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迫力のバッハ演奏映像シリーズ『オール・オブ・バッハ』 in the Netherlands

7月28日はJ.S.バッハの命日。気温の高い夏に、荘厳で涼やかな教会に鳴り響くバッハの音楽と過ごしていただければと思い、今回はバッハ作品を堪能できるオンラインの映像シリーズ『All of Bach (オール・オブ・バッハ)』をご紹介いたします。

既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、『オール・オブ・バッハ』は、オランダバッハ協会が2013年に開始し、現在も継続しているプロジェクトです。
オランダバッハ協会は、昨年ちょうど100周年を迎えた歴史あるバロックアンサンブルです。ヨーロッパの古楽シーンを牽引する存在として、国際的に知られています。

その協会による『オール・オブ・バッハ』は、J.S.バッハ全作品の映像をコンプリートしてオンライン公開するという壮大な企画。2022年7月末現在、全1080作品のうち、なんと353作品(!)もの映像がすでに公開されています。
「誰でもバッハの音楽にアクセスできるように」と、ネット上で無料で公開されている点は本当に素晴らしく、音楽シーンを代表するプレーヤーによる演奏は、聴けば聴くほど引き込まれる質の高さです。

バッハの宇宙をひとまとめにする映像集

『オール・オブ・バッハ』が描くのは、オンラインアーカイブのようなかたちで、世界じゅう誰でもバッハの音楽を最高の音楽家たちによる演奏を通して触れることができる状態。こんなこと、J.S.バッハ本人はきっと想像していなかったでしょうね……。

プロジェクトの構想を伝える紹介映像はこちらです。

おすすめの映像5選

既に多数のバッハ作品の演奏映像が公開されており、どれもが興味深いため、どの映像から視聴し始めようかと悩む方もいらっしゃるかもしれません。そこで、筆者が独断により選ばせていただいた映像を5つご紹介したいと思います。

①ブランデンブルク協奏曲第5番

こちらの映像では、オランダ黄金時代の名画に囲まれた空間で、ブランデンブルク協奏曲第5番が演奏されています。場所はアムステルダム国立美術館。
レンブラントの『夜警』など、有名な絵画がずらりと並ぶ回廊で鳴り響くJ.S.バッハのブランデンブルク協奏曲は、まるで名画のように非常にスリリングで鮮やかな名演で、聴き始めたら目が離せないほどの迫力と見事な均衡を感じさせます。

レンブラントの『夜警』が完成したのは1642年で、この演奏の録音に用いられたチェンバロは1640年製のオリジナル楽器。生まれた時代を同じくする楽器と絵画が、現代の音楽家の手によって共鳴するかのようです。


② 2つのヴァイオリンのための協奏曲

ヴァイオリン2本が宙を舞うように自在に奏でられ、弦楽器好きにとどまらず多くの人を魅了する『ドッペルコンチェルト』もファンの多い作品ではないでしょうか。
弾き振りでソロと指揮を務めるのは佐藤俊介さん、もう一人の独奏はエミリー・ディーンスさん。映像は2016年にアムステルダムで収録されたものです。
こちらの演奏会から1年半ほど後に、佐藤さんはオランダバッハ協会の芸術監督兼コンサートマスターに就任することになりますが、2013年からすでに共演を重ねてきた佐藤さんと協会のプレーヤーたちのアンサンブルは、継ぎ目がなくなめらかで、聴く人を名曲の世界にごく自然に誘ってくれます。


③無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ

2019年、佐藤さんは『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』の収録をするにあたって、オランダ在住の10歳から18歳までの若いヴァイオリニスト7人にバロックヴァイオリンと弓に親しむための機会が設けられました。バロック楽器に最初はこわごわ触れている若手たちに、楽器の構え方から指導。オランダの財団やコンクール組織とのコラボレーションで実現した、バロック楽器の世界へと新たなステップを踏み出すための刺激的な場となりました。

若手ヴァイオリニストたちは、それぞれ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』の収録にも参加し、その演奏は『オールオブバッハ』のプロジェクトの一部となりました。各プレーヤーが若い感性でとらえたバッハの音楽が鑑賞できます。

もちろん、佐藤俊介さんの録音した『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』の名演も聴くことができます。

④無伴奏チェロ組曲第5番

チェリストにとって、ライフワークとして取り組みたい作品といえば『無伴奏チェロ組曲』ではないでしょうか。
チェリストの旧約聖書ともいわれるこの作品から第5番を、鈴木秀美さんが演奏した映像も『オールオブバッハ』の一部としておさめられています。
スコルダトゥーラでチェロが重厚に響き、いつも聞きなれたチェロとは異なる質感の音色が導き出され、独自の世界観を見事に伝えてくれる映像です。

⑤『音楽の捧げもの』よりCanon a 4 Quaerendo invenietis (BWV 1079)

曲目開設には「巧妙なパズルのような作品」として紹介されている曲。ヴィオラ・ダ・ガンバが主役として活躍し、他三部のパートをヴァイオリンの佐藤さんが一手に引き受けています。
映像としてもユニークで、曲のミステリアスさをイメージとしても描き出すような画となっており、視聴していて引き込まれます。大きな宮殿に迷い込むような音楽体験をさせてくれる作品です。
ミネケ・ファン・デル・フェルデン(Mieneke van der Velden)さんが奏でるヴィオラ・ダ・ガンバは、語り口は穏やかなでありつつ野性味や人間味がある、魅力的な演奏をきかせてくれます。

バッハの宇宙の広がりに触れるオンラインスペース


現在公開されている350以上から僅か5作品を紹介させていただきました。このシリーズ『オールオブバッハ』は、量だけではなく、質も圧倒的で、他にも素晴らしい映像ばかりが揃っていますので、ぜひチェックしてみてください。

ご紹介したようにYouTubeチャンネルで一連の映像が楽しめますが、オランダバッハ協会の公式ウェブサイトでは、より詳しい曲目開設演奏者のインタビュー映像なども盛り込まれていて、作品についてより深く知ることができるので、おすすめです。

◆オランダバッハ協会『オールオブバッハ』へのリンクはこちら(英語):
 https://www.bachvereniging.nl/en/allofbach

なお、制作にかかる費用など寄付で支えられており、プロジェクトに共感した場合、個人でもサポートをすることができるそうです。どんどん追加される新作も楽しみです。

この夏、『オールオブバッハ』を通して多くのバッハ作品に触れて、ぜひお気に入りを見つけてくださいね!
文 安田真子