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写真:"19世紀のグラスゴーの風景"University of Glasgow in the 1890s by wikimedia commons

バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録
第46話 アマチュア製作家への助言


20年ほど前から、趣味や道楽が重視されるようになってきた。そうした中で人気のあるのが、一番難しい楽器、つまりヴァイオリンを習ったり、作ったりすることである。楽器作りに励む人は、現存の製作家はもちろん、いずれは、クレモナその他のイタリア派の巨匠にも匹敵するようになりたいと思っている。こうした人々に対し、私は成功を祈ると同時に、助言を述べておきたい。

私はアマチュアの作品をずいぶん見てきた。中には、自分の楽器を見せて私の意見を求めておきながら、賛辞以外の言葉を聞くと、憤慨する人もいた。私とて他人をこきおろす趣味などない。うまくなりそうだと思えば、問題点を指摘するまでのことだ。

一方、私の忠告を素直に受けとめ、こちらの労をねぎらってくれる人もいた。前者が同じ所で足踏みをしているのに対し、後者がめきめき上達するのは言わずと知れたことである。自分より知識のありそうな人がいたら、なるべく意見を聞くようにすると良い。

以前、グラスゴーのイースト・エンドで開かれた展示会で、私が審査員を務めたことがある。出品者は全員アマチュアだった。審査の時、楽器は番号のみで、製作者はわからないようにしてあった。私は長い時間かけて楽器の出来ばえ、木やニスの質、そして一番大事な音色について丹念に調べた。作品の多くがかなり良い出来で、アマチュアらしさは数箇所にみられるにすぎなかった。また、見た目はあまりよくないものの、音色の点では、他の見栄えのする作品にまさるものもあった。それで、私は後者に軍配をあげた。つまるところ、決め手は音色であり、細部の出来は二の次なのだ。


■ 成功しそうな製作者

それからしばらくして、あるアマチュアが自作のヴァイオリン片手に訪ねてきた。ひどい楽器ではあったが、一緒にじっくり見ながら、きちんとできている点や致命的な欠点を指摘した。最後に彼の楽器とヴィヨームの名器とを並べてみせた。
写真:Violin made by J.B.Vuillaume, Paris, 1868, model GUARNERI DEL GESU

彼は慎重に2台を見比べ、「私のはヴァイオリンと呼べるような代物ではありませんね」と言った。私が「気を落とさずに、安い楽器を買って何回も模作してみてください。5、6回も作れば、自分でも驚くほど上達することうけあいですよ」と言うと、彼はこの助言に感謝し、満足気に帰っていった。

その時のことを忘れかけていたころ、同じ人から、「私と友人の最新作を見て、どちらがすぐれているか判定していただけませんか」という電話があった。そして、ある夕刻、楽器を持ってやってきた2人を応接間に通し、どちらがどちらの楽器かわからないように置いてもらった。

どちらもアマチュアの作品であることは歴然としていたが、非常によく出来ており、ここでも、出来映えの劣る方が音色は良かった。私の正直な感想に二人とも満足そうだった。そして、私の説明に熱心に耳を傾けた。

それが終わっても、二人は帰りたくなさそうだった。そして、前にも訪ねてきた方が、「できれば ストラドかグァルネリを見たいのですが」と切り出した。私が喜んでストラドを2台見せたところ、二人はすっかり狼狽してしまった。2台とも名器でありながら、細部に至るまで全く異なっていたからである。とても同じ製作者の手によるものだとは思えず、また、作りの面でも音色の面でも、どちらの楽器の方が好きか決めかねていたようだ。私は「もし、私がもう1台ストラドを手に入れたとしたら、たぶんそれも全然違うだろうね。彼の並外れた才能なら、同じ時期に全く違う楽器を作ることくらいわけないはずだから」と言った。

結局、二人は私に礼を述べ、謝儀まで差し出した。以上がアマチュアの製作者として成功しそうな例である。つまり、自分の欠点を知って、同じ間違いを繰り返さず、新たな方法でやり直す心構えができている人のことである。
第47話 ~もうひとつのストラド物語・その1~ へつづく