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さて、話は少し先へもどるが、ヴィヨーム氏がパガニーニのグァルネリウスをコピーした話をご記憶のことと思う。その後この楽器は、パガニーニの死後、シヴォリの手に渡っている。このヴァイオリンについては、過去いろいろな人達の話題にのぼり、又書かれてきた。
しかし、このコピーされた楽器を正しく評価し、詳細な点まで精通していたかといえば、必ずしもそうではなかった、と言わざるをえない。だから今から書くことは、おそらく大変興味深いことだと思う。
写真:"J.B.Vuillaume",W.E.Hill&Sons,1972,80page,"Dessin humoristique de l'epoque,representant probablement Vuillaume, a droite"
このヴァイオリンは、まず、その美しさと音質からみて、選りすぐった良い材料で作られたことは間違いない。それに乾燥させたり加熱することによって、一層柔らかくて熟した音色も得られていた。
この楽器には、黄色の地色に淡い褐色のニスがたっぷりと塗られ、いかにも年代ものという印象があった。パフリングの外側の縁の幅は、ジョゼフ・グァルネリの幅よりも狭く、偏平に作られており、四隅のパフリングのカットは、少々腕の立つ職人なら、誰にでもできそうな仕事だった。
私の意見では、音色に関しても、ヴィヨーム氏が作った他の複製にくらべると劣るように思う。しかし少なくとも、この楽器の製作者にとって幸運だったことは、このヴァイオリンが平凡な演奏者の手元にいかなかったという点であろう。いかなる音であろうと、欲するままの音を表現できるシヴォリのような芸術家の手元にあったのは幸運といえよう。
今、パガニーニのガルネリといえば、ジョゼフ・グァルネリの最上級として人々に評価されている。私自身も、所有者によって意見のまちまちなグァルネリを何本も見てきたが、パガニーニのグァルネリに匹敵するものに出会ったことは未だにない。
さて、製作後、25年経つシヴォリのヴィヨームを初めて私が見た時は、粗末に扱われてきた古いヴァイオリンといった外観であった。シヴォリが25年間弾き続けてきただけあって、手入れの悪いせいもあるが、表甲はほこりと松脂の層で覆われていた。
ところが、つい先程の話のガン氏のところで見た楽器は、どうしてもシヴォリの楽器には見えない位、 外観が変わっていた。シヴォリに聞いてみると、次のような話をしてくれた。
しかし、気づいた時は、すでに夜も深くなっており、その晩のうちにその男を見つけ出すのは不可能と思われた。シヴォリはその楽器のことが頭から離れず、眠れぬ一夜を過した。翌朝、明けるのも待ちきれぬ思いで階下へ下りてみたが、誰も起きていなかった。耐えきれない気持ちで、誰かが起きてくるのを待たなければならなかった。
下男達がやっと現われるや、彼らに男の名前と住所を聞いてみたが、結局、誰も知る者はいなかった。頭を寄せ合っていると、一人のボーイが警察にお願いしてみたらどうだろうかという提案をした。
そこでシヴォリは、ボーイに協力してもらって警察署へ一緒に行ってもらい、ようやく地元のヴァイオリン製作者の名簿を手に入れることができた。それを見ながら、二人で一軒一軒訪ね歩いたところ、とうとう探し求める人に出会うことができた。