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ミヒャエル・シュトゥルゼンホフェッカー(Michael Stürzenhofecker)は、オールド・イタリアンの名器のレプリカ製作における第一人者。製作した楽器は、優れた設計とプロユースに耐えうる音、名器に迫る美しいアンティーク・フィニッシュで定評があります。特にチェロの製作においては、まさに世界の第一人者として認知されています。文京楽器は2017年より日本総代理店を務めています。
2016年夏に注文したチェロ(マッテオ・ゴフリラー モデル)が完成し、2017年4月に北京で開催されたチェロ・フェスティバル参加の合間を縫って、本人自ら納品のため来日。最終調整のため来店したシュトゥルゼンホフェッカー氏に話を聞きました。
ーー今回来日した理由を教えてください。
北京のチェロ・フェスティバルに参加する予定が元々ありましたが、自分の製作した楽器は、最終調整まで責任を持って行うことをポリシーにしているので、良い機会と考え来日しました。
元々仏教や道教の考え方に共感する部分があったので、行きづまり感のあるヨーロッパとは違う日本には一度来て見たかったんです。この前も「葉隠」を読んだばかりです(笑)。
文京楽器の名前は、ピーター・ビダルフ氏(イギリス・ロンドンの一流鑑定家)から聞いて、随分前からよく知っていました。日本を代表する国際ディーラーだけど新作にも関心があるなんて面白いなあと。
10年以上前に、モンタニャーナとデルジェス・モデルのチェロを買ってもらったことをよく覚えています。その後は、財団からの注文製作へ専念していたので、楽器を納品する機会はありませんでしたが、昨年、パリで堀さん(文京楽器現社長)と会って話をするうちに盛り上がって、日本での総代理店をお願いすることになりました。
ーー何故、オールド・イタリアンの名器のレプリカを製作しているのですか?
オールド・イタリアンの名器を見たり、その音を聞いた時の感動が原動力なのでしょう。いわゆる新作楽器も良くできていると思うのですが、オールド・イタリアンの名器をとても美しいと思いますし、同じようなものを自分の手で作り上げたいと考えるのは、私にとってごく自然なことです。
これは、私の人生哲学とも通じるのですが、中途半端なエゴを出すのは嫌いです。人間も個人として存在しているのと同時に社会や自然の一部であるように、現代のバイオリンメーカーも、アンドレア・アマティに始まったバイオリンの歴史の一端を担っていると考えるべきです。その方がずっと健康的だし、本当の意味で自信が持てるような気がします。
ーー製作に関するポリシーを教えてください。
オールド・イタリアンの名器が持つアーキテクチャー(構造)、ウッドワーク(道具の使い方や木地の仕上げ)、ヴァーニッシュやパティーナ(ニスと風格)をできるだけ捉えた楽器を製作したいと考えています。
また、製作した楽器の音を最大限に引き出すために、セットアップは重要と考えます。白木の状態で仕上がったあと、一度必ずセットアップして音を出します。タイプや材料の異なる駒を2-3枚作ったり、ネックの太さを削ったりして、この段階で最高の状態に近づけていきます。納得のいかない場合は、板厚を調整するため削り直しの作業をすることもあります。
そのあと、自家製のオイルニスを塗って仕上げます。意図的にニスの表面にひび割れを入れたりすることもあります。この方が、ピカピカした仕上げよりも楽器として自然に感じるからです。
ニスを塗った後にも、セットアップと調整は入念に行います。駒をさらに作ったり、弦を何種類か試したりして、最高の状態で納品します。ヨーロッパであれば、弾いてくれるプレイヤーの好みを入れて調整します。これは、工芸品でありながら、使用される道具でもある「バイオリン」という稀有な存在に、最大の敬意を払うためでもあります。
ーー最後に日本のプレイヤーに一言。
私は、このバイオリン製作という仕事に携われることに、喜びと誇りを感じています。名器の値段が高くなっている昨今、新作メーカーの役割はますます重要になってくるでしょう。クラッシック音楽のレベルが高いだけでなく、独自の文化が豊かな日本の地で、私の製作した楽器が一人でも多くプレイヤーに愛されればいいですね。また日本に来る理由もできますし(笑)。
優れた製作家であるだけでなく、文化や哲学にも造詣の深いシュトゥルゼンホフェッカー氏。一方、日本滞在時は、レンタル・バイクで都内を一人で走り回り、食事に好き嫌いがなく日本食はなんでも平らげます。決して頭でっかちではない、実践的なインテリジェンスが、世界最高レベルの楽器を生み出す秘訣のようです。