O.S.W.はアメリカの弦楽器製作者協会VSA(Violin society of America)が主催する夏期集中セミナーです。その内容は以下6項目で構成されています。
①Violin Making(ヴァイオリン製作)
②Bow Making (弓製作)
③Restoration Violin(ヴァイオリン修復)
④Restoration Bow(弓修復)
⑤Bass Making(コントラバス製作)
⑥Acoustics(音響学)
講師には世界のトップ・メーカーや、優秀なレストアラー(修理職人)が招かれ、参加者はそれぞれ題材となる楽器や弓を持参し、講師やメンバー同士でのディスカッションに基づいて各々プロジェクトを進めます。
参加するには技術レベル、メンバーからの推薦、職業歴などに基づいた事前審査があり、選抜された職人のみが参加できます。また全行程が英語で行われる為、当然ながら語学力も必要となります。
素晴らしい講師陣に学んだ、6日間の集中講座
私が参加したRestoration Workshopは、VSA副会長Jeffry Holmes氏を主催者に、講師にはボストンの老舗弦楽器店 Reuning&SonのEliane LeBlanc氏、20世紀の名工 F.サッコーニの最後の弟子であるRolland Feller氏など多くのスペシャリストが名を連ねました。
まずは自己紹介を兼ねて、各自が持ち込んだ楽器の修理プロジェクトを発表し講師からアドバイスをもらいます。(もちろん、英語でのプレゼンです...)作業スペースは24時間いつでも使えるのと、会場が大学の美術科棟ということもあり、マシーン関係も非常に充実しています。やる気さえあればいくらでも学べる環境です。
計画についてのディスカッションの後、それぞれが集中して作業に取り組みます。途中、講師による新しい修理技術のデモンストレーションや、スライドを使った講義などが開催されるので、関心のあるセミナーに自由に参加できるのも大きな魅力です。
またO.S.Wでは「ビジネスは一切厳禁」というルールを敷いているにも関わらず、アメリカ国内の弦楽器ディーラーや材料・道具関係の企業からも毎年協賛を得ており、貴重なオールド・イタリアンヴァイオリンが本セミナーの為に無償で提供されるなど、業界のサポートも充実しております。
一般的にはアメリカは競争社会のイメージが強いかもしれませんが、一方で成功者はその知識や経験を伝え、より豊かで良い社会を作らんとする、そうしたプロテスタント的な考えに基づいた教育理念も持ち合わせています。特に修理技術を教えるということは、自らの手の内をある意味で晒す部分もありますが、そこをあえてオープン化し共有するという考え方に新鮮さと共感を覚えました。
何をすべきか、自分で見極めることが大切
修理方法についてどうすべきか迷い、質問した私に、恩師でもあるJeffry Holmes氏はこう答えました。
"(修理方法に)ルールはないんだ。色々やり方はあるけど、どれも正解だよ。トモジロウ、お前はどうしたいんだ?"
"(修理を)一つやれば全部やらなきゃいけなくなる、(どこまで手をかけるか)それを決めるのは君だ。"彼が伝えたかったのは、その
修理のゴールをどこに設定するのか、完成形をしっかりイメージすることの重要性だったのだと思います。修理方法はあくまでもその過程にすぎない、ただ
過程を工夫することで、今までよりも早く、美しく、正確にゴールへとたどり着けるのは明らかなので、それを共有することがO.S.W.の意義なのかもしれません。
アメリカは自由の国だからこそ、自己を示さないと誰も認めてくれない厳しさがあります。業界で名を知られるレストアラー(修理職人)達は発想もスキルも突き抜けており、本当にすごいのですが、彼らの本当の強みは
「この楽器に何をすべきか」を見極める力なのかもしれません。
オーバリンでの6日間は、私にとってテクニックだけでなく、新しいインスピレーションを得ることができた新鮮で充実した経験となりました。これからも一人の修理職人として、ここで得たものを活かしていきたいと思います。