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心に響く、レジェンドからのメッセージ

1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。

 

第12回 原田幸一郎( ヴァイオリニスト)

写真: ピグマリウス第7号より
引用元:季刊誌『Pygmalius』第8号 1985年1月1日発行
第12回 原田幸一郎 / Koichiro Harada

 1945年生まれ。8歳でヴァイオリニストとしてデビュー。桐朋学園、ジュリアード音楽院で、西村新太郎、宗倫安、鷲見三郎、斎藤秀雄、ポール・マカノヴィツキー、ドロシー・ディレー、イヴァン・ガラミアンの各氏に師事。
 1969年、東京クヮルテットを結成、12年間第1ヴァイオリンを務めた。クヮルテットの一員として世界各国を演奏旅行し、国際的な評価を得て、全世界で絶賛される。エディンバラ、ルツェルン、サウス・バンク、タングルウッド、モーストリー・モーツァルトをはじめ数多くの有名なフェスティバルにも出演した。DGG、CBS、RCA、ヴァンガードに録音を残し、スイス、モントルーのグランプリ・ディスクを受賞、また、グラミー賞にもノミネートされた。
 指揮活動にも意欲を見せ、新日本フィル、紀尾井シンフォニエッタ東京、東京シティ・フィル、大阪フィル、札幌交響楽団、京都市交響楽団の定期演奏会をはじめ、読売日本交響楽団、新星日本交響楽団、九州交響楽団などを指揮し、室内楽奏者ならではの音楽性と指揮で、高く評価されている。1999年4月には、ニューヨークでも指揮デビューを果たした。
 現在、桐朋学園教授。国際的にその実力が広く高く評価されており、日本の音楽界、特に室内楽と教育の分野での今後の貢献に大きな期待が寄せられている。 

1.バイオリンをはじめたきっかけ

楽器を始められたのはいつ頃ですか。 

六才頃ですね。鷲見先生と、宗先生に習っていまLた。


桐朋には音楽教室からお入りになっていたんですか。

いえ、中三になってからなんですよ。僕は九州なんですね。で、鷲見先生の所で徳永さん達と一緒だったんですが、みんなが「トーホー、トーホー」って話をしているのをね、あの映画の “東宝” のことだとばかり思ってたんですね(笑)

...中学三年の時に、宗先生が齋藤(秀雄)先生に紹介して下さったんです。その時、初めて “桐朋” とはこのことだったのか…と。齋藤先生は素晴らしかったですね。ああ、こんなすごい人がいるんだなって感動しましてね。で、すぐ桐朋に入ったんです。


桐朋の学生生活はいかがでしたか。

その頃はね、良き時代というか、まともに授業に出てなかったような気がします。学校はすごく楽しかったんですけどね。みんなと一緒にギャーギャー言ったり...。


ではその間、いったい何を?

グラウンドへ出て野球をしたり、曲をさらったり...。で、一応大学を出てからジュリアードへ行きました。

2.ジュリアード音楽院での留学生活

その当時のジュリアードの試験は、どんなものでしたか。

今とそれほど変わらないと思いますけどね。実技と、...それに調音とソルフェージュを少し...実技が中心ですね。


どなたに師事なさっていましたか。

最初の年は、ポール・マカノヴィツという先生で、ガラミアンのお弟子さんです。その後は、ガラミアン、そしてドロシー・ディレイです。


ジュリアードへ入って、桐朋と違う点はどんなところでしょうか。

そうですね。僕がまず感じたのは、競争が激しいということです。その頃の桐朋もかなり厳しかったけれど、やはりそれ以上に厳しかったですね。(笑)


以前にテレビの番組で、ジュリアード音楽院の特集をやっていましたが、本当にかなり厳しそうでした。それでも、自分の希望通りの道へ進める人は数少ないと…。

ほとんどないですね。僕が在学している頃は、ピンカース・ズッカーマンとかパールマンとかがいましたけど、そういう人達は籍はおいてますけど忙しくてね。学生のうちから舞台で弾いてますからね。でもそういう人が出るのは本当に五~六年に一人くらいでしょうね。


原田さんはどのくらい在学していましたか。

三年間ですが、僕の場合は、室内楽やるって決めてからむこうへ行きましたから。でも実際に勉強したのは二年間ですね。最後の年は、演奏旅行とかでほとんど外へ出てましたから。


ジュリアードでは、日本と異なる指導法などがありましたか。

その頃は…僕がアメリカへ出る直前に江藤先生がアメリカから帰国なさって教育を始められたんですね。僕は直接は習わなかったんですけどね、色々友人から聞いたりしていましたから、特に目新しいことというのはなかったですね。

 
写真: ジュリアード音楽院に併設されたホール、「アリス・タリー・ホール」は2009年に改修され、モダンなデザインの建物となった。アリス・タリーはニューヨークの慈善家で、後に原田氏がランドルフィのバイオリンを手にするきっかけになった人物でもある。

引用元:wikipedia

3. 室内楽に本格的に取り組む理由

室内楽をやろうと決めたきっかけは、どんなことでしたか。

今から二十年くらい前に、ジュリアード・カルテットが米日して、日光で三週間くらい講習会をやったんですね。その時、出席しまして、それでえらく感激して。齋藤先生に相談したら、良いんじゃないかって。


それで東京カルテットを作ったわけですか。

チェロの原田君と二人で、将来カルテットをやろうって決めて行ったんですけど、たまたまジュリアードに、セカンドとビオラの人がいて臨時でも良いからということで始めたんですが、コンクールとかいろいろうまくいきましてね。それで何となくずーっといるわけです。


カーネギーホール主催で、日本人で初めて演奏なさったそうですが。

 それは、ずっとキャリアが出来てからのことです。ちょうど僕らが十周年で、どうやろうかと考えていた時に、カーネギーホールの九十周年と重なったんですよね。それでむこうから話があったんです。

4.ソロと室内楽の違いとは

ソロと室内楽との奏法の違うところはどんなところでしょうか。

カルテットの場合は、僕らは桐朋にいた時、齋藤先生に随分習ったんで、いわゆる音楽的な表現の奏法とかは学んだんですが、実際に、それをどういう技術を使って...つまり、主にボーイングのことですけど、それを実際に教えてくれたのがジュリアードだと思います。

何が違うといっても、やはり右手の技術、弓の使い方がかなりちがうと思います。


例えば、どんな点でしょうか。

そうですね。例えば、スピッカートですと、ソロは弓の勢いで弾く部分もあると思いますけど、室内楽だと一音、一音を、すごくコントロールしなきゃいけない。弓を使う分量ですね、ソロより少ないし、確実に音の出だしをとらえるということとか、雑音をなくすということですね。いわゆるムダのないボーイングでしょうね。あと、ビブラートの種類とか幅とかスピードとかについてやかましく言われましたね。


日本の人は、左手のテクニックは素晴らしいが、どちらかというと右手が弱いという話を耳にしますが。

そうですね。僕が日本へ帰ってから一年問教えてみて思うことは、日本の生徒に一番欠けているのは右手の技術だと思いますね。左手はみんな一生懸命やって、技術も良くなってますが、せっかく左手がよくなっても肝心の右手が、音が充分出なかったりすると残念ですから。


ボーイングは、ある程度の年齢に達していても直るものですか。

と、思います。でも、若ければ若いほど良いでしょうね。(笑)大学の中頃になるとなかなか…。


特効薬というか、何かちょっとしたポイントというのがあれば教えていただけませんか。

そうですね。弓っていうのは難しいんですよね。流派があるでしょう、例えばロシア式とか、ドイツ式とかアメリカ式とか。これが全部弓(右手)のことなんですね。左手のなになに派っていうの無いんですよ。それほど色々な考え方があるわけですね。

一つ大切なことは、自分自身で、こういう音を出したいというイマジネーションを持つことだと思いますね。それがないと、いくらうまく弾けても話にならないと思うんですね。そのためには本当にいい音楽会を生で聞くことが良いと思います。

5.楽器との出会いについて

話は変わりますが、楽器は何を使ってこられましたか。

小さい時はスズキですね。六才からですから1/4くらいからですか。3/4になって初めてドイツ製のを使いました。中学二年の時フルサイズになって、ポスタチーニというイタリアの楽器を買って、これはアメリカへ行く時も持っていきました。それから楽器を買い替えたいし、お金はないしということで、当時評判だったペルソンのバイオリンを買いました。ペルソンという人は商売人でね、買いに行ったら、椅子の上に二十台ほど並べて「さあ選べ」(笑)。ひき比べて買ったんですが、でも一年くらいしか使いませんでした。


そうでしょうね。

そうしたらね。たまたま、アリス・タリーというアメリカ人のお金持ちの人がいましてね。僕に楽器を買ってくれるって言うんですよね。


欧米ではよくあることだと聞いていますけれど。

ええ、そうですね。それでその時、ランドルフィを買ってくれたんです。


わあ!(一同驚き)

本当、ラッキーでしたね。でも実際にカルテットの演奏に使っていたのはアマティなんですね。これは、ワシントンのギャラリー(美術館)にアマティのカルテットがあったんですが、それをタダで貸してくれて、世界中どこでも持って行って良いと。


ええ…(一同絶句)

本当に信じられないような話ですよね。それをずーっと、今でもメンバーが使っていますよ。


スポンサーはどなたですか。

そのギャラリーです。条件として、年三回だけ、そこで演奏会をやれと、それだけなんです。そのアマティのバイオリンは、ルイ十四世に棒げられたという素晴らしい楽器でしたよ。


(一同ため息) 


弓は何を使ってますか。

ラミーです。

6.現在の演奏活動

現在、演奏活動はどのようになさっていますか。

チェロの岩崎君と、東京チェンバー・ソロイスツというのを組んでいるのと、もうーつ、ピアノトリオを組んでまして、メンバーは野島稔さんと、ニューヨーク在住の毛利伯郎さん。これは、一年に一回はヨーロッパで演奏活動をしようということなんですね。


むこうでは観客の反応が日本と違うでしょう。

そう、きびしいですね。拍手の量が違いますからね。


日本ではいつも同じ。

そう、下手に弾いても、うまく弾いても全然変わらないですからね。

 

本当ですね。(笑)

だから、演奏家としてやっていくのなら絶対むこう(海外)でなきゃいけないと。いくら自分達はお客様に関係なく、一生懸命やっていると思っていても、だんだん知らない間に、どうしても真剣味が違ってくると思うんですよ。むこうの場合だと、うまく弾けば、次のシリーズとか一年後とか二年後に必ずまた呼んでくれますけど、日本の場合だと、そういうシステムがないし、一回出て弾いて、それっきりという部分がありますから。


ホールの運営法も違いますね。

 そう、むこうの場合、ホールが自主的にシリーズを決めたりするわけですが、こちらは貸すだけでしょ。文化会館などがやってくれるといいと思いますね。地方なども立派なホールを持つところが増えていますけど、活用の方はまだ…。それと目本へ帰ってきて思ったのは、何が本物で何が違うのかわからなくなることがありますね。世界一のオーケストラがいくつも出来てしまったりして。(笑)


本当にそうですね。

外国の場合だと、新聞の批評の範囲でしか、宣伝文句に使ってはいけないとかいう決まりがあるようなんですね。やはりそうでないと、知らない人は、「あ、これが世界一の演奏か」と思ってしまう。(笑)

7. 若い演奏家の方に向けてひとこと

ご自身の場合、楽器を選ぶのにどんなことに気をつけますか。

僕自身、買った経験は少ないんですが、友人達といつも見たり選んだりしてましたから。そうですね、僕の場合は、直観を大切にしますね。パッと見てきれいなもの。


直観がひらめくために、どのような点を見ているのでしょうか。

パッと見てきれいなためには、まず健康なこと。キズだらけではないとか、ふくらみすぎていないこととか。

ふくらみすぎていないこと、つまりフラットなものということですね。フラツトというと、のっぺりと平らなものというイメージを持っている方がいるようなのですが、欧米でいうフラットな楽器とは極端にふくらんでいなくて、とても良い隆起をしているものを指すんですね。これはとても大切なポイントだと思います。それと、輪郭といいますか、形(アウトライン)のきれいなことも大切だと思います。


若い人達に何かアドバイスをするとすればどんなことでしょうか。

僕は楽器を選ぶ時に、本当に慎重になってほしいと思いますね。安心して、ここなら大丈夫といい楽器屋さんが欲しいですね。


そのためには、買う人の認識も大切だと思いますね。楽器を買うのでも、家とか自動車や冷蔵庫と同じに考えて欲しいんですね。楽器だけが例外的に、「これは安く入ったから、あなたなら半額でいい」ということはあり得ないと思うんですね。常に適正なプライスがあって、安いときはそれだけの理由があるわけですね。ニセモノであるとか、キズが多いとか、部分的に違うものがついているとか。車なら事故車だとかエンジンがダメとか。家なら駅から遠いとか日当たりが悪いとか還境がよくないとか。ですから、安い買い物は、楽器に限らずこわいということをまず考えたら良いと思います。

なぜ安いのかをきちんと説明してもらえばいいんだね。むこうでは、みな楽器屋さんはそういう説明をしますものね。


ぜひそうしていただきたいと思います。本日はお忙しいところを有難うございました。