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心に響く、レジェンドからのメッセージ

1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。

 

第8回 菅沼 準二(ヴィオリスト)

写真: ピグマリウス第27号より
引用元:季刊誌『Pygmalius』第26号 1989年7月1日発行

菅沼 準二 / Jyunji Suganuma

ヴィオラ奏者。昭和13年東京生まれ。ヴァイオリンを岩崎洋三氏にヴィオラを井上武雄に師事。昭和36年東京芸大卒。巌本真理弦楽四重奏団に在籍し、研鑽を積む。後、NHK交響楽団に入団、首席ヴィオラ奏者となる。N響定期にてベルリオーズ「イタリアのハロルド」、堀正文氏とモーツァルト「協奏交響曲」を協演。東京芸大の講師も勤める。
ジャパン・ストリング・クヮルテットヴィオラ奏者。

1.楽器について

―今お使いの楽器は、どういった楽器ですか。

イタリアのね、オールドのマリアーニ(Antonio Mariani 17世紀後半に Pesaroで活躍、マッジーニの弟子といわれている)という楽器なんですけれども。この楽器は文京さんがカットした楽器、胴長が47センチあった楽器だそうですよ。力ットして43センチ弱位じゃないですか、今。47センチは、とてもじゃないけれど支えきれないからね。でも幅の大きさは変わらないですから。縦はつめているけれど、横をつめている訳じやないから、相当大きいですよ。


ーそういった楽器が残っているということは、そのまま当時は弾いていたんでしょうね。

そう、今みたいなハイポジションもないだろうし、派手に動く所がなかったろうから、開放弦に近い音域だったら相当良い音がしただろうと思いますよ。


―たっぷりとした音がしますか。

 特に低弦の方がね。


ーヴィオラは低音部の方が充実してないと?

そうですね。例えば室内楽の時、チェロの節をやっている時にヴィオラが次に最低音を受け持つような時もありますからね。下の響きも必要ですしね。チェロの、丁度中間の音だから、やっぱり音質的にもチェロに近い音もなきゃいけないし。同じレベルの楽器だったら、やっぱり大きい方が響きは豊かになると思います。けれどもね、ただその分大きくなると、今度は細かい動きが非常に難しくなりますから、指を、こうちょっと広げただけで相当な力が入りますから、左手の負担がすごく大きくなります。だからソリストは、やっぱりあまり大きな楽器は使ってないですよ。


ー力ットダウンした場合、全体のバランスみたいなものが崩れないんでしょうか。

ええ、この楽器は上手くカットしてありますね。僕の聞いた話だけど、やっぱり楽器をダメにしちゃったとかそういうケースもあるみたいですけれどもね。


ーヴィオラの場合ですと、大きさもまちまちですしフォームも色々あるので、選ぶのが難しいと思うのですけれど、選ぶ時のアドバイスとか、こういったポイントで選ぶと良いとかいうことがありましたら。

楽器の場合は、すごく良い楽器だといっても、弾く本人が気に入らなければどうしても手が出ないものですよね。だから、健康状態がすごくいいものだと、勧めることは出来るけど、そこから後は本人が気に入るか気に入らないかということが大きな問題ですからね。勧めるといったら、やっぱり楽器の健康状態でしょうね。


―弓はどんなところで選ばれますか。

バランスですね。ヴォワランを使ってますけど、初めちょっと柔らかいかなとも思ったんですが、柔らかいのにコクがあって、すごくネバリがあったものですからね。だから嬉しかったんですけれどもね。前の弓は強い弓だったものですから、音の質がちょっときつかったんです。今度の弓は、そういうことも解消されたし。でもまた、もっと良い弓が欲しくなるんですが。きりがないんですけれど。

 

2. 楽器のケアについて

―楽器に関してですが、コンディションを保つ為に、普段どういったことをなさってますか。

この楽器は、乾燥の度合が強くなってくると、音がちょっとガサガサしてくるんですよね。特に最近エアコンとか、ビルの中はすごく乾燥していますでしょ。だから、ダンピットを入れてます。けれどもね、それを入れてもすぐにカラカラになっちゃう位ですからね。

 

―冬場だけですか?

いや、そんなことないですよ。もう年中ビルの中にいますからね。ビルの中は空調とかでどこもみんな乾燥してますでしょ。


―魂柱の調整といっか、そういった部分は?

出来ればやっばりきちんと調整すべきでしょうね、シーズンによって一定してないですからね。日本は。だから色々な時期によって、ちょっとずつ魂柱を動かしてもらいますけれどもね。


―弓の毛替えなんかは、どの位の割合でなさってらっしゃいますか?

わりかし大雑把な方だから。そうですね、個人では3、4ケ月かな?


―使っていらっしゃる弦は?

最近は上2本、AとDがヤーガーのフォルテと、下2本のCとGがドミナント。ナイロン弦ですね。


―音色はどうなんでしょう。

ドミナントは、付け替えてすぐ音なじむので便利なんです。でも保つ時間というか、良い状態の期間というのはそんなに長くないんです。せいぜい2週間位かな。そういう状態です。その後はまあ、ドンドン伸び切っちゃうのか、固くなってくるんですけれども。ガット弦を使うと、なじむのにすごい時間がかかるんですよね。なじんで良い状態になったかな、という頃に切れちゃうんですよ。ただアメリカなんか行くと、ナイロンを随分使ってますよね、ドミナントをほとんど使っているみたいですよ。これは僕個人、すごく汗をかくから、ガットだと調弦がすごく狂いやすいということもあるんですけどね。上2本は、今までずっとヤーガーのミディアムというのを使っていたんだけれども、この楽器だと、ちょっとなじまなくて、ヤーガーのフォルテを使うとちょっといいんですよ。


―ウィーンフィルですか、すべて団の楽器で演奏すると聞きましたけど、それで専属の調整をなさる方がいて、全部その方が調整をする。

毛替えなんかも全部ね。全部調整を やってくれるんですよね。なかなかそこまではね。まあ、これから先ね、本当に歴史が出来てから可能になることじゃないかと思うのですがね。今現在の色々な事情からしたら、急にすることは考えられないですよね。けれどもね、そういうのも皆きちっとして、そのオーケストラのカラーをね、はっきり出してゆくようなことを、これからやってゆく方がいいと思うのですよ。

3.すべて音楽は音楽

ーヨーロッパに行かれた場合、聴衆の違いとか、環境の違いを感じられますか?

 そうですね、やっぱり良いもの、悪いものに対して、向こうははっきりしていますね。日本だと、言い方悪いけど、多少悪くても、少し良くても同じ位の拍手ということがありますけど。でもやっぱり相当なレベルです。日本のお客様のレベルはすごく高くなってますね。どっちも恐いですけれども。日本だと音楽の種類というんですか、室内楽、例えばカルテットの演奏会なんていうと、オーケストラの聴衆とちょっと違うような人が多かったりね。種類で分かれてしまって いることがあるけれども、向こうの人は全て音楽は音楽で捉えていますね。カルテットの演奏会というと、日本じゃ渋くて、ちょっと年寄りが聴くような何か作っちゃったような所があるんだけれど。

でもね、もう本当に随分底辺が広がってきましたものね。


ーヴィオラ自体の魅力というのは何でしょうか

そうですね、ヴィオラを楽器だけとったら、まあソロで弾くこともありますけれども、大体アンサンブルの中で弾くことが多いですよね。まあ、そういう弾く中で受け持つ役割と言ったら、やっぱりハーモニーを固めたり、きざみと言っているんですけれどもね、リズムをきざ んだりする所で、やっぱり好きになりますから。ヴィオラを弾いているうちに、だんだん好きになってきちゃうんですけどね。又、なってもらわなければ困るからね(笑)

まあ、やっぱり回りにいつもね、いいヴァイオリン弾きと、いいチェロ弾きがいてくれると、ヴィオラ弾きは一番うれしいんですよ。だから、そういう人たちがいると中声部をちゃんと弾けば中声部もいいと言われるし。中声部が充実してくるんです。

4.耳から貯える

ー音楽性を身につけるには、どうしたらいいでしょう。

やっぱり人の演奏会、人というか、いいものを聴くのがいいと思いますけれどもね。耳から貯えるのがすごく大事じゃないかと思うんですけれどもね。僕は学生時代にカルテットをやっていて、カルテットは楽しくて、その当時来たカルテットの演奏会を色々聴きましたよね。その時分に聴いたものは頭の中に残ってます。まあ、カルテットはこう、こういうもの、こうあるべきじゃないかなあと、やっぱり自分の中で聴いていくうちに、やっているうちに出来てくるんですよね。やっぱり聴かなきゃいけないと思ってますけどね。


ー力ルテットを維持するのは難しいという話を伺いましたけれども。

難しいというか、それで全てが成り立つことは絶対に考えられないですね。


―音楽的な面とか実生活の面とか、色々な問題があるんでしょうか。

そうですね、カルテット4人というとね、だいたい一番小さな社会みたいなものでね、すごく仲のいいカルテットというと、なかなかないですよね。仲が悪いといってもね、オーケストラみたいにね、うちの人とケンカしても、別にオーケストラで弾くのは関係ないけど、4人の場合、表立ってケンカしたら、明日の演奏会出来ないんですよね。だからやっぱり、ごっくんと飲み込んで我慢する部分がすごく多いんですよね


ー力ルテットそのものの、力ラーといいますか、アイデンティティーというのは何になるのですか。

やっぱりカラーといいますと、ファーストヴァイオリンのカラーでしょうね。ファーストヴァイオリンが一人、後ほとんど全部変わっているというカルテット、いっぱいありますものね。でもファーストヴァイオリンが変わっちゃったら、そのカルテットの全体のカラーは、がらっと変わっちゃいますものね。


ー師事された先生はどなたですか? 

ヴァイオリンは、岩崎洋三先生に習っていた訳ですが、芸大のヴァイオリンの先生です。ヴィオラは井上武雄先生につきました。井上先生というのは、とにかく怖くて、恐ろしくて。もう昔から有名で!叩かれ、殴られ、先生の家に入る階段を上るのがやっとの思いで、本当に僕らが怒られた最盛期じゃないかな。ほんと、恐かったですね。



ーそれは一生懸命練習していっても? 

ええ、要するにね、こっちがたるんでいたりなんかするとね、叩き直してくれるんですよね。音楽的に言って、こうで、ああで、こう弾けというんじゃないんですよ。根性を叩き込まれた、そういうタイプの先生ですね。でもね、本当は、ものすごく生徒思いで、まあ、飛行機なんかすごく嫌いで、鹿児島の方が先生になると言ったら、列車でね、その生徒の為に学校まで出向いて行ったり、親分肌の素晴らしい先生でした。僕は個人的には井上先生ですね。ですけど、もうその時期、その時期に色々な先生が僕の回りにいたから、ヴィオラ弾きじゃないけれど、一番影響を受けたのは黒沼俊男さんでしょうね。巌本カルテットやっている時代の。素晴らしい室内楽奏者だったんですよ。チェロ弾きでね、その人の影響も受けてるんですね。


ーそれは音楽的な面で。

そう、音の出し方とかね、音の質とかね。


―楽器が違ってもやっぱり得る所が?

 そうですね、あるんですね。

ジャパン・ストリング・クヮルテット(Japan String Quartet/弦楽四重奏団)
1994年4月、ヴァイオリンの久保陽子と久合田緑、ヴィオラの菅沼準二、チェロの岩崎洸の4人は国際交流基金による日本文化紹介派遣事業の一環としてフランスと中近東を巡演、各地で好評を博した。この成果をもとに翌95年、「ジャパン・ストリング・クヮルテット」の前身「クボ・クヮルテット」を結成。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏を目的に掲げて研鑽を積み、95年から3年間、計6回にわたり東京・津田ホールで定期公演を行った。



写真:ジャパン・ストリング・クヮルテット(左から2番目が、菅沼準二氏)

5.若手演奏者へのアドバイス

―演奏上で、何か学生さんに役立つアドバイスがあればお願いします。

そうね、僕はN響に来る世界のソリスト達をちょっと離れた所で見ていると、すごくいいんだけれど、その…髪振り乱してね、夢中で弾いているように見えるけれど、そういう人達に全部共通して言えることは、すごく目が冷静なんですよね。ものすごく冷静な、本当に研ぎ澄まされたものが常にあるんですよね。だから興奮しちゃって弾いちゃうんじゃない。だから、何て言ったらいいんでしょうかね、見ていると、弾きまくっちゃっているという人は、なかなか世界の超一流という人にはいないんじゃないですかね。だから、まあ、学生さんあたりじゃ、ちょっときびしいかなあ、そういう注文は。 



ー冷静な目といったのは、どういった所から作られていくのでしょう。

そうですね、訓練、訓練しかないかな?練習しかないかな。


ーそれは結局、自分に対する厳しさなんでしょうか。

そうでしょうね、楽器を弾くことに100パーセント目を向けちゃったら、他に行く目はなくなりますからね。すごく興奮して弾いているように見えるんだけど、的確にオーケストラをちゃんと聴いてね、見てやっているんですよね。だから勉強するのでも、自分の譜面だけ勉強するのではなくて、まあ、コンチェルトを勉強 するのだったら、オーケストラの譜面を見て勉強することもね。大事だと思うんですけれどもね。


ーありがとうございました。