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1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。
徳永さんは小さい頃、ヴァイオリンを習っていらしたと聞いていますが、転向のきっかけはどんなことだったのですか。
まず、体格がとても良かったんですね。
当時、桐明の子供音楽教室で、齋藤秀雄先生についていたんですが、先生にチェロをやりなさいと勧められたんですね「弟(N響のコンサート・マスター徳永二男氏)がヴァイオリンを始めたのも一つの理由だったかも知れませんね。チェロに変わったのは、確か小学校五年生の終り頃だったと思います。
どんな楽器を今まで使ってこられましたか
そんなにいい楽器は持てなかったけれど、レオン・ベルナーデルね。そうそう、レオンといえば、僕がちょうど高校一年生の時だったと思うけれど、ロストロポーヴィッチが日本に来たんですね。それで彼のレッスンを三回受けたんですが、一回目の時ね、レオン・ベルナーデルを持ってレッスンを受けたらね、「こんな弱い楽器じゃだめだから私のを使いなさい。」と言って、彼が持ってきていた、あれはたしか、ストリオーニだったと思うんだけど、その楽器を僕にさし出すわけね。で、弾いてみるとね、弦の張りが強くて針金みたいで、きちんと押さえられなくて、指がこう弦から落っこちてしまうわけね。弓は浮いちゃうし。その時、ロストロポーヴィッチに言われたことで一番印象に残っているのはね、チェロは女性の姿形と同じだよということね。もっと女性を理解しなさいって言われてね。その当時の僕にしてみれば、驚きだったし印象的でしたね。
ヴァイオリンも、女性の形だとよく言われますね。弦楽器は、みな女性形なんでしょうか(笑)……。その後は?
その後は、ペルソンを使っていました。
前回の江藤さんのお話の時に、ペルソンの楽器は、初期のころのメーニックのもとで製作したものは、良い楽器だというお話がありましたが…。
そう、僕のも初期のチェロだったと思いますよ。強くてなかなか良い楽器でした。で、その後はチェルティね。これは、僕が習っていた人に譲ってもらったんですね。次がモーコテル。この時はね、わざわざフランスの片田舎リヨンまで行ったんですよね。
そして今使っているのは、マッテオ・ゴフリラ。
この楽器だって、本来僕の手元にはとても来ないようなものだけど、回りの人達や楽器屋さんが、心から応援してくれたので手に入れることが出来たと思っています。
気に入ってますか。
ええ、すごく気に入ってます。いい楽器ですよ。チェロは低音楽器だから、低音の鳴る楽器がいいですね。
弓は、何をお使いですか。
アダムとミランです。
弓と楽器との合性というのがあると思いますか。
それはもう、絶対にあると思います。弓によって能力に差があるし、右手というか、ボーイングと弓とは切っても切れない関係にあるわけね。良い弓は、手の一部になりやすいんですよね。
弦はどんな組合わせにしていますか。
AとDはヤーガーね。それと、C線とG線はスピロコアです、ずっと。何となく、癖でね。
ところで、音楽をする上で一番大切なことは何かとお考えですか。
近頃ね、とても強く感じていることがあるんですけどね。それは、呼吸と間ね。音楽は作っていくわけだけど、ただ作るだけじゃなくて、そこに「自然さ」がなくてはいけないんじゃないかって、すごく思いますね。こう、川が流れるような自然というか。たとえば、川はまっすぐじゃなくて曲ったりとか、石や岩にぶつかって一瞬止まったり変化はあるわけだけど、それでいて常に流れているわけでしょう。そういう自然な感じですね。
他の楽器と比べて、チェロだけのためのアドバイスがありますか。
チェロは、楽器が大きくて、男性的でしょ。それにヴァイオリンと比べると、フレーズが大きいわけね。だからヴァイオリンほどに神経質じゃない方が、むしろいいみたいですね。
人間というのは、白然なようで、意外とかまえるところがあるでしょう。どちらかというと日本人は、すごく「構える」と思いませんか。自然なままではいけないみたいな部分もあるような……ね。自然なままだと欠点が見えやすくなるでしょう。だから、それは自分自身で補っていけばいいと僕は思っているんだけど。
本当に音楽をする人がみんな素直で自然になったらどんなにいいでしょうね。だって、音楽は、世界の共通語でしょう。多分、世の中、変わるかもしれません…。自然になれるためには、テクニックも必要ですよね。
若い時はね、まずテクニックというか、色々細かいことや技術的な面を一生懸命にさらって、それから音楽を表現しようとした時期があったけれど、それはすごく難しいのね。語句は、途中から考え方を切り替えたんですね。自分が音楽に対して、こういうイメージがあって、こう表現したいというのがあると、それに合うテクニックを使っていく。その方がずっと楽ですね。テクニックが別に存在するのではなくて、音楽の為にあるわけで、音楽を表現するためにテクニックも必要なわけです。
若い人達に一言お願いします。
何にでも興昧を持つことですね。よくいるでしょう。たとえば、クラシックなら、クラシックだけしか触れてはいけないみたいな…。でもね、リズムならジャズとかね、体で感じることが出来るのは素晴しいと思うし、そういう色々な経験をするということが必要だと思いますね。
それとね、理想とか良いなと思うものや場所を作ることね。人間って、あきらめないことが大事だと思いますね。能力は誰でも同じようにあると思っているんですね。どこまで可能性を追求するか、じゃないかと思うんですよ。
どうもありがとうございました。