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「セカンド・ヴァイオリンはイーブンであって欲しい!」


東京藝術大学、ジュリアード音楽院、インディアナ大学にて学び、ガラミアン氏やスターン氏らに師事。アメリカから戻った後に「久合田緑四重奏団」を結成し、第一ヴァイオリンとして15年間活動を続け、現在ジャパン・ストリング・クヮルテット(以下JSQ)の第二ヴァイオリンを務める久合田緑氏に、カルテットの魅力と難しさについてお話いただきました。
ーーはじめに、久合田先生がカルテット活動を始めたきっかけを教えてください。


「巌本真理カルテット」の真理さんがお亡くなりになった後、残りのメンバーで新しいカルテットを始めるにあたり、チェロの黒沼俊夫さんがアメリカから帰国したばかりの私を、1stヴァイオリンに誘ってくださったんです。当時は1stヴァイオリン奏者の名前をそのままカルテットの名前にするのが主流だったので、「久合田緑四重奏団」ができた、というのがカルテットを本格的に始めることになったきっかけでした。名前は嫌でしたけれど(笑)。

でも2ndヴァイオリンが定着しなかったんです。メンバーの入れ替わりが多かった。というのも、わたしが見てきたカルテットは、例えばメロスやアルバンベルクなど、2ndヴァイオリンが強い推進力を持っていた。それがわたしの理想であったけれど、なかなかうまくいかず、少しフラストレーションがあったかも知れません。


ーーセカンド・ヴァイオリンの理想像があったんですね。


そう。例えばブダペスト・カルテットは、アレクサンダー・シュナイダー(弟)の2ndとミッシャ・シュナイダー(兄)のチェロ、そしてもちろんクロイトのヴィオラの存在感が強くて、中低音域に推進力が大きくあった。1stのロイスマンは知らん顔して上に流れているだけのように見えて(笑)。2ndは1stの下に隠れてもだめですし、邪魔をしてもだめ。イーブンでいてほしい。1stに隠れて聞こえないのでは、カルテットとしてとてもつまらないんです。
そんな風に考えていたときに、とある音楽祭にて久保陽子さんからカルテットをやらないかってお誘いいただきました。自分の描く理想のセカンドヴァイオリンを弾いてみたい。長年尊敬していた久保さん、そして菅沼さん、岩崎さんとなら出来るんじゃないかと思い、二つ返事で引き受けました。



ーーJSQの主な活動であるベートーヴェン作品ですが、その難しさとは何でしょうか?


ベートーヴェンには、モーツァルトやハイドンなどの「ずんちゃんちゃん」といった伴奏だけでなくって、パズルをひとつずつ組み合わせていくような複雑さがあります。中でも後期の作品は難しいですよね。1stは気の毒なほど(笑)。ベートーヴェンの作品を多く初演したヴァイオリニスト・シュパンツィヒ(ラズモフスキー伯爵の私設四重奏団1stヴァイオリンとして活躍。第九のコンマスも務めた)が文句を言ったのもよくわかります。

1stはひとり黙々と難しいパッセージを弾く一方で、2ndはこんなに素敵なことをしていたんだっていう嬉しい発見と同時に、その難しさも実感しました。岩崎さんから「もっと弾かなきゃ!」と言われたり、菅沼さんに「ここはもう少し引いておくところだ」など、パッセージをちゃんと聴かせる必要があると同時に、他とのバランスを取らなくちゃいけない。テンポも作らなくちゃいけない。

ベートーヴェンではないですが、この3月の本番で演奏するドヴォルザークの「アメリカ」第4楽章の冒頭の刻み(メロディに対する伴奏形)なんかは、いつも菅沼さんを見ておずおずとしていました。いまだにそうです(笑)。

ーーカルテットの練習で工夫されていることはありますか?


ヴァイオリン2本のみによる分奏練習は必ずしています。同じ音域なので音程がごまかせないでしょう。また、楽器によって倍音の出方や音の飛ぶ方向が違いますので、その擦り合わせも一緒に意識します。

久保さんと私が二人ともオールド・イタリアンの楽器を弾いていた頃の話です。JSQの本番前に、わたしの楽器を調整に出す必要があって、一時的にモダン・イタリアン(プレッセンダ)を借りて弾いたことがあったんです。そしたら菅沼さんが、2ndが全然聞こえないって。4人の音が寄っていかないんです。楽器の時代が違うと、倍音の出方なんかが異なるんでしょうか。


ーーそれは興味深いお話です。楽器職人がカルテット4本セットを製作するケースも多いですし。


例えば東京カルテットのストラディヴァリ4本”パガニーニ”は、ホールの中で同じ倍音がひとつに寄ってきて、音程が聞き易い。今回の本番は、久保さんとわたしが同じ職人(堀酉基)によるヴァイオリンで演奏します。先日の練習で、久保さんがとても楽だって仰っていました。本番が楽しみです。


ーー久保先生も久合田先生も同じデルジェス・モデルですよね。二つの音の寄り方に注目したいです。



ーー最後に、久合田先生が考えるカルテット演奏における大切なポイントを教えてください。

自主性と協調性と、その絶妙なバランスでしょうね。

ファースト弾きであるわたしがセカンド・ヴァイオリンとしてそのバランスを楽しむことができているのは、他の3人が盛り立ててくださったから。セカンド弾きとしてのわたしを引っ張ってくださったんです。本当に幸せなことだと思います。

カルテット活動で1stヴァイオリンを長く務めた久合田先生だからこそ実現できる2ndヴァイオリンの理想のかたち。また、楽器の違いによる倍音や音の方向の差を詰めることが、アンサンブルに有効であること。とても興味深く拝聴しました。

今週末の3月11日(土)12(日)には文京楽器小石川店舗にて、両日30名限定のサロンコンサートが開催されます。残りわずかですがチケットございます。JSQのベートーヴェンを聴きに、是非ご来店ください。