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ー早速ですが、楽器は何を使ってますか。
今は、J.B.グァダニーニです。…以前には、ストラドや、とても良いビヨームなども弾きましたが…僕の場合残念ながら、決定的にこれ、という楽器にまだ出会っていないんですよね。ま、最終的には、デル・ジェスか、ストラドということなんですが、そこへ行くまでの段階として、いろいろ使ってみるということでしょう。
ー弓は何ですか。
弓は、パジョーです。ぼくは、楽器ほどには弓を重視していないんですよね。
ーほかの人の楽器を見たり聞いたりして、あんなのが欲しいとか思われることはあるものですか。
それは、ありますね。隣りの芝生は良く見えるとかいうのと同じかな。…今まで見た中では、メニューインのストラドね。あれは特に良いと思ったし、デル・ジェスでは、ルジェロ・リッチのね。あれも良かったですね。
ーひとくちに、デル・ジェス、ストラドと言っても色々と個性がありますよね。
そうですね。スターンの持っていたデル・ジェスは、強くてね、音を出すのが大変という楽器でしたね。そこへいくと、リッチのは、弓で触れただけで、パーンと音が出るというデル・ジェスでしたね。
スターンはね、いつも演奏会というと、デル・ジェスを2本ダブルケースに入れて持ち歩くんですよね。舞台の上でね、万一のことってあるでしょう。例えば弦が切れたりとか。コンサート・マスターに、1本持たせておいて、そういう時にサッと取りかえるわけね。ぼくもね、以前スターンと弾いた時、楽屋へ呼ばれましてね、ケースをあけてデル・ジェスを2本見せるわけね。「君の好きな方をとりたまえ」「でも、先生は?」「どちらでも同じだから、いいんだ」
ースターンは、ストラドは持ってないんですか。
彼は、ガルネリだけでしたね。
ー演奏家によって、ガルネリ・タイプとか、ストラディヴァリ・タイプとかあるとよく聞きますが、先生は、どちらの方でしょうか。
色々変わるんじゃないでしょうか。例えば、グリュミオーね、あれだけストラドの人って思われていたのに、年がいってからデル・ジェスに変えたでしょ。その時の状況とか心境の変化で、変わると思いますね。ぼくなんか、今、ここにストラドありますよって良いのを出されれば、ストラドにするかもしれないし、同じ様にしてデル・ジェスを出して下さるなら喜んで、デル・ジェスもらいますよ(爆笑)。
ー楽器を選ぶ時、どんな点に留意しますか。
まず、健康で、フラットなこと、これが第一ですね。
ー健康とは、致命的なキズがないということでしょうか。
それは言うまでもないけど、音に影響がない位の小さなキズも含めて、少なければ少ない程良いと思ってます。日本には、くちゃくちゃにキズだらけでも音さえ良ければ良しという人もいるし、又事実、キズだらけでも鳴る楽器も中にはありますからね。ただ、あくまでも、 ぼく個人としては、無傷、フラット、 良い形であること。
ーフラットであることのメリットは?
フラットな楽器は、音が強いんですよね。隆起の高いものだと、音色が良くても、力が弱いから、室内楽くらいなら良いんでしょうけれど。
一弓に対しては、いかがですか。
まず、"ヘタリ"のないもの。それだけですね。弓を見て、「材質的に」とか、「形」がとかわかりませんから。とにかく、"ヘタリ"が来てないもの、腰のしっかりしたものを選ぶようにしています。
ー若い音楽をする人達へ、何かアドバイスをお願いします。
このごろ、思うんですけどね、日本へ洋楽が入ってきて間もないせいなんでしょうか。テクニックは、世界のレベルの中でも高い方へ入ると思うんですけどね、日本は。実際、みんな若い人達見ても、指も弓もよく動くしね。だけど、何かが足りないと思うんですね。言葉じゃ、難しくて、どう言えば良いのかな…。
……例えば、スケールを弾かせるでしょ、すごくうまく音程よく弾くわけね。でもそれを使って何をするか、どう広げていくかが出米ないんですね。音楽性というんでしょうか。
テクニックは無論、メカニック部分というか、それらを利用して音楽を組み立てていくわけですが、そこに根本的な本来の主張するウタがなければ、意味がないし、又逆に、テクニックそのものの開発も出来ないのです。
ー音楽性を身に付けるには、どうしたら良いと思われますか。
何でも良く聞くことでしょうね。クラシックをやっていても、ジャズ、ポピュラー、歌、それこそ、演歌でも、一流の人たちは、何かを持ってますからね。例えば、ビブラートをよくしようと思ったら、一流の歌、オペラでもいいですから、聞く。構成力をつけたいと思ったら、ピアニストあるいは指揮者というように、他の分野から得るものは大きいと思いますね。
ーよく、例えばバッハを弦で習っている時に、オルガンとかアリアを聞けとか言われますよね。
そうです。
バッハをやってる時にね、例えば、シェリングや、ハイフェッツの弾いたバッハを聞いても余り参考にならない所があるのです。特にヴァイオリンという楽器の特長として、非常にアクロバット的な要素が前面に出るせいで…。
仮にね、テクニックの真似は出来たとしても、その人の生きざまは、全く違うでしょう。感性までが、同じにはなりようがないわけですから。
その点、他の分野のものは勉強になりますよね。
ぼくはね、北島三郎も良いと思うしね。広沢虎三、知ってます?あの人もすごいですよ。この間、ガソリンスタンドでカセットを見つけましてね(笑)。車の中で聞いたんですけど…あの、聴衆をシーンとさせる力、すごいと思うんですね。
……ぼくも学生の頃、フランスの先生に自分の音楽そのものを先ず持つということをよく言われたんですけど、あの頃は(耳をさして)右から左ヘスーッ(爆笑)。今、生徒にもいつも言ってるんですが、右から左、でしょうね。10人のうち、1人でも理解してくれれば良いと願っているわけです。
ーお忙しいところをありがとうこざいました。