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English Amati イギリスのアマティ


今回は18世紀中頃に活躍した職人のひとり、ベンジャミン・バンクス(Benjamin Banks)をご紹介します。
写真:バンクスの故郷 Salisburyにある大聖堂
バンクスは1727年、ロンドンから140km離れた南西部の町ソールズベリー(Salisbury)で生まれ、その地で楽器職人として働いていた叔父より製作を学びました。

彼の製作技法は土着の伝統的なものでしたが、「イギリスのアマティ」とも称されるように、楽器のデザインはニコロ・アマティ(Nicolo Amati)の影響が強く現れています。この田舎町の音楽活動が教会を中心としており、おそらく演奏様式と音色の相性を考えてアマティ・モデルを採用したのだと考えられています。

その典型的な作品がこの1790年製のヴァイオリンです。

アーチはアマティに比べ若干低く設計されており、ニスはバンクス特有の深い赤色で塗られ、若干透明度が低いものの、非常に高い品質をもっています。美しく彫られたスクロールと正確に施されたパフリングは見事で、彼の高い技術が見て取れます。

写真:VIOLIN Made by BENJAMIN BANKS, Salisbury, fecit 1790
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000, 122-123page

写真の1775年製のヴァイオリンのように、稀にスタイナー・モデルを採用することもありました。

それらはアーチが豊かで、f字孔の端が丸みを帯びるなどのシュタイナーの特徴がよく見て取れます。ニスは深い赤色ではなく金茶色のニスが塗られています。当時シュタイナー・モデルを多く製作した他のイギリス・メーカー達やドイツ・ミッテンヴァルト・メーカー達による作品と間違えられることもしばしばです。

写真:VIOLIN Made by BENJAMIN BANKS, Sarum, fecit 1775
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000, 120-121page

ヴィオラはシュタイナー・モデルを基に製作されたものが多く、サイズは386mmから391mmと、他のブリティッシュメーカーに比べ小振りな作りです。これは演奏上の操作性を意識しての設計と考えられます。

写真はその典型の1785年製の作品。端の丸みを増したf字孔や、細いペグボックス、ややフラットなアーチ、C部の長いコーナーに対する短いパフリング・デザインなど、彼独自の特徴も見て取れます。

写真:VIOLA Made by BENJAMIN BANKS, London, ca.1785
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000, 124-125page

チェロはアマティ・モデルを採用したものが多く、豊かで温かみのある音色と、やや小振りなサイズのために高い演奏能力を備えていることから、現代の演奏家が高く評価しています。

興味深い点として、1775年頃からストラディヴァリの1730年製チェロ"Pawle"を製作するようになったことが挙げられます。これはロンドンのクライアントから定期的な受注を得るようになったためであり、都市部においてもバンクスの作品評価が高かったことが伺えます。

写真:Trade Card of "JAMES & HENRY BANKS"
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000, 48page

また、ロンドンの弓職人であったジョン・ドッド(John Dodd)に「BANKS」ブランドで弓を委託製作させており、1757年には開発されて間もない”スクリュー・アジャスター”機能付きの弓(当時フロッグに皮等の素材で出来たクリップを挟むことで弓の張力を調整した”クリップ・イン”機能の弓が普及していた)に関する宣伝広告の掲載文書が残っているなど、優れた商才と先見性を持っていたことがわかります。


写真:VIOLIN BOW Made by JOHN DODD, Branded "BANKS"
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000, 365page

18世紀始めにノーマン(B.Norman)やワムスレイ(P.Wamsley)らによってシュタイナー・モデルが、中頃にバンクスらによってアマティ・モデルが、それぞれロンドンを中心に導入され、弦楽器製作は徐々に多様化を進めました。

イギリスの貿易による商業的成功とともに、ストラディヴァリとデルジェスらの名器たちを受け入れる下地を整えていったといえるでしょう。

<参考文献 >
“The British Violin” - British Violin Making Association, 2000


次回はストラディヴァリモデルを用いたイギリスの製作家を紹介します。

文:窪田陽平