(写真)裏板に細やかな木材の模様が浮かび上がるニコロ・アマティ年製の1628年製ヴァイオリン
■日曜・月曜定休
Closed on Sundays & Mondays
10:30~18:30
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1F 2-2-13 Koishikawa, Bunkyo-ku,
Tokyo 112-0002 JAPAN
後楽園駅
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さて、同館の展示室担当職員である安田惠美子さんに今回ご紹介いただくのは、アンドレア・アマティに始まるアマティ一家三世代の楽器です。同博物館では、名器がずらりと並ぶ第5展示室で鑑賞することができる楽器です。
第5展示室には、クレモナ市とスイスのスタウファー音楽財団が購入した楽器が、ほぼ年代順に並んで展示されています。劇場の舞台にかかる幕を思わせる深紅のビロードが内装に使われているのが特徴的な部屋です。
「最初の2台は、1539年工房を開け、クレモナで最初に名を馳せたアンドレア・アマティがフランス宮廷のために作った楽器2台です。そのアンドレアの息子ジローラモの楽器、そしてジローラモの息子ニコロ・アマティの楽器も並んでいます」
「私はこのアマティ一家の楽器がとても好きです。非常に穏やかで愛らしくて、静かな感じがします。イタリア語で『アマート(Amato)』には「愛された」という意味があります。非常に調和が取れた楽器を作っていた人たちだったのではないかと思っています」
アンドレアの孫にあたるニコロ・アマティは、現在のヴァイオリンの形が欧州の国々に伝わり、やがて世界に広がっていくうえでの『起源』のような存在だと安田さんは考えています。
「(ニコロ・アマティの)お弟子さんの中にはアントニオ・ストラディヴァリやアンドレア・グァルネリがいましたし、ミッテンヴァルトのクロッツも噂によるとニコロ・アマティについたとか。そこから派生するフランスのヴィヨームやルポーなども、全部クレモナがオリジンなのです。もちろんニコロ・アマティのお師匠さんはお父さんのジローラモで、ジローラモのお師匠さんはお父さんのアンドレアだったわけですが、そういった意味で、ニコロ・アマティの存在というのは一番重要なのではないかと私は思っています」
◆ニコロ・アマティ(Nicolò Amati) 1684年製ヴァイオリン "Hammerle"
https://artsandculture.google.com/asset/nicol%C3%B2-amati-1684-hammerle-violin-front/xwFcplfJ6_Ac0g
(写真)『宝箱』と名づけられた第5展示室中央に置かれているニコロ・アマティのヴァイオリン
さらに、ヴァイオリン博物館の『フレンズ・オブ・ストラディヴァリ』のセクションに2021年9月現在展示されているもう1台のヴァイオリンにも、安田さんは愛着を持っています。バーミリオン音楽博物館が所有するニコロ・アマティ初期のヴァイオリンです。
「私が今一番好きな楽器です。1628年でまだお父さんが生きているので、ラベルには『ジローラモとアントニオ・アマティの製作』とお父さんとおじさんの名前が書かれています。父親が生きている間は、たとえ息子が楽器を作っても、お父さんのラベルを入れる習慣があったんですよ。(ニコロは)まだ一人立ちしていなかったのです」
こちらの楽器の魅力を一言で表すなら、『純粋無垢』だと安田さんは語ります。
「清らかというか、穢れがない感じがします。(ニコロは)まだ若いですし、この3年後にお父さんはペストで亡くなり、彼が工房を一手に引き受けなければいけなくなってしまう。クレモナでも、今のコロナウィルスではないですけど、すごく死者が出てしまって、その後大飢饉が来てとても大変な時期を彼は一人で乗り越えなければならなかったんです。それが起こる前の楽器という意味でも、とても感慨深いですね。
非常にシンプルで、一言で言えば純粋無垢。 裏板は2枚板で仕上げられ、縞模様が非常に細やかできれいです。アマティの楽器はどれも本当に美しいんですよ」
◆ニコロ・アマティ(Nicolò Amati) 1628年製 ヴァイオリン
https://emuseum.nmmusd.org/objects/6572/violin?ctx=f5eebf4e-638e-4438-a5b6-0b632c39d482&idx=0
(写真)期間限定でバーミリオン音楽博物館から特別に貸し出され、展示されている1628年製のニコロ・アマティのヴァイオリン
アマティ一家の楽器が好きなわけを聞くと、こう返ってきました。
「まろやかな部分です。ヴィオラもそうですが、全て丸っこいんです。f字孔の『目』の部分、愛らしい感じがしませんか? でこっぱちな所も好きです。スクロールが真ん丸なのも特徴ですよね。ほぼ完全な円を描いているところも好きなんです。醸し出すハーモニーも調和がとれていて、落ち着いた感じ。波乱に富んだ歴史をたどった一家ではあるんですが、調和に満ちた楽器だという点が大好きです。
楽器には作者の個性が絶対に出ると思うんですよ。人が作ったものですから、楽器のエネルギーのようなものがありますよね。それがすごく穏やかな感じ。アントニオとジローラモが兄弟げんかしたり、お父さんがペストで亡くなったりとか大変だったんですが、それにも関わらず、作っている楽器が非常に調和が取れているという感じがします。
グァルネリ一家の楽器も好きですが。スクロールはひしゃげていてぺったんこです。それが彼らの魅力ですが。時代も異なりますが、音にも影響していて、彼らの方が野太い音がする楽器が多いですね」
(写真)裏板に細やかな木材の模様が浮かび上がるニコロ・アマティ年製の1628年製ヴァイオリン
製作されてから400年近くが経つ楽器には、修理・修復の手が加わっていることがほとんどです。各パーツに注目したり、オリジナルの状態を維持する同時代の楽器と比較したりして、製作当時の状態を想像しながら鑑賞すると、新たな発見があります。
「楽器の色については、手つかずの『メシア』(アントニオ・ストラディヴァリ、1716年製ヴァイオリン)はともかくとして、オリジナルからは絶対に変化しています。人の手が入り、リペアされてきています。
形もその気になれば変わります。ネックは細長いものに挿げ替えていますが、スクロールは注意書きが無ければオリジナルですね。
先述したニコロ・アマティのヴァイオリン(バーミリオン音楽博物館所蔵の1628年製)の隣に展示されているジローラモ・アマティのヴィオリーノ・ピッコロは、テールピースと指板が1613年製作当時のオリジナルのままという貴重な楽器です。
「ヴィオリーノ・ピッコロというのは子ども用ではなく、高音を奏でるための楽器。フルートのピッコロと同じですよね。当時は顎当てがなかったので、胸に直接当ててヴァイオリンを弾いていましたから、ポジション変更ができなかったんですよ。ハイポジションが使えなかったので、代わりに小さい楽器に取り替えて高い音を奏でていました。その後、顎当てなどが発明され、このような楽器を使わずに済んだので廃れてしまうのですが、使われなかったおかげで、オリジナルのまま残っているんです。他の楽器は皆モダン化されて、指板もテールピースも取り替えられてしまっています。そういった意味でも非常に歴史的価値が高い楽器です。他の楽器のオリジナルの姿が分かるという、貴重な例だと思います」
今や町を象徴する的存在のヴァイオリン博物館は、地域にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。安田さんに尋ねてみました。
「『村おこし』にとても役立っていると思います。いわば町の物産館、郷土品館の役割を果たしていると思います。全部クレモナ生まれの楽器ですから。
これがヴァイオリンの町・クレモナの特色で、ここで全てが生まれたと言ってしまっても過言ではないと思うんです。ニコロ・アマティのおかげでストラディヴァリが出て、ストラディヴァリのおかげでフランスでヴィヨームを始めとしてヴァイオリン作りが発展していった。ミッテンヴァルトもそうですし、他の国のヴァイオリン作りがぐんと展開していくことができたのも、そもそもクレモナの町があったからという意味で、それを大いに打ち出すために博物館は貢献しているのではないかなと思います。観光の点から見ても、博物館の貢献度は大きいと思います」
地元クレモナの市民は、同館に対してどのような思いを抱いているのでしょうか。
「クレモナの町では、今ではヴァイオリン博物館なしでは語れないというほど認知度は高く、クレモナという町のアイデンティティとして、弦楽器が打ち出されています
秋にストラディヴァリフェスティバルもありますし、コンサートなどが行われたり、モンドムジカがありますが、そういった一連のイベントとこの博物館は深く結びついていて、貢献していると思います」
それでも、素直に表現しないのがクレモナ市民流なのだとか。
「クレモナ人ってひねくれていて、自分の町のことをけなすんです。でも心の奥底ではすごく愛していて『おらが村』意識が強い。絶対口にはしないけども、この博物館を誇りに感じていると思います」
(写真)国際弦楽器コンクール「トリエンナーレ」の金賞受賞楽器の展示室に立つ安田さん
クレモナに工房を構えた弦楽器職人による楽器たちは、その存在で町の歴史を雄弁に物語っています。同館の第8展示室には、クレモナで3年毎に開かれている国際弦楽器コンクール「トリエンナーレ」の金賞受賞楽器が展示されており、現代の弦楽器製作家の作品もまとめて鑑賞することができます。
現代のヴァイオリンにつながる大きな歴史の流れを感じながら楽器が鑑賞できる同博物館の情報や関連資料は、公式サイト上でも確認できます。ぜひチェックしてみてくださいね。
◆クレモナ ヴァイオリン博物館
https://www.museodelviolino.org/en/