを実現したのは、”AMUR”というイタリアの全国的な音楽団体です。2020年4月にミラノやナポリ、ボローニャなどイタリア各地の音楽友の会や室内楽協会、弦楽四重奏ソサエティといった計8つの音楽鑑賞団体によって創設されました。

昨年12月にはポータルサイトが公開され、現在では、所属団体のコンサート情報や、オンラインコンサートの映像をまとめてチェックすることができるようになっています。
今では所属団体も増え、北はトリエステ、南はシチリアまで、各地で室内楽コンサートの開催に情熱をかける人々の力が寄り集まっています。

AMURが企画する『Silenzio in sala a tempo di Musica』こそが、今年1月から4月にかけて、全14回のコンサートを計14の都市からストリーミング配信を行い、オンライン上で一つのシーズンを形作っています。

今までは、それぞれの地域で独立して活動していた各地の音楽鑑賞団体の力を寄り集め、それぞれの劇場や歴史的なホールでコンサートを開き、ネット上に公開してリレー形式でつないでいくという魅力ある企画です。

個性のあるオンラインコンサート

ストリーミングの映像では、住民が誇る歴史的な広場や教会が映し出された後、劇場など歴史的建造物の一室で開かれる無観客のコンサートが楽しめます。

ホールの臨場感、響きを生かした音が楽しめます。音楽と映像の相乗効果を狙ったオンライン・コンサートで、映像の美しさは特筆すべきものです。ドキュメンタリー形式の映像からは各都市の個性が感じられます。
また、映像だけではなくプログラムにも各団体の特徴が打ち出されています。

(写真)シチリア・カターニアでのコンサート

ペルージャ・プリオーリ宮『公証人の間』でのピアノ四重奏

1月24日のコンサート映像では、歴史あるペルージャの音楽協会の代表者が「コンサートシーズンが通常通り行われていたなら、2680回目になるはずだった演奏会」だと語っています。
さらに、「困難な状況の中、払い戻しを受けずにいるシーズンチケット会員たちの言葉に勇気をもらいました」とも振り返って、聴衆とのつながりの大切さを強調していました。

映像にはパルマ・トリオのチェリストで、指揮活動でも知られているエンリコ・ブロンツィも解説者として登場しています。
いわく、ブロンツィたちがシューベルトの五重奏『鱒』を演奏するはずだったけれど、ある出演者の都合でキャンセルとなり、若手のピアノ四重奏団体『クァルテット・ウェルター』が急遽代役を務めることになったとのこと。

解説に続いて、未完成のグスタフ・マーラー唯一のピアノ四重奏曲、そしてブラームスのピアノ四重奏曲の情熱的な演奏を鑑賞できます。

中世に遡る歴史を持つ宮殿の大広間『公証人の間』を舞台に開かれたコンサート。映像にも迫力があります。

ストリーミング中継には世界初演の曲も登場

同企画では、今後、以下のコンサートが予定されています。

・2月21日 クレモナ弦楽四重奏団
・3月21日 Hsin Yun Huang(ヴィオラ)
・3月28日 アレッサンドロ・カルボナーレ(クラリネット)、I Virtuosi Italiani
・4月4日   アカデミア・ヘルマンス

2月21日にミラノから中継されるクレモナ四重奏団のコンサートでは、1949年ボローニャ生まれの作曲家ファビオ・ヴァッキの委嘱新作が世界初演されます。『弦楽四重奏曲第6番、J.S.バッハへの手紙』という題名の新曲に続き、J.S.バッハの『フーガの技法 BWV1080』が披露される予定。ドラマチックな作風のヴァッキが、どのようなクァルテットを書いたのか楽しみです。

イタリア中部アンコーナのコンサート開催状況

シリーズのトリを飾るアカデミア・ヘルマンスのコンサートは、イタリア中部・アドリア海沿いにあるマルケ州の州都、アンコーナで開催予定。オリジナル楽器のアンサンブルによるJ.S.バッハのカンタータがプログラムには並んでいます。

同コンサートに関わるアンコーナ音楽友の会のオーガナイザーのアンナリーサ・パヴォーニさんに、メール・インタビューを行いました。

マルケ州では、今も音楽活動を休止せざるを得ない状況が続いています。そのような中、聴衆と音楽家とのつながりを維持するため、ペーザロ、マチェラータという周辺都市の協力のもと、小さなコンサート・シーズンを企画・実現しているとのことです。

コンサートの運営方法はコロナ禍の前後でどのように変わったのかをパヴォーニさんに尋ねると、このような答えが返ってきました。

「コンサートのオーガナイズ方法は同じです。もちろん、昨年の最初のロックダウン後は感染防止のプロトコルに従い、非常に気を遣って行いました。入場できる観客の数も非常に少なくなりましたが、そこで見られた人々の反応は素晴らしかった。また生演奏を聴きに行きたいと求めていたのです。
この先については、まだ様子を見ないといけません。
休憩を挟まずに通しで1時間あまりのコンサートを開きましたが、個人的には、演奏会の様式というものを見直す必要があると確信しています。少なくとも可能なものに関しては、コンサートの時間の長さや開始時間について考え直すということです。
コンサートの儀式的な部分を、よりスピーディになった今の時代に合わせるのです」
AMURについては、「イタリアにおける高名なコンサート開催組織のネットワークであり、素敵な機会です」とパヴォーニさん。

マルケ州でも、ミラノのあるロンバルディア州と比率で言えば同等にコロナウィルスの被害がありました。
そのような中、音楽というものをどう感じていたのでしょうか。

「最初のロックダウンの時には、本当に1日中家に籠っていて、音楽は大きな癒しでした。聴くだけではなく、練習をし、娘と一緒に演奏していましたね。いつもと違う過ごし方で、時間があって。音楽は今でも大切な友達で、いつでも何か特別なことを私たちに語りかけてくれるんです」

4月4日のコンサートでは、パヴォーニさんたちの力で、アンコーナの劇場からコンサートがストリーミング中継されます。
全ての映像がアーカイブされるわけではないので、ご都合がつく方は、ぜひライブで視聴してみてくださいね!


♪Silenzio in sala a tempo di Musicaの情報
https://www.comitatoamur.it/calendario-silenzio-in-sala-a-tempo-di-musica-2/#1609325396633-364bde3d-3c57

♪AMURの過去のコンサート映像

https://www.comitatoamur.it/multimedia/
取材・文 安田真子