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フランスの伝統を継いだガン家とベルナーデル家

今回は、19世紀後半に高い品質の楽器・弓を世に送り出した弦楽器商会、ガン&ベルナーデルを紹介いたします。
写真:19世紀当時のオペラ・ガルニエ宮前 "Jean-Baptiste Vuillaume" - Stefan-Peter Greiner/Jost Thone, 1998, 9 page "Paris, Grand Opera"より一部引用

ガン&ベルナーデル商会(Gand & Bernardel Firm, 1866-1901)は、19世紀末を代表する2つの製作家系、ガン工房とベルナーデル工房が合併し1866年に設立されました。両家は共にフランスが誇る名職人、ニコラ・リュポ(Nicolas Lupot)の伝統を継承し、35年以上にわたる歴史の中で、1,000本以上の楽器と弓を製作しました。

創設メンバーであるシャルル・ニコラ・ガン(Charles Nicolas Eugène Gand)、ギュスターヴ&エルネスト・ベルナーデル兄弟(Bernardel brothers Gustave and Ernest)らはいずれもリュポの教えを受け継いだ製作者達であり、互いに強い信頼関係で結ばれていました。またシャルル・ニコラ・ガンは母がリュポの義娘であった為、親戚筋にあたる家系でもありました。

写真:右からPortrait of C.N.Gand / Portrait of G.Bernardel, Reference to "nicolas LUPOT Ses contemporains et ses successeurs", JMB Impressions, 2015

良質な楽器をより多くとどけるために

楽器のモデルはリュポから受け継いだストラド型を多く採用していました。フレンチスタイルの外型を用いて製作しているためボディサイズがやや大型になる傾向がありますが、その製作技術は安定した精度で大量生産をするのに向いていました。

板の厚みがしっかりある個体は力強い音を備えており、かつアーチの低い設計により鳴らしやすいのが特長です。同価格帯のイタリア製楽器と比べると、ガン&ベルナーデル商会の作品は100年近く昔に製作されている為、木材の経年変化により生み出される円熟した音色を帯びています。楽器に実用性を求める演奏者にとって最適な作品と言えるでしょう。

また、"Conservatoire Instruments"と呼ばれる楽器を製作しており、これらは当時パリのコンセルヴァトワール音楽院で毎年開催されていたコンクールの1位入賞者へ授与されていたものです。側板には装飾で"PREMIER PRIX DECERNE PARLE CONSERVATOIRE NATIONAL DE MUSIQUE A CHARLES L'AN ..."と、その年の1位入賞者に贈るという文言が書かれています。

写真:Violin made by BERNARDEL.Gustave.Paris.1898

フレンチの名弓、まぼろしの松脂も含む総合メーカー

また、C.ペカット(Charles Peccatte)やJ.A.ヴィネロン(Joseph Arthur Vigneron)、P.シモン(Pierre Simon)、J.アンリ(Joseph Henri)、C.トマッサン(Claude Thomassin)、F.N.ヴォワラン(Francois Nicols Voirin)など、19世紀末を代表する多くの名工が働いており、GANDやGAND et BERNARDEL Freres の焼き印を押して販売していました。

楽器・弓にとどまらず、松脂も製造・販売しており、音色が非常に素晴らしい松脂として評価を得ていました。然しそのレシピが時代と供に失われてしまった為、今日では「まぼろしの松脂(通称"缶ベル")」として、驚くような高値で取引されています。

写真:Violin bow made by Pierre Simon, stamp "GAND A PARIS", ca1850 and Rosins made by Bernardel Firm

リュポの伝統を後世に伝える

1892年にギュスターヴ・ベルナーデルがオーナーとなりました。その後工房は1901年にアルベール・カレッサ(Albert Caressa)が後継者となり、アンリ・フランセ(Henri Francais、ニューヨークの老舗弦楽器商ジャック・フランセの祖父)と共にカレッサ&フランセ商会(Caressa&Francais Firm,1901-1920)として事業を継承しました。

ガン&ベルナーデル商会は35年間に渡る歴史の中で、リュポの系譜を正統に伝承し後世へと伝えました。
第9回はカレッサ&フランセ商会(Caressa&Francais)について紹介いたします。

文:窪田陽平