弦楽器メルマガ
BG Newsletters 配信中!
BG Newsletters に登録する登録する

日曜・月曜定休
Closed on Sundays & Mondays

10:30~18:30

112-0002 東京都文京区小石川2-2-13 1F
1F 2-2-13 Koishikawa, Bunkyo-ku,
Tokyo 112-0002 JAPAN

後楽園駅
丸の内線【4b出口】 南北線【8番出口】
KORAKUEN Station (M22, N11)
春日駅 三田線・大江戸線【6番出口】
KASUGA Station (E07)

伝説のチェリスト フォイアマン生誕120周年 - 国際チェロコンクール・記念コンサート開催

2022年11月22日、チェリストのエマヌエル・フォイアマン生誕120年を迎えました。伝説的なチェリストの名を冠して、ドイツ・ベルリンで行われたコンクールと記念コンサート、そして日本とのつながりについて、2回にわたってご紹介していきます。

フォイアマンの名に寄せたコンクール

エマヌエル・フォイアマンは、20世紀初頭に欧州やアメリカで活躍した天才チェリストです。39歳で早逝したのちも、ソロ演奏だけではなく、ハイフェッツやプリムローズらと共に遺した映像・録音をもって、今なお人々に影響を与え続けています。

2002年から4年ごとに、ドイツ・ベルリンでは、彼の名を冠した国際チェロコンクール『フォイアマン大賞』が開催されています。今年は11月15日から21日にかけて5回目の『フォイアマン大賞』が行われました。
フォイアマンが1929年から1933年までの間に教鞭を執っていたベルリン芸術大学(当時のベルリン高等音楽院)の講堂や他のコンサートホールを舞台に、国内外から10代・20代の若手が集って腕を競うこちらのコンクール。世界最高水準のソロチェリストを多く輩出することで知られているドイツのクロンベルクアカデミーと同大学が共催しています。

今年は第一次のテープ審査で候補者を12人にまで絞ってから、ベルリンで第二次とセミファイナル、ファイナルが行われました。筆者はセミファイナルから取材に入りましたが、技術的に完成されたハイレベルの若いチェリストたちの演奏には驚かされるばかり。
今回、審査委員長を務めたのは日本を代表するチェリストの堤剛さんでした。審査委員としては、イエンス・ペーター・マインツさん、ダーヴィド・ゲリンガスさんなどの他、欧州だけではなくアメリカやイスラエルなどからも集められた国際色豊かなチェリストが揃いました。


(写真)シューマンを聞かせたクリストフ・ヘーシュ © Clemens Porykis

世界から集った新鋭チェリストたち

第1位ならびにイェルク・ヴィトマンによる委嘱新曲の課題曲の最優秀演奏賞を受賞したのは、ロシア出身・1996年生まれのイヴァン・スカナヴィ。ファイナルでのショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第2番では、1698年製のダービッド・テクラーを深い音で響かせながら、入魂の演奏で聴衆を圧倒しました。現代曲の演奏やセミファイナルでの自作カデンツァから、新しい世代の感性を感じさせるチェリストです。

第2位ならびに聴衆賞をうけたのは、クリストフ・ヘーシュ。ドイツと日本にルーツを持つ1995年生まれで、1700年製のジョヴァンニ・グランチーノを使用しています。表現力豊かで密度の高い音と、抜群のアンサンブル力で、ファイナルではシューマンのチェロ協奏曲を演奏しました。

第3位とハイドンの協奏曲の最優秀演奏賞を与えられたのは、オーストラリアから参加のベネット・サイ。19歳とは思えない落ち着きと演奏技術、高い集中力で聴衆を驚かせました。

(写真)ファイナルで入魂の演奏を聞かせたイヴァン・スカナヴィ © Clemens Porykis

アットホームな記念コンサート

コンクール後、22日のフォイアマンの誕生日に合わせて開かれた記念コンサートでは、同コンクールで特別賞を受賞したチェリストやセミファイナル出場者がソロや室内楽作品を演奏しました。

18歳のジァイ・リューさんは、薗田奈緒子さん(ピアノ)とシューマン『アダージョとアレグロ』でコンサートの幕開けを飾りました。中国出身のリューさんは『若い才能のための音楽賞』を受賞し、今後のますますの活躍が期待されています。

続いてのモーツァルト『ディヴェルティメント』K.563には、コンクールのセミファイナルの課題曲だった同作品の最も優れた演奏者に与えられる『特別賞』を受賞した森田啓佑さん、さらにトリオ・ボッケリーニのメンバーであるSuyeon Kangさん(ヴァイオリン)とVicki Powellさん(ヴィオラ)が出演。それぞれの楽器が優雅に響き合う名曲で、聴いていると心が安らぐような名曲ですが、実はアンサンブルを美しく聞かせるのが難しい作品だと言われています。
森田さんとトリオ・ボッケリーニのメンバーの音色は素晴らしく溶け合って、息のぴったり合った合奏と喜びにあふれた響きが印象的でした。

なお、フォイアマンとハイフェッツ、プリムローズの録音は、YouTubeにも残されています。

プログラムの中でも秀逸だったのは、森田さんによるデュティユーの『ザッハーの名による3つのストローフェ』でした。スコルダトゥーラも伴う難曲ながら、プリズムを思わせる多彩な音色と表現力で、チェロの音がさまざまに表情を変え、聴く人をひきつけて離さない演奏に魅了されました。

セルビア出身のイレーナ・ジョシフォスカさんは、ベートーヴェンのチェロソナタ第4番を伸びやかに演奏し、明るさと暗さの両方を魅力的なチェロの音色で披露。

早熟の天才であるフォイアマンの誕生日を祝うのにぴったりの若い才能あふれるチェリストたちによる演奏に、会場は喝采に包まれました。ベルリン芸術大学の講堂で、どこかアットホームな雰囲気で開かれたことも印象的でした。

『チェロの未来は明るい』

今回の取材を通して、筆者自身がぜひまた演奏を聴きたいと思う新鋭チェリストたちに出会えました。
同コンクールの審査委員長の堤剛さんのお言葉の通り、「チェロの未来は明るい」ことは間違いありません。

(写真)エルガーの協奏曲をファイナルで披露したベネット・サイ © Clemens Porykis


【次回の記事では、フォイアマンと日本との意外なほど深いつながりやフォイアマン自身についてのエピソードを、チェリストのインタビューとともに取り上げていく予定です。どうぞお楽しみに!】
Text : 安田真子
Photo : © Clemens Porykis