弦楽器メルマガ
BG Newsletters 配信中!
BG Newsletters に登録する登録する

日曜・月曜定休
Closed on Sundays & Mondays

10:30~18:30

112-0002 東京都文京区小石川2-2-13 1F
1F 2-2-13 Koishikawa, Bunkyo-ku,
Tokyo 112-0002 JAPAN

後楽園駅
丸の内線【4b出口】 南北線【8番出口】
KORAKUEN Station (M22, N11)
春日駅 三田線・大江戸線【6番出口】
KASUGA Station (E07)

50作品から見える現代音楽の眺め Online

20世紀の作品や現代音楽のレパートリーに主に取り組み進化しつづけてきた異色の弦楽四重奏団クロノス・クァルテットは、演奏活動だけではなく、音楽界全体に影響を与えるプロジェクトを有しています。
世界じゅうの現代の作曲家男女それぞれ50名に1作品ずつ委嘱し、演奏した音源と楽譜を無料公開するというもので、その名も「Fifty for the Future: The Kronos Learning Repertoire」、『未来のための50』。若手クァルテットへの指導も含めた、弦楽四重奏だけではなく、音楽界の未来を明るく照らすための企画です。非営利団体のKronos Performing Arts Association (KPAA)によって実行されました。

今年7月、50作品のうち最後の7曲のデータがオンラインのライブラリーにおさめられ、2016年に開始した同プロジェクトは無事完結となり、誰でも自由に音源や関連情報にアクセスできるようになっています。今回は、この独自性あふれるクロノス・クァルテットのプロジェクトについてご紹介いたします!

クロノス・クァルテットが届ける現代の50作品


1973年にサンフランシスコで創設されて以来、作曲家と密に関わり、新作の初演の数々を行ってきたクロノス・クァルテット。現代の社会問題などのテーマを持つ作品もレパートリーに多数あります。

それぞれの曲を初演するために、クロノス・クァルテットは新しい演奏テクニックを学び、作曲家が求めるものを汲み取って演奏します。そのプロセスや内容を若い世代や聴衆に広く伝えるため、同プロジェクトのウェブサイトには、いろいろな素材が用意されています。曲の録音や楽譜(スコア、パート譜)だけではなく、作曲家自らが自身の経歴や作品について語るインタビュー映像も含まれており、それぞれに大きく異なる作品の世界を伝えてくれます。
作品を作曲家に委嘱し、初演を行う音楽団体は珍しくないのですが、オンライン上に音源だけではなく、楽譜まで無料で公開するというグループはなかなかありません。
先述した通り、クロノス・クァルテットは同プロジェクトの一環として、一部の作品を新進の弦楽四重奏団に直接指導し、ワークショップの映像も併せて公開しています。現代音楽ならではの特殊奏法や響きの作り方などについて、作曲家の直筆譜や映像を通して理解を深めることができるようになっているのも大きなポイントです。
普段のコンサートでは知ることができないけれど、演奏と同じように興味深い『創造のプロセス』に触れられるというのは、魅力的なことではないでしょうか。

新曲を公開することで、希望する人は誰でもその作品を演奏できます。弦楽四重奏団のレパートリーを広げるだけではなく、若手クァルテットやアマチュアにも現代音楽にアクセスする機会を平等に与えているといえるでしょう。聴いて楽しい、弾いて楽しいプロジェクトなのです。

公式ウェブサイト上では、作曲家と作品を「テンポ」「奏法(テクニック)」「調性」「編成」などのフィルターをかけて表示することもできます。
1作品ごとに、音源と楽譜(スコアとパート譜)、曲の解説文と作曲家による解説映像、クロノス・クァルテットのメンバーからのメッセージが1ページにまとめられており、読みごたえがあります。
50作品は描き出される世界や響き、テーマが大きく異なります。宇宙的な響きが広がったり、民俗音楽の要素が盛り込まれていたりと、聴いているだけで時代や場所を越えて、世界中を旅しているような感覚です。
筆者の独断で選んだ4作品を以下にご紹介していきます。


テリー・ライリー『This Assortment of Atoms - Only time only!』より第1楽章『I. Lunch In Chinatown』
第1楽章は、おしゃべりの会話が入り混じる空間で、音楽が浮かび上がってくる特徴的な作品です。日本でも知られるミニマル・ミュージックを代表する作曲家の一人で、クロノス・クァルテットと長年にわたってコラボレーションを続けてきたテリー・ライリーによる作品をぜひ聴いてみてください。

kronosquartet · Terry Riley - This Assortment of Atoms — One Time Only!: I. Lunch In Chinatown


②フィリップ・グラス『Quartet Satz』
50人の作曲家の知名度はまちまちですが、中でもよく知られているフィリップ・グラスの作品がこちら。同クァルテットのダヴィッド・ハリントンに「それぞれの楽章が1つの宇宙のようだ」と演奏する前から思わせたという作品をどうぞ。

kronosquartet · Philip Glass - Quartet Satz
▶https://50ftf.kronosquartet.org/composers/philip-glass


望月京『Boids』
同プロジェクトに日本人で唯一関わった望月京の作品は、鮮やかで鋭さのある印象的な曲です。
kronosquartet · Misato Mochizuki - Boids

▶https://50ftf.kronosquartet.org/composers/misato-mochizuki


ガース・ノックス『Satellites』より第1楽章
現代音楽を重要なレパートリーとするアンサンブルや弦楽四重奏団で活動してきた、ヴィオラ奏者としても知られているノックスの作品も収録されています。

kronosquartet · Garth Knox - Satellites: I. Geostationary
公式ウェブサイトからサウンドクラウドのリンクに移動すると、アルバム形式で50作品(74曲)の録音すべてを通して楽しむこともできます。上記作品の他にも、興味深い作品が数多く揃っていますので、好奇心を全開にして、ぜひ聴いてみてくださいね。

・公式ウェブサイト「Fifty for the Future: The Kronos Learning Repertoire」
https://50ftf.kronosquartet.org/
Text : 安田真子