コンサートホールでの学生向け勉強会 in Amsterdam
オランダ・アムステルダムを代表する音楽ホールの『コンセルトヘボウ』では、コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートなどの通常の演奏会だけではなく、少し変わったコンサートが開催されています。
特徴的なもののひとつが、昨年に引き続き、今年も10月に開かれる『Study Sessions』というコンサートです。
昼間の間、使われていないことの多い大ホールを、試験を控えた学生たちに開放し、生演奏を聴きながら、集中して勉強するための場所として使ってもらおうという試みです。
昨年10月12・13日にも開催されたこちらのコンサートは、限定510席に2000人以上から応募があり、人気を集めました。
クラシックの生演奏で集中力アップ
コンセルトヘボウという
空間を贅沢に使用できるだけではなく、
抜群の音響を誇るホールで、
クラシック音楽の生演奏を聴きながら、学生たちに
勉強に集中してもらうという機会は、世界的に見ても稀なことです。
『
Study Sessions』では、ピアニストを始めとする音楽家が舞台に登場し、学生たちの
集中力アップを音楽で助けます。
クラシック音楽は何かの片手間に聴くものではなく、
音楽自体に集中して聴き入るべきものだ……という意見がもちろんあるとは思います。
一方で、「クラシック音楽は
脳に良い影響を与えるので、
勉強や研究にプラスの効果が出るはず」という研究者の意見もよく耳にしますよね。
リラックスと勉強会の効果
ベルギー・リエージュ大学の神経学者スティーブン・ローレイスさんは、音楽が研究結果に与える影響についてこう語ります。「音楽は確かに私たちの認知機能に影響を与えます」とのこと。彼自身、論文を書くときにはモーツァルトを聴くのが好きだそうです。「私の同僚はヘビーメタルを愛用しています。この本質は、自分が楽しめる音楽はリラックスさせてくれるということだ。
リラックスしていれば、勉強もはかどるはずです」と続けます。
ローレイスさんは、
勉強会に参加する理由はもうひとつあると言います。
「
人間は社会的な動物ですから、一人で過ごす時間が多すぎると、脳にとっては
罰になります。ですから、コンセルトヘボウが学生に『ここに来てください』と言ってくれるのは素晴らしいことです」
音楽のリラックス効果だけではなく、人々が
集まって勉強することにも、ポジティブな効果があるというのは驚きですね。
10月21日には、チェリストのチエコ・ドンカー・デュイビスならびにピアニストのジョシュア・ルッツが出演し、バロックからクラシック、ネオクラシックに至るまで、学習のために選び抜かれたレパートリーを演奏します。
午前・午後の2回に分けて、3時間ずつセッションが行われ、チケットは2.5ユーロで、35歳までの人なら誰でも参加可能です。
昨年の秋、オランダでは図書館や大学などの勉強場所がまだ以前のように使えなかったため、学生たちにとって、この企画は渡りに船でした。
現在、大部分の社会活動が通常に近い形で行われているため、「勉強スペース難民」は昨年10月よりは少なくなっています。それでも同企画が開催される理由には、企画元のサービス団体『Entrée』のある狙いが隠されています。『Entrée』会長を務めるレネ・リスハートさんは、次のように語ります。
「試験期間中の勉強スペースの不足はいまだ深刻です。だからこそ、このターゲット層を美しい音楽でコンセルトヘボウに誘う絶好の機会なのです。私たちは密かに、彼らが全員『Entrée』の会員になり、さらに頻繁にこのホールに足を運んでくれることを期待しています」
ホールに若者を誘致するイベント多数
『Entrée』は、若者をターゲットにしたサービスです。コンセルトヘボウホールならびにコンセルトヘボウ管弦楽団の企画の中でも、35歳までの若年層に絞って特別なサービスを提供しています。
17歳以上35歳未満なら誰でも年額25ユーロで『Entrée』の会員になれます。会員はスペシャルイベントへの参加や、割引チケット、演奏会前後のドリンク、年数回の無料チケットなどのサービスが楽しめます。
解説付きでオーケストラの名曲を楽しむ短いコンサート『Essential』シリーズや、演奏後にDJの音楽とドリンクを楽しめるパーティつきコンサートなど、若者をターゲットにしたプログラムが用意されています。
さらに、同ホールでは、小さい子ども向けの教育プログラムやコンサートだけではなく、高校生や大学生に向けたプログラムも一年を通して用意されています。
幅広い年齢層の聴衆を引きつけるため、さまざまな趣向を凝らしてコンサートが開かれているのですね。
市民スポンサーとのつながりを見据えて
コンセルトヘボウには、ホールやオーケストラのファンを増やし、聴衆とのつながりをより強固なものにし、さらには市民に財政を支えるスポンサーになってもらうためのさまざまな仕組みが用意されています。
例えば、35歳以上の人には『フレンド』などの会員制度が別途用意されています。年額50ユーロ程度から、市民パトロン的な立場でホールやオーケストラに関わることができるのです。
聴衆の裾野を広げていき、多くの人からサポートを受けることで、オーケストラやホールの活動を続けていくことがはじめて可能となります。若年層を含む幅広い層を巻き込むために、コンセルトヘボウが趣向を凝らして行う『作戦』の数々にはこれからも注目していきたいと思います。
取材・文 安田真子