■日曜・月曜定休
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この頃、すでにセルヴェ氏は、かなり年をとっていたのだが、知りあって間もなく故里のハル市(ブラッセルの南に位置する小都市)で亡くなってしまった。市民は彼の死をいたみ等身大の大理石の像を建てた。その碑は、右手に弓を、左手にあのストラディヴァリウスのチェロを持っている。生前のセルヴェ氏は、どんな人に対してでも親愛の情をもって接し、物腰の柔かい人だったから多くの人に愛された。
彼には息子がいて、そのうちの一人は彼の跡を継いでブラッセル音楽院の第一チェロ奏者となった。彼は例のストラディヴァリウスのチェロを弾いていたが、ある日、私はハーモニー・ホールでのコンサートで、彼の弾く音を聴いた。この時、彼は弦楽四重奏団の一員で、ファースト・ヴァイオリンがヴィニアフスキー、セカンドがコリンズ、(ヴィオラはちょっと忘れてしまったが)というメンバーであった。
期待していたストラディヴァリウスのチェロの主旋律が奏でられる……。しかし、それは見事にはずれた。その音は、内にこもった、いわゆる我々が言う“樽”や“桶”のようなといったものだった。私は大変驚き、失望もした。このチェロには、たまたま表板、裏板ともに少しアーチが高いので、ややティーファートーン(音色がかたいこと)であることは知っていたが、これほどひどいとは思ってもみなかったのだ。
私は、プログラムの一部と二部の合い間に急いでステージに行って調べてみた。ここで理由は明白になった。このホールのステージは、空洞状の木製オーケストラ・ボックスの上に蓋がしてあるといった程度の造りだったのだ。その上、セルヴェ氏は木製のエンドピンを使用するくせがあったので、床が木であった場合に、どんな楽器であるにせよ音色に対して悪い影響が出るのである。どんな楽器を弾いても桶を叩くような音響効果になってしまうのだが、相手がストラディヴァリウスのチェロとあって、それが更に倍加されてしまったのだ。