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連載『心に響く、レジェンドからのメッセージ』

1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。

第23回 堀 正文/ Masafumi Hori

引用元:季刊誌『Pygmalius』第31号 1990年10月1日発行
■堀 正文 プロフィール

5歳からヴァイオリンを始める。 京都市立堀川高等学校音楽科(現京都市立京都堀川音楽高等学校)を経て、フライブルク音楽大学に留学し、ウールリヒ・グレーリング(ドイツ語版)、ウォルフガング・マシュナーに師事する。在学中より、ハイデルベルク室内合奏団のソリストとして、ヨーロッパ各地への演奏旅行を行う。1973年、同大学を卒業と同時に同大学の講師となる。1974年、ダルムシュタット国立歌劇場管弦管弦楽団の第1コンサートマスターに就任する。同年、フランクフルト放送交響楽団とのヴィニャフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番を共演。
1979年、東京でNHK交響楽団とのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演したのを契機に、9月、NHK交響楽団にコンサートマスターとして入団。その後、長年、ソロ・コンサートマスターを務め、同楽団退団後、現在は同楽団の名誉コンサートマスターに就任している。N響での功績に対して有馬賞を受賞している。
1988年には、ヴァーツラフ・ノイマン指揮/チェコ・フィルハ-モニー管弦楽団日本ツアーのソリストとして共演するなど、海外の著名なオーケストラへの客演も行う。
演奏活動のかたわら、ジュネーヴ国際音楽コンクール、フォーバルスカラシップ・ストラディヴァリウス・コンクール、レオポルト・モーツァルト国際ヴァイオリン・コンクール、シュポア国際コンクール、仙台国際音楽コンクール、名古屋国際音楽コンクール、日本音楽コンクールなどの音楽コンクールの審査員を務め、また桐朋学園大学主任教授として後進の指導にあたる。

モーツァルトのソナタ 全曲演奏が課題

堀正文さんには、以前「ピグマリウス」第10号でおつきあいいただきました。5年前と少しも変わらない若々しさ。相変わらず多忙な演奏活動の合間、楽器の調整のた めに文京楽器の本社にみえた機会に、堀さんの今をお伺いしたものです。 ステージ上ではお目にかかれない、ラフな出で立ちで、精力的に話す素顔は魅力的でした。

 この前、モーツァルトが好きだということを、ちょっと話しましたけれど、それは今でも変わってません。やっぱり、気になってまして、弾く機会もあるんですが、どうしても音楽会で与えられた課題というのが先行してしまいます。自分の思ったテーマがなかなかできませんね。 でも、ゆくゆくはモーツァルトのソナタ全曲演奏をやりたいですね。

 

 同時に「音の美」の追及という課題があります。もちろん音の美だけじゃなくて、音のスタイル、組み立て、いろいろありますけれども、ヴァイオリンの存在は特に、音の美しさにあると思うし、僕自身がヴァイオリンの魅力にとりつかれ たのも、楽器の音色の美しさですからね。 出しうる限り、美しい音を追及していきたい。それには、練習とか音楽の勉強のほかに、自分の感性、知識、教養・・・、いろんなものがあいまって、音につながっていくものです。音がきれいなだけじゃ、だめですね。 


音色の変化も、一色じゃあね。楽しさ、 厳しさ、さまざまな要素が出せないと。 小さい頃は、楽しくて活発なのが好きとか、いい音だとか感じていて、精神性で謳うようなのは、あんまりピンとこなかったですよ。


 ところが、年とともにひとつの曲の音を仕上げるのに、時間がかかるようにな ってきた。それは年齢のせいで、筋肉が硬くなったとか、骨が硬くなったというのではなくて、自分のなかの音楽に対する要求度が高くなってくるんですね。 大家のメニューイン (1916年、ニューヨーク生まれ)の、70歳を越えた素晴らしい演奏を聞きましたよ。 パガニー ニでもバッハでも、両方素晴らしい。 それで彼は「70歳になっても進歩している」というんです。 

 クラウディア・アラウ( 1903年、 チリ生まれ)も「80歳になって、やっと筋肉の使い方をマスターした」って。 死ぬまで、音楽の追及をしていくものなんでしょうね。 

音の美のベールを破れないストラディヴァリウス

 いいものにはキリがない、といいますけれど、楽器に関しては僕らに買えるキリ、というのはあるんですね(笑)。 でも、後退はできませんでしょう。 ですから「これがだめならこれ」というので、 かれこれ100本以上の楽器を弾いています。 今は2本持っています。1本は新しいもので、練習用。もう1本はストラディヴァリウスです。

 

 これはストラディヴァリウスと、ガル ネリ・デルジェスを足して2で割ったような状態でね。デルジェスは意志が強くて、男性的で マスカリンタイプですが、ストラディヴァリウスは、甘美な音色でオールマイティな楽器です。だれが弾いても、 美しい音が出るんじゃないかな(笑)。 デルジェスは、メシの食いようひとつで音が変わるような楽器ですから、その 意味ではストラディヴァリウスは楽です。 ただ、自分が充実して音をダーッと出したいときは、デルジェスの強さに負けちゃうということがある。けれども、音の美しさのベールを破れないのがストラディヴァリウスなんです。 


 両方の要素があればいいというので、デルジェスの影響を受けたストラディヴァリウスが、現在のベストです。ここまで来るのに、積み重ねですね。すべてが積み重ねでしょう。

堀 正文(ほり・まさふみ)

1949年生まれ。ヴァイオリ ニスト。フライブルグ国立音大を卒業。在学 中よりヨーロッパ各地で演奏活動を行い、洗練されたスケールの大きな演奏で注目を浴び る。NHK交響楽団コンサートマスター。桐朋学園大学講師。 N響の演奏を年60~70回こな しながら、きたる11月20日は旭川で、21日は福岡でそれぞれリサイタルがある。 東京では 10月22日、 人見記念講堂で早稲田大学のオーケストラとコンチェルトを演奏する予定も。 

※上記プロフィールは1990年発行当時の記事より。