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写真:"19世紀のドイツの風景" historic photos of Hamburg, Germany in the late 19th Century by monovisions

バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録
第47話 ストラドを求めて


さて、ドイツの人たちが、どれくらい正直で礼儀正しいかを示すような話をしよう。こうしたことがもっと知られてほしいものだが、私が話してまわったところで、たいして広まらない。同じような例はフランスにもある。だが、ドイツの話だけで充分であろう。

私がライン河のほとりの大きな町に、1、2週間滞在していたときのことである。ある日、目抜き通りをぶらぶら歩いていると、顔見知りの音楽家に会った。ひとしきり談笑したところで、「もしお望みならば、売ってもいいストラドがあるんですけど」と言われた。私が、「見るだけでも見てみたいものですね」と言うと、友人に貸出中だという。聞けば、その友人は、ライン河の上流の小さな町の劇場にいるのだそうだ。

滞在中の町では、べつにやることもなかったので、そちらに行ってみるのも悪くないと思い、出かけることにした。目的地までは数時間だった。列車では何度も通ったことがあったが、実際に行くのは初めてだった。夕闇がせまるころ、町に着いた。私は、めざす音楽家の住所を知らなかったので、とりあえず劇場に向かった。何かしら手掛かりがつかめると思ったからである。

案の定、劇場は閉まっていた。そして、彼の住所を知っていそうな人たちに会ったものの、肝心のことを私に教えてくれる人は誰もいなかった。

 それで、郵便局に当たってみたところ、配達担当の局員から住所を聞き出すことができた。また、彼のいる地区の配達員は、「でも、その人はたぶん家にいませんよ」とわざわざ教えてくれた。私は二人に礼を述べ、「ともかく行ってみます」と言って、そこを後にした。


■ ドイツ人が持つストラド

該当する家は、暗い建物に、貸し部屋がひしめいているようなところにあった。真っ暗な階段や踊り場には子供たちがたむろしていて、その子たちの誰にもぶつからないで階段を登っていくのは至難の技だった。
写真:“ケルンのライン川沿いの風景”Embankment of the Rhine in Cologne

私はその中の比較的大きい子に、「音楽家が何階に住んでいるか教えてくれない?」と尋ねると、子供たちがいっせいに「一番上の階でぇす」と答えてくれた。言われた方に進んで行くと、それらしい所に行き着いたので、一つ目のドアをたたいてみた。

中からは何の応答もなかった。だが、同じ階の別のドアがすぐに開き、「その部屋の人は、夜遅くならないと帰って来ないわよ」と、女の人が数名、大きな声で教えてくれた。大家さんも外出中だったが、こちらの用件を伝えれば、この人たちは何か手助けをしてくれそうだった。私は隣の部屋の人にここに来た目的を話した。

思ったとおり、彼女はヴァイオリンのことをよく知っていて、私に見せてくれるという。そして、小さいランプを持ってきて、音楽家の部屋のドアの把手を回すと、興味深々の隣人たちと踊り場にいた子供たちのうちの何人かを従えて、部屋に人っていった。

彼女はソファーの前で身をかがめてケースを引っ張り出すと、「金具がどうなってるかわからないから、開けられないんだけどね」と言いながら、それをテーブルに置いた。私は自分でケースを開けて、ヴァイオリンを取り出した。

かなり修理されたのは一目瞭然だった。しかし、致命的な損傷はーつもなく、まぎれもないストラド。

私にはそれで充分だった。それで、楽器をケースにしまい始めた。ところが、まわりの人の不満そうな素振りが背中越しに伝わってきた。連中は、当然弾いてもらえる、と思っていたのだろう。それで、試しにちょっと弾いて、美しい音色を聴いてみようかと一瞬思ったが、そんな暇などなかった。

それで、再びケースの蓋を閉じると、まわりのみんなはひどくがっかりした。

第48話 ~もうひとつのストラド物語・その2~ へつづく