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今回は フィレンツェから75km離れた港町・リヴォルノで活躍したトスカーナ派のヴァイオリン製作家アントニオ・グラニャーニ (Antonio Gragnani) を紹介します。

生い立ち

アントニオ・グラニャーニがどのように楽器の製作を学んだかは明確ではありません。フィレンツェで楽器作りの基礎を学んだと考えられていますが、トスカーナ(フィレツェを州都とするイタリア中央の州)派製作者の中でも個性的な製作スタイルで知られています。

楽器のモデル

スクロールは縦に長く伸びたような個性的なデザインであり、裏板のボタン部や、側板のエンドピン付近など数か所に「A・G」の焼印が押してあります。

楽器モデルは、当時のフィレンツェのヴァイオリン製作家が好んで採用していたシュタイナー型ではなく、アマティやストラディヴァリなどクレモナ派の影響を感じさせるデザインです。またフルサイズのヴァイオリンだけでも大型・中型・小型と大きさの異なるモデルを使い分けており、クライアントの要望に対応できるよう意識して製作していたと推測できます。

グラニャーニには際立つ特徴が多く、他のイタリア製作者との見分けが比較的つきやすいといえるでしょう。

象嵌(パフリング)にくじらの髭


象嵌の黒い部分にはくじらの髭を使用しており(通常は梨の木のような固めの木材を染めたものが用いられる)、イタリアにおいては他に例のない特徴です(17−18世紀にオランダで製作された楽器にはくじらの髭が用いられていることがある)。

グラニャーニはリヴォルノという海沿いの都市を拠点に活動していたため、内陸のメーカー達が入手できない特殊な素材を楽器作りに用いることができたと考えられています。

製作上の功績

グラニャーニの作品は、使えるオールド楽器として演奏家たちに長くから愛好されています。

同年代のクレモナ派に比べると相場はリーズナブルだが、設計や作りの精度はそれらと大きく変わりない為、音色・音量ともにバランスが良く、特に昨今のオールド楽器の価格高騰においては、プレイヤーが現実的に所持できる数少ない銘柄の一つとして、ますます注目が高まっています。

写真:17世紀港町リボルノの地図

第4回はナポリの弦楽器製作者 アントニオ・ガリア―ノ2世(1791‐1860)を紹介いたします。

文:窪田陽平