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—音楽との出会いはどんな形でしたか?
私と音楽との出会いというと、もう私が思い出せないくらい昔ですね。2~3歳の頃からすでに両親のもとで、ラジオを聴いたりレコードを聴いたりして親しんでおりましたのでね。ただ、いつどういう事情で音楽を始めることになったのかまでは、はっきり覚えておりません。
ーヴァイオリンを始められたきっかけは?
4~5歳の頃にヴァイオリンの弾きたいと思いましてね。ヴァイオリンを買ってほしいと両親にお願いしました。なぜ弾きたいと思ったのか、どういう事情で何がきっかけでということは覚えていないのですが、とにかく ヴァイオリンが弾きたかったんです。そして、確か5歳の時に楽器を買ってもらえたので、習い始めたのです。
ー家によってヴァイオリンを始める年齢の違いがあるようですが。
普通の学校は音楽が義務教育ではありません。しかし私は、弦楽器の場合はかなり早めに始めなければいけないと思っています。日本の鈴木(スズキ・メソード)は、素晴らしいシステムだと思います。子供が小さいときから始められますし、そして非常に良い教育だと思います。個人差もあると思いますが、全ての子供が同じように成長していくわけではなくて、とても良いヴァイオリニストで3歳で始めた人も知っていますし、大体の人は5~6歳で始めます。中には9~10歳位で始めても非常に素晴らしい人もいますね。けれどもそれは例外的だと思います。
写真:スズキメソード創設者、鈴木鎮一先生
引用元:Wikimedia commons
ー今、お使いの楽器は何ですか。
演奏する時によって色々な楽器を使い分けておりまして、自分のソロ・コンサートや室内楽の演奏会の時、ウィーン・フィルでコンサート・マスターとしてソロのパートを受け持つような場合は、ニコロ・ガリアーノを使用しております。この楽器は1725~30年位、大体18世紀頃のものです。その他に新しい楽器も使用しております。100年位たったフランスの楽器です。また、 オーケストラなどで弾きます時は、私のために特に作ってもらったもので、 ウィーンのクードリールという楽器を使う時もあります。これはとても新しい楽器で、大体8年位たっています。
それから東独にハレという地方がありまして、そこで製作しているシャーデの楽器も最近使っています。シャーデもとても良いヴァイオリン製作者です。
自分の楽器以外では、国立歌劇場とウィーン・フィルに一丁づつ、オーケストラが所有するがありまして、それを使うこともあります。その楽器はレンベックというとても古いウィーンの楽器で、ウィーン国立歌劇場とウィーン・フィルが、それぞれ一丁づつ持っています。これはコンサート・マスター用の楽器で、自分の前任者のボスコフスキー氏やマイレッカー氏等から引き継いでおります。それは代々受け継がれており、団外には持ち出せません。
ー楽器を選ぶときのポイントは?
その質問にお答えするのは非常に難しいのですけれども、例えばクードリールという製作者にヴァイオリンを頼むとしますね。シャーデにしても同じなんですけれど、ヴァイオリンを選ぶと言っても、自分が注文してから3年後位に出来上がってくるのですから、その前にして弾いて試してみる事ができないのです。
ですから、注文をする時にその方の製作した作品で気に入ったものとか、自分に合ったものを見せて、このような楽器を作ってくださいということは言えるのですが・・・。もちろん古い楽器なら買う時に実物を試してみることができますね。でも今、古い楽器を買う場合は、何もミスがないというものを手に入れるのがなかなか大変です。本当に欲しいものとか、良いものに巡り合えるというのが非常に難しいですよね。今まで誰かが持っていたものを譲ってもらうよりも、古いものを探して買うのはさらに難しいでしょう。その上、古い楽器の値段が非常に高くなっているので、お金が払いきれないということもあります。
ー来日は何回目ですか。
数えるのを止めてしまいました。だいたい15回位になるだろうと思います。もしかしたら1~2回多いか少ないかもしれませんが、私の資料を見てみないと分かりません。
ー日本の印象は?
この質問はウィーンから来るとかなり何回も受けていて、何回も繰り返さなければいけないのです。けれども、とても喜ばしい印象を与えてくれています。日本の人達がヨーロッパ音楽に対して、非常に大きな興味を寄せているということを毎回感じます。それはとても大事なことでありまして、ヨーロッパ音楽が普及することは、日本を第二の故郷として広めていくという風な感じを持っています。
例えば芸術的な歴史の中では、他のものを取り入れることを心がけて、最終的にはそれを伸ばしていくということですね。例として申し上げれば、ヨーロッパでも言えることは伝統的なギリシャの哲学と芸術の影響は、直接ではなくアラビアを通じて入ってきたわけですね。例えば紀元前5世紀の伝統的な文化、それが紀元前5世紀にアラビアで発展して、また500年後にヨーロッパに戻ってきた。
ですから、ヨーロッパ音楽の伝統なり経済の伝統なりが日本に入ってきて、日本でそれが発展していっているのではない。これは国の印象と、日本人の聴衆との両方に言えることなのですが、日本の聴衆がヨーロッパの伝統的音楽を非常に興味を持って、しかもよく分かって聴いてくれているのですから、私は本当に喜んで、いつも日本に来たいと思っています。
ーお客様の違いを感じることは?
オーストリアと日本のお客様の違いというのは、今はもうほとんどなくなってきています。
違いを申し上げるとすれば、そこが大きい都市か小さい都市かということ位ではないでしょうか。大きい都市では、音楽会とか沢山ありますからよく行けますね。ところが、私の印象では小さい都市になればなるほど、音楽を知っている方が多いのですね。なぜならば今はとても良いレコードを聴けますし、それから色々な資料もございますので、大きい都市に比べてむしろ小さい都市の方が音楽をよく知っている方が、人口の割に多いのではないでしょうか。
ー欧米の場合、良い演奏と悪い演奏とではお客様の反応が全く違うと聞きますが。
度々思うことはありますが、それは演奏回数によって違いまして、自分が本当にうまく演奏できたなと思う時でも、お客様の反応が良くない時もありますし、それから自分の出来が余り良くなかったのにお客様の反応が活発にして良い時もたびたびありますので、そういうことはその演奏家自身の感じ方によって違うと思います。
例えば、それはオペラの観客、それからコンサートの観客、室内楽の観客によっても違います。私共演奏家にとりまして何が一番嬉しいかと言いますと、お客様が自分たちが出したい聴かせたいと思っているところを良く分かってくれているときです。それに対して反応がある時が一番嬉しいですね。お客様がとってもセンシブル(賢明)だと、とても気分が良いということです。
ー今回は室内楽ですが、どんなことに気を配っていますか。
それは一言では答えられないですね。違った作品を演奏するわけですから、まあ、極端に言わせていただければ、ブラームスの「クラリネット五重奏」は非常に郷愁的な真面目な雰囲気ですし、モーツァルトの「音楽のたわむれ」では、また全然違ったメランコリックなものを、・・・ブラームスの「ファゴットのための弦楽五重奏」にしても違う時代に作られている訳です。
モーツァルトもブラームスも、両方の作品に共通しているものは、ユーモアがあって冗談というものを伝えたいという作品内容は同じです。その中に楽器を使って面白さやおかしさをいかに出していくか、という点で非常に微妙です。ですから解釈におきましてもその作品によって全然違う訳でして、正反対になるかもしれません。これは極端な例を申し上げたのです。モーツァルトの、ディヴェルティメント等はベートーヴェンの七重奏曲等と大体同じようなものです。モーツァルトもベートーヴェンも一つの音楽の形態をとっているわけで、それは当時、宮廷で音楽好きが集まって弾くいわゆる軽音楽のような感じで作曲されています。この形態の中で、非常にシリアスで真面目なコンサート音楽として作曲して、特にモーツァルトの場合はディヴェルティメントの作品においても、すごく微妙なところから真面目でメランコリックな瞬間まで一つの作品の中に全部含まれています。
室内楽の時、何が一番大事かと申しますと、それは自分の部門だけを聴いているのではなくて、内面的に他の人も一緒に弾いているのだということを考えなければいけないという点でしょうね。
写真:宮廷での音楽の様子 / アドルフ・メンツェル『フリードリヒ大王のフルートコンサート』
引用元:wikipedia
ー音楽の他に何か趣味をお持ちですか。
音楽が趣味なんです。例えば私は三つの職業を持っているわけですが、ウィーン・フィルのコンサート・マスターであり、国立歌劇場のコンサート・マスターであり、 アカデミーの教授でもあります。室内楽でも回っていますし、自分のソロ活動もしていますし…。その他に自分の家族に四人の子供達がおります。何か機会があれば読書をすることもあります。それさえもほとんど時間がないんですね。だから、 例えば旅行をしている時に、飛行機の中とか汽車の中で少し読書をする時間があれば読んでいます。
ー音楽をする方へアドバイスをお願いします。
これは音楽家、プロフェッショナルな方についても、アマチュアについても言えることで、全然変わりはないと思います。職業でやるか、アマチュアでやるか、愛好家としてやるか、昔は職業とアマチュアの区別がついていなかったのですね。ベートーヴェンの時代には、オーケストラのほとんどの人がアマチュアでした。現在はかなりアマチュアとは職業が分かれていますね。いずれにしても、両方に関して言えば、とにかくできるだけ音楽の意味を理解して音楽を楽しむということが大事です。音楽に対して努力というのは、専門家にしてもアマチュアにしても同じでありまして、どちらかが音楽に時間を多く使っているか、そうではないかということでしょうね。先ほど室内楽の質問が出ましたけれど、我々も職業としてやっているので、同じようなことが言えると思います。
ー今まで共演した方で印象に残っている方は?
ウィーン・フィルはかなり沢山の方と共演しているので、とにかく一人だけの名前を言うわけにはいかないでしょうね。ソリストにしても、指揮者にしても、それぞれ解釈というものは違っていて、特徴があります。ですから誰が印象に残ったかということになりますと…。例えばロマン派の音楽を得意とする人とか、現代音楽をとてもうまく振る指揮者もいらっしゃいますし 、ユニバーサルで何でもできる方もいます。けれどもそれぞれが特徴を持っていますので、なかなか難しいところです。ウィーン・フィルもたくさんの指揮者が振って下さいますが、今年の定期演奏会でもプログラムとか作品による訳で、それぞれに自分の得意なものを持っているわけです。
ーウィーン・フィルはいつもベルリン・フィルと比較されますが…。
つまりウィーン・フィルとベルリン・フィルは解釈自体が違うわけです。人間の性格が全部違うように、 オーケストラにもそれぞれ性格があります。 フルトヴェングラーは両方のオーケストラを指揮していまして、とても有名な冗談を言いました。「ベルリン・フィルは私の奥様、ウィーン・フィルは私の恋人」だと。両方を知っているのは有名な指揮者、例えばフルトヴェングラーは正直な話、 非常に良いことを言っています。ウィーン・フィルの100年のお祝いの時に演説をしているのですけれども、両方を指揮して知ったそれぞれの性格の違いを非常に真面目に語っています。もしかしたら日本語に訳されているかもしれませんが、フルトヴェングラーの書いた本にそれが書いてあります。もちろん中身を簡単に話すことは出来ますけれども、もし興味があれば演説の内容を読むことをお勧めします。つまり短く申し上げますと、ベルリン・フィルだけに関係するわけではなくて、アメリカの大きなオーケストラ等にも言えることですが、質の良い完璧なオーケストラに関して言えば、経済的な面からいっても優秀な人が世界中から集まってきますね。しかし、ウィーン・フィルの場合は、地方の伝統しかないから純血ということですね。それは国家主義というわけではなくて、 昔のオーストリア帝国だったハンガリーとかその地域の人が集まって作った現在のウィーン・フィルは、古い伝統を維持していますので、ブラス等、特に響きに関して言えば、 ブラームスの作曲した時代の響きに近いのではないでしょうか。
写真:ウィーン・フィルと楽友協会ホール(Musikverein)