ご挨拶
ヴァイオリン業界で、現代製作家の作品のことをコンテンポラリー(comtemporary)と呼ぶことがあります。コンテンポラリーとは、同時代という意味です。当たり前のことですが、現代の弦楽器製作者は、文字通り私たちと同じ時代を生きています。
著しいインターネットの発達によって、アンティーク・ヴァイオリンについて、格段に多くの情報が得られるようになりました。その一方で、現代製作家に関しては、一部の世界的に有名な作家を除くと、奏者が楽器を選ぶという文脈において、十分な情報が得られていないと感じています。なぜなら現代においては、作品の情報だけではなく、製作家の人となりや環境、思想といった背景も、楽器を選ぶ重要なファクターだからです。
何故、奏者にとって製作家の背景が重要なのか。現代製作家を取り巻く環境を少し整理してみます。
21世紀に入ると、情報化とグローバル化の波は、弦楽器製作にも大きな影響を与えました。まずは、ストラディヴァリウス等の名器の精細な写真や寸法等が容易に手に入るようになりました。さらに、製作法についても、ワークショップやセミナーなどが国際的に開催されるようになり、技術交流が進んで地域性が少なくなりつつあります。
つまり、現代において、製作家の作風や作品の品質は、製作された地域よりむしろ、製作家自身によって大きく影響されます。実際、イタリアのクレモナでも、ひとつのスタイルではなく、様々な作風で製作されています。また、ひと昔前であれば、良質のヴァイオリンは、伊・仏・独といった製作の伝統のある国で製作されることがほとんどでした。しかし、現代では、従来考えられなかったような場所からも、名器・名弓が生まれています。
また、現在の日本では、奏者が自分の愛器を選ぶ際に、豊富な選択肢があります。選択肢があり過ぎて、かえって混乱してしまう程です。一方で、発達したインターネット環境は、様々なメディアを通して、単に作品についてだけでなく、製作家の人となりや環境を、事前に知ることを可能にしました。奏者が、理想の楽器に巡り合うために、現代作家の背景を知ることは大変有益であり、それらの知見は、作品への理解をより深め、より良い選択を促すでしょう。同時に、奏者に製作背景を伝える努力は、製作者側にとっても、ますます重要になってきます。
これらの事情を踏まえ、今回の展示会では、従来通り実際に試奏できるよう楽器を展示しながら、WEB上にできるだけ多くの情報を、写真、動画、音源、文章といった多岐にわたる様式で掲載しています。また、オンラインを活用し、海外に住む製作者の生の声を伝えるセミナーも企画しました。製作家や作品のことを様々な角度から知っていただきたいとの想いからです。
今回の試みが、コロナ禍における、皆様と現代製作家の作品との、かけがえのない出会いの一助になれば幸いです。
令和2年10月吉日
文京楽器・代表取締役社長
堀 酉基(ほり ゆうき)
すべての楽器・弓はご試奏いただけますが、密を避けるため、予約制とさせていただきます。
予約方法 店舗での試奏は完全予約制とさせていただきます。
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営業時間
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定休日:日・月
※2020年5月26日より営業時間を変更しております