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コロナ禍におけるコンサート・オーガナイザーの思い in Amsterdam

オランダでは、今年11月半ばからロックダウンが再開され、自宅に呼べる友人の数が限定されたり、飲食店などの店舗営業が20時までと指定されたりといった制限が出てきています。一方で、コンサートなどの文化的なイベントにかぎっては例外とされているため、演奏会が相次いでキャンセルされるような事態は避けられています。

それでも、コンサートや音楽祭を企画するオーガナイザーにとっては、難しい状況が続いています。変わりゆく状況下で、企画側として演奏会を支える人々は、どのような思いで演奏会を計画しているのでしょうか。

今回は、13年前から成功をおさめつづけている音楽祭「チェロ・ビエンナーレ・アムステルダム」の芸術監督でチェリストマーテン・モスタートさんにお話を伺いました。

コンサート開催の現状


ロックダウンと聞いて思い出されるのは、昨年10月下旬のこと。コロナウィルス感染の第1波オランダを直撃し、国際的な音楽祭やコンサートなどが一斉にキャンセルを余儀なくされた日々です。コンサートの出演者や企画者はもちろん、一般の聴衆にとっても、未だ衝撃が残るできごとだといえるでしょう。

今年はキャンセルこそ免れたものの、国を越えた人の移動や検査におけるルールの相次ぐ変更、各国のロックダウンなど、状況は変化しつづけています。

また、今季のコンサートシーズンにかぎって、演奏会に足を運びづらいという人が一定数います。参加の度にコロナウィルスのワクチン接種証明や陰性証明が必要なことや、大人数が集まる場にはどうしても感染のリスクがあることが主な理由だと考えられています。

(写真)2020年に無観客で開かれたチェロ・ビエンナーレ・アムステルダムのステージのようす

フェスティバル全公演を直前キャンセル


13年前から1年おきにモスタートさんが企画している『チェロ・ビエンナーレ・アムステルダム』は、1週間以上に及ぶ国際音楽祭で、100公演以上あり満席が続出するという、人気のフェスティバルのひとつです。次回は2022年10月20日から29日にかけて開催が予定されています。

2020年の開催直前にはロックダウンが決まったため、急遽オンライン版に丸ごと作りかえて開かれました。緊急事態下、しかも短期間での対応は困難をきわめたはずですが、それでも開催に踏み切った理由には、若手チェリストたちへの思いがこめられていました。

「昨年は9日前に公演をキャンセルして、まったく新しい音楽祭をオンラインで作り上げました。それは大変な仕事で、落胆も大きかったのですが、開催を決めたのは国内チェロコンクールがあったからです。
もし4年後に延期すると、世代一つ分の若手チェリストを失うことになってしまいますからね。

ロックダウン後、オランダで初めての大きな音楽祭になりました。問題を次々に解決し、オランダの演奏家とともに、ストリーミング配信をしたのです。人々には喜んでもらえたようです」

 


次回は通常どおりに企画


多くの人々が思った以上に長引いているコロナ禍。来年10月のビエンナーレについては、コロナウィルスに関する考慮は入れず、通常どおりに企画しているとモスタートさんは語ります。

「基本的に来年のフェスティバルは、完全に通常どおりに企画しています。昨年のビエンナーレが開けなかったことがまだ信じられないくらいです。1年経って、もうナーバスに感じてはいませんが。あまり考えないようにしていますね。どうなるのか、この状況がまだ続くのか……もちろんそうではないことを祈っています」

演奏の機会を待つ音楽家たち


「2020年のビエンナーレで実現されなかったプログラムが私はまだ大好きなので、『よし、来年のビエンナーレで行おう』と考えたものもあります。ジャン・ギアン=ケラスともう何年も是非演奏したいと話しているバルトークのヴィオラ協奏曲をチェロで弾くというコンサートが決まっています。世界初演もいくつか行われる予定で、もう曲は仕上がっていて演奏される準備が整っているものもいくつもあるので、そちらも披露されます。

2020年のプログラムを2022年にそのまま使うことはありませんが、いくつもの部分を『盗んで』来年行います。音楽家たちが大変待ち望んでいるものだからです。
初出演のポーランド・チェロ・カルテットも参加をとても楽しみにしてくれていたので、またお願いしたいと思いました。国際チャイコフスキーコンクール優勝のズラトミール・ファングも、ロココの主題における変奏曲や小品をピアノ伴奏で演奏する予定です。ジョヴァンニ・ソッリマは18世紀オーケストラとチアンデッリの協奏曲を披露します。ソッリマはアンナー・ビルスマ賞を受賞しているので、それにまつわるプロジェクトも紹介されます。その他にもたくさん用意されていますよ。特別すぎて、キャンセルするには惜しいものばかりなのです」

ストリーミング配信の危険性


昨年のように、演奏会をオンライン配信することを検討しているかどうか訊ねると、「ストリーミング配信について検討中ですが、全プログラムを配信しないことは確実です」と返ってきました。

「ストリーミングの危険性は、1つ目は人々が演奏会に足を運ばなくなること。2つ目は、音楽家の報酬の問題です。
昨年、直前の決定にもかかわらず、オランダの公共放送とタッグを組んで公演をストリーミングすることができて幸せでしたが、大組織と一緒だと、有料化できなくなります。公共放送だからです。
20年前、オランダではコンサートが放送されると、ラジオ局から音楽家に5割増しの出演料が支払われていました。現在はそれがありません。ストリーミングで全世界から視聴されるのに、音楽家に報酬が発生しない。おかしいですよね。ですから、まだ決めていません」

生演奏だけの特別なもの

私たちがコロナ禍を通して、何度も考えさせられている生演奏の価値とストリーミングの在り方について、モスタートさんはこう語ります。

「昨年のオンライン版について誇らしく思いますし、たくさんの人が視聴してくれました。でも、ショパンの作品がどんなに美しいかは、ホールで聞くのとストリーミングではまったく別物です。
次のテーマ『Cello Moves』も、ストリーミング配信では10パーセントくらいの『動き』しか伝わらない。

コンサートを企画しプログラミングするときには、ストリーミングではなく生演奏で聴衆に届けたいと考えています。
もちろんCDやストリーミング配信も素晴らしいものになり得るけれど、できることなら避けます。やはりホールに来て聴いてほしいんです。ストリーミングやCDでは、特別なものが少しずつすべて消えてしまう。深さフィーリング……本当に違うのです」

来年に向けて期待を高める

同ビエンナーレでは開催の1年前に、次回テーマのお披露目と関連する出演者ならびにプログラムの一部を紹介するプレビュー公演が開かれています。ビエンナーレ本開催に向けて、期待感を高めるのが狙いです。

11月12日のプレビュー公演では、例年700席のところ、600席以上が埋まったそうです。
「完売とはいきませんでしたが、600名を超える人が集まったことを嬉しく思っています。リピーターがかなりいて、喜んで来てくれたんです」とモスタートさん。リピーターの根強いサポートを感じています。

「先月、どのコンサートホールも再び満席にすることに苦労していました。でも、私は来年10月には以前のような聴衆に加えて、新しい人々が来てくれることを期待しています」

「次回のテーマは、『Cello moves』。部分的にはダンスに関連しますが、それだけではなく、音というものが動くこと、ホールにいきわたる音、音楽家が動くこと、さらには音楽が私たちの心を動かすことも含まれています。広義のテーマです」

プレビューに出演したヨハネス・モーザーや、ベルリン・フィル12人のチェリストたち、カバレフスキーの協奏曲第2番を弾くキアン・ソルタニ、マリオ・ブルネロ、アナスタシア・コベキナなどの参加も予定されていますが、プログラムの詳細は未発表です。

「来年4月のチケット発売開始まで、あえてプログラムの全貌は公表しません。人々の好奇心を高めておいてもらわないといけませんからね!」

困難を前にしても立ち止まることなく、前向きに企画を進めるコンサートオーガナイザーや演奏者たち。音楽そのものだけではなく、音楽を取り巻く人々の姿にも力をもらっていることに改めて気づかされました。

◆2022年のチェロ・ビエンナーレ・アムステルダムのために制作されたプロモーション映像

取材・文 安田真子