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連載『心に響く、レジェンドからのメッセージ』

1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。

第26回 マット・ハイモビッツ / Matt Haimovitz

引用元:季刊誌『Pygmalius』第29号 1990年4月1日発行
■マット・ハイモヴィッツ プロフィール

マット・ハイモヴィッツは、史上最年少の15歳で1976年度エイヴァリー・フィッシャー奨学金賞授与されるという、人並みはずれた名誉を得た。
彼は1970年、イスラエルのテルアビヴでルーマニア人の両親のもとに生まれ、アイレン・シャープ、ガボール・レイトに師事、カリフォルニアでチェロの勉強を始めた。1983年、イツァーク・パールマンの助言により奨学生としてジュリアード音楽院に入学し、レナード・ローズに師事。

1. 自分で「音を作る」というチェロの魅力

―チェロとの出会いは、どのようにして始まりましたか?


 イスラエルのテルアビヴで生まれました。母親がピアノをよく弾いてくれましたし、まわりにチェロを弾く人もいたりしました。自分で楽器をやるならチェ口にしようと、子供ごころに思ったものです。ピアノは、指をのせるだけで音がでるでしょう。でも、チェロですと、自分で音を作ってゆかねばなりません。そのことに魅力を感じたことは事実です。でも、実際にチェロを始めたのは、8才になってからでした。アメリカに来てからですね。テルアビヴでは、サッカー少年だったんです。初めに習ったのは、アイレン・シャープという人でした。初めからフルサイズのチェロで練習を始めました。その後レナード・ローズにつきました。


―レナード・ローズからどのようなことを学びましたか?

 彼からは、非常に多くのことを学びました。人格者で私にとっては、まるで自分のおじいさんのようにやさしい人でした。レッスンの送り迎えから日常のさまざまなことまで、めんどうを見てくれました。彼はレッスンというよりも、彼の弾く姿から学ぶことの方が多かったような気がします。彼は少しも自分の考えを押しつけることはしませんでした。私のような子供にも自分の曲は自分で判断して弾くようにと、いつも言っていたものです。幼い私の解釈をそのまま尊重してくれ、自信をもって弾くようにと、いつも言っていたものです。曲を学ぶ以外にも、人生や哲学、歴史についても造詣が深く、様々な意味で最も影響を受けた恩師です。

2. あらゆる曲を研究すること

―毎日、どのような練習をされるのですか?


 今は毎日、4時間位練習します。それに、スコアリーディングを4時間です。練習量はすこし少ない気がしますけれど、毎日、違ったメニューを考えて練習するのです。そうすると、マンネリズムを避けることができますし、新しい組合せで新しい発見や技術的な成果をもたらす組合せに出会えるからです。教則本としてはポッパーのものが非常に役に立ったと思っています。曲の中で難しいフレーズにぶつかった時には、いろいろなアプローチの仕方で練習します。同調のスケールの練習も、また似たようなエチュードを選んで、練習したりもします。

スコアリーディングは、演奏家にとって不可欠のもので、練習と同じ程度かそれ以上に時間をさくべきだと思っています。チェロの曲以外のシンフォニー、コンチェルト、室内楽などあらゆる曲を研究することは、結局、チェロの曲をやる上で重要なことになると思われます。チェロを弾くからといって、それ以外の様式の曲を研究しないのは、結局はその人の演奏を貧しいものにしてしまうでしょう。


ー特に好きな作曲家はいらっしゃいますか?


 いろいろな時代に好きな作曲家がいます。ブラームス、シューマンそれにモーツァルト、でも残念ながらチェロのソロ用の曲を書いていないですけれど、 もちろん、バッハは好きです。現代ではメシアンですね。メシアンの曲は宗教的で、常に聴く側と何かを語りながら進んでいくような音楽なのです。ただ聴いているよりも演奏を見ながらの方がわかりやすいし、面白いと思います。

マルボロ音楽祭で、ピアノ、トランペット、チェロの入った重奏曲をやりましたが、約10分間、ゆっくりとした運弓で同じ音ばかり弾くようなところが出てくる曲なのですが、全曲聴くと50分位かかるのに、聴衆はみじろぎもせずに聴いていたものです。それは、常に聴く人たちとのコミュニケーションを行なうような曲だからです。一緒にそこでその曲に参加する、そこで初めてその曲の良さがわかるような曲ですね。実際、演奏をすることも、そういう意味で面白いんですね。

3. 重要なのはコミュニケーション

ーあなた自身の音楽観についてお聞か せください。


 私自身、重要なのはコミュニケーションであると思っています。すでにでき上がった曲と対話すること、プレイは対話することだと思っています。その曲を弾きこなそうとか、自分の主張を強く出そうという気はないのです。よくそうゆう人を見かけますが、それは私の考えと違います。ただ自然に弾いて自然にあふれてくるものが、聴く人を感動させなければならないと思うのです。

もちろんテクニックの完全さが必要です。しかし、その上で自然な態度が大切だと思うのです。演奏家である限り、作品の背景や、時代の状況、作曲家についての知識、研究といったものは、最低限学んでおかなければならないことです。そうしたベースのない演奏は、聴いていてわかるものなのです。ただ人間には、年をとらなければわからないことがあるのですが、18才には18才の、30才には30才の、 40才には40才のバッハがあってもいいと思うのです。大切なのは、どんな年齢であれ、それまでの自分を最大限に、しかも自然に表現しうるかということだと思います。

4. 何にでもチャレンジしてみたい

ー楽器は何を使っていらっしゃいますか?


 5年前からゴフリラーを使っていますが、以前、カザルスの未亡人が、カザルス愛用のゴフリラーを貸してくれたのです。今、使っているのは、1年前にイギリスの親しい人から安く譲っていただいたものです。1710年製です。カザルスのゴフリラーはカットされて少し小ぶりなのです。色合いはこれよりも暗く、音色も張りのある強い感じの音がします。非常に個性的な楽器でした。ラベルはベルゴンツィになっていましたが、ベルゴンツィはチェロをほとんど作っていませんから、たぶんゴフリラーだろうということでした。この楽器より小ぶりで弾きやすかったのです。

昨年自分の楽器を探している時にある友人からこのゴフリラーが売りに出されるということを聞いて、比較的安く手に入れることができました。この楽器は、音のたち上がりが非常にいいのです。今まで何本かストラドを弾いてみたのですが、ゴフリラーは暗く深い音がするのですが、ストラドは明るく透る音がするので何度か試しているうちにストラドが欲しくなってきました。デュプレやフォイアマンのストラドも試奏させてもらいました。日本で買えるといいのですが。


ー弓はどんなものを?


 ドイツの、名前は忘れたけれど、ルショーという現代の弓を使います。ほとんどサルショーを使いますが、強くて非常にいいです。

これはレナード・ローズが、30年間も使っていたのをいただいたんです。ペカットのコピーです。いい弓であれば、現代もの、オールドにこだわりたくないですね。ヨー・ヨー・マも現代の弓を使っていますし、ただ、最近は材料の関係でいいものが少なくなっているそうで残念ですけど。


ーチェロの弦は?


 A・Dはヤーガーのミディアム、G・ Cはスピロコアを使います。いろいろの弦を張ってステージで試してみたのですが、自分が求めている音が今使っている弦でした。


ー調整などはどうなさっていますか?


 季節のかわり目に、ニューヨークのいつも行く楽器店、ジャック・フランセで調整してもらいます。ヨーロッパ公演の時は、フランスのヴァテロやイギリスのベアに行って見てもらいます。


ーこれからの抱負は?


 何にでもチャレンジしてみたい。これから3年間にバッハの無伴奏組曲のレコーディングを予定しています。


ーありがとうございました。