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連載『心に響く、レジェンドからのメッセージ』

1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。

第32回 原田禎夫

引用元:季刊誌『Pygmalius』第14号 1976年7月1日発行
■原田禎夫

チェリスト。齋藤秀雄氏に師事。桐朋学園大学卒業。第33回日本音楽コンクール・チェロ部門優勝、毎日芸術賞を室内楽部門で受賞。東京交響楽団、アスペン室内オーケストラ、ナッシュビル交響楽団の首席奏者を務め、その後にジュリアード音楽院へ留学。1969年に原田幸一郎、名倉淑子、磯村和英とともに東京クヮルテットを創立し、2000年まで同カルテットのチェロ奏者として活躍。1970年にはミュンヘン国際音楽コンクールで優勝。東京クヮルテットを退団後もソロや室内楽など幅広い領域で演奏活動を行い、後進の指導にも力を注ぐ。
なお取材時(1971年)の東京クヮルテットのメンバーはピーター・ウンジャン、池田菊衛、磯村和英、原田禎夫。

1. ふだん使う楽器について

コンサートの前の忙しい日程の中、東京・品川の新高輪プリンスホテルでお話を伺いました。写真は原田さんと第一バイオリンのピーター・ウンジャンさん。

ーこんにちは。“楽器と私”というテーマでお話を聞かせて下さい。よろしくお願いします。いままでに掲載したものを持って参りました。


なるほど。ヨーヨー・マもいますね。


ーはい。


彼は確かモンタニアーナを弾いていたんだけど、本当に苦労してましたね。


ーそうですね、その事は言ってました。ストラディバリに替えたら、すぐ自分のものになっちゃったって...。


そうでしょうね、良く分かりますよ。僕は今、モンタニアーナに近いニコラ・アマティのチェロなんですが、その楽器はすごく大きいんです。それで、今年一月の話なんですが、右肩を痛めましてね。一時、ボーイングも難しいほどになってしまったんです。自分の楽器はトノーニなんだけど、それを使っていると、痛みがないのでね。やはり自分に合った楽器がいいですね。


ーヨーヨー・マの楽器も少し小さい感じがしましたね。でも隆起がフラットなので、強い音が出るんでしょうね。


今年の一月だったかな、彼と一緒になってね。その時、弾かせてもらったんだけど、その通りだと思いますよ。あのストラディバリのチェロは、横板の幅が狭いでしょう。私のは厚いんですよ。それにやはりフラットなんで、肩を張って弾く形になり、よけいに負担がかかるんです。


ーところで、メンバーの皆さんは、何の楽器をお使いですか。


ふだんは全員アマティです。今回、第一バイオリンのウンジャン君は、この間買ったガルネリ・デル・ジェスです。第二バイオリンとビオラはアマティですが、第二バイオリンの池田君と良く合うんですよ。第一の方がやはり皆より少し強い音を要求されるのでね。私の場合は、肩の具合が悪いので、今回はトノーニです。もう少したって痛みが完全になくなってから、アマティに戻ろうと思っています。


ー楽器が大きいと大変ですね。


そうなんです。僕の手もそんなに大きくない方なので......。このアマティは全てに大きいんです。だから楽器を弾く事だけに神経を使うんです。ところがトノーニだとすごく楽な感じがして、コンセントレーションが楽器に向けられるんですよ。アマティは確かにすばらしい楽器なので文句は言えませんけど...。


ー何年ぐらい使っていらっしゃるんですか。


カルテット結成当初からだから十二~三年になります。今回はアマティのチェロを持ってこれなくて残念です。

2. カルテットの音

ーカルテットでは、楽器の音色がマッチすることが大切だと思われますか。


それにこした事はないですね。でもそれでなければいけないという事ではないです。カルテットだと、常にブレンドすることが僕たちの感覚だから、どうやってブレンドするかを考えるわけでしょう。ビブラートを合わせたり、弓のスピードを合わせたりで、カルテットの音が出るわけです。四人の楽器が同じだから、出るわけではないですからね。確かに助けにはなるでしょうが。


ーいつも四人で活動なさっているわけですが、一人一人の人間性も音楽に影響しますか。


そうですね…僕は昔、人間的な部分というのは、あまりうまくいかなくても、何とか出来ると考えていたんです。


ー音楽の場だけで...?


そう。でも、やはり人間的にうまくいく事にこした事はないですよ。その方が演奏するのも楽しいしね。


ー日頃、仕事以外でご一緒に行動したりする事は?


仕事が終った後や休みの時は、全く別々ですね。一緒に何かする事はあまりないです。例えば、演奏旅行先のホテルでも階を全く変えたりしています。間違っても隣室に泊まる事はありません。仲が悪いんじゃなくて、努めて意識的にやっているんです。そうでないと精神的に大変ですよ。とにかく、奥さんより一緒にいる時間が長いんですからね。そういう意味でもカルテットの曲が楽しくて、演奏していると忘れてしまいます。


ー日本でも最近、カルテットや室内楽愛好家が増えていますよ。


すごくうれしい事ですね。カルテットの場合、四つの声部があって音楽の原点だと思うわけです。作曲家たちもかなり力を入れてカルテットの曲を作ってますし、作曲家自身大きな試みでもあるんです。どんな演奏家でも、カルテットをやる事には大きな意味を感じるはずです。


ーカルテットの場合、ソリストが集まったらどうでしょう。


すごく難しいのは、ある程度自由きかないもどかしさを感じる事です。他の三人が何かを必ずやっているわけですからね。ピアノの場合は左手を弾くのは自分の意志で自由に出来るけれど、カルテットの場合、伴奏がここを弾くという場合は束縛を感じるわけです。そういう意味で、フリーになるのは難しいですね。またピアノトリオでは、三人共ソリスティックに出来ますが、カルテットの場合、そういう意味でもソリストが集まれば良い演奏が出来るとは限らないんです。


ーその大部分がカルテットでは難しい所ですね。それがまたおもしろ味につながるとも言えそうですね。


そう、結局積み重ねですね。

3. 音楽はまず楽しく

ーカルテット演奏をする人たちへのアドバイスは何かありますか。


大事な事は楽しむ事です。難しさを考えず、まず曲を、そして四人でアンサンブルを楽しむ事ですね。楽しんでから音を合わせるとか、音楽を作ろうという話を先に進めるわけです。日本では難しいと考えがちですが、インフォメーションがすごくて、かえってそれが邪魔している所がありますね。何しろ下手でも”ああ楽しい”と感じる事が一番です。


ークラシック自体、固く取られている事がありますね。


そう、僕たちの受けた教育もそうなんです。この曲は君にはまだ難しいとか、君には弾けないという事できたわけです。僕が海外で一番感じた事は、上手でない人でも大曲に取り組んでやっていることです。私はそれでいいと思うんです。すると次にその曲を弾く時にはもっと楽になっているでしょうし、先にいくともっと楽になるでしょう。完璧に弾けとは誰も言わないし、少しずつそうやって楽しみながらやっていった場合、演奏家も楽しいし、お客さんも楽しめますからね。


ーコントラバスのゲーリー・カーさんは楽しそうに弾いていますね。


彼は本当に自由自在という感じです。ヨーヨー・マもそうですね。音楽を楽しんでますよ。


ーお客さんも楽しむ事が大事ですね。


そうです。でも最近は大分変わってきたみたいです。三年ほど前の時と比較するとね。特に今回、宝塚で演奏した時は、お客さんとのコミュニケーションがものすごく良いんです。若いお客さんも多かったですね。

日本の問題は、その若いお客さんをいかに育てていくかですね。ある年になったら、家庭の事情もあるんでしょうが、演奏会に顔を見せなくなります。ところが、ヨーロッパなどでは育つわけですね。例えば、何回も公演している所では、毎回同じ顔が見れるわけです。僕たちにはそういうのも励みになります。去年こう弾いた曲を、今年はどう弾くだろうと待ち構えているわけですね。

4. 一生続く弓捜し

ーところで、皆さん楽器はアマティですが、弓は何をお持ちですか。


池田君は今ペカットを使っています。とってもいい弓ですよ。その弓を手に入れたのは偶然なんですよ。彼が楽器を捜していた時、ニューヨーク近くで売りたい人がいたんです。とにかく見に行くと、楽器は気に入らなかったのですが、ちょっと隣を見ると弓があったんです。何気なしに弾いてみたらとっても気に入ってその弓が欲しくなり、そっちを買ったんです。今、一番好んで使ってますよ。

ピーターは一時ストラディバリを持っていて、トルテを買ったんです。しかし今度はデル・ジェスでしょ。全く合わなくて、今は弓を捜しているところです。 磯村君は以前、ドッドを持っていたんですが、今度何か買ったんですよね。何だか分からない弓でね。

いや、僕の弓もそうなんです。ロサンゼルスで、アマティがあるから見にこないか、という連絡を受けてね。行ってみたら、やはり楽器より弓が気に入ってね。一応リュポという話です。その前はアダムだったんで少し短いんですよ。だから弾く時、弓のスピードが出せなくて苦労してたんです。弓はいまだに全員捜していますよ。僕もいまだにこれという弓に出会っていません。


ーアマティのチェロとトノーニではぴったりとくる弓は違うでしょう。


そうですね。例えば以前、ボアランの素晴らしい弓を持っていたんです。楽器はスガルビーでした。その時、楽器と弓はマッチしてたんです。ところが、今度アマティになると、とばされちゃって...弓が軽いんですよ。それでアダムにしたんですが、今では少し物足りなくてね。


ー一生、弓捜しが続きそうですね。


そうね。でも今は池田君が一番満足しているんじゃないかな。


ー普通、アマティだとトルテのような弓が合うのでは?


ただ彼の楽器は、ルイ十四世に捧げられたという代物で、ニコロ・アマティとしては色の濃い方で、ルビーとかが埋め込まれている楽器なんです。すごくきれいで、多分にデル・ジェス的な要素を持っているんです。ある人に言わせると、ストラディバリが作ったんじゃないかという説もあるそうですね。アマティがそういう細工をした事はないそうですね。僕のアマティも、ストラディバリが作った物なのかもしれないと言われています。


ー一度見せて頂きたかったですね。


本当に持って来れなくて残念です。私がアマティを使ってよかったと思うのは、楽器としては大きくて苦労したけど、しっかり弾かないと音が出ないという点では、本当に良い勉強になりましたよ。


ー良い楽器を持った方は、皆さん同じ事を言われますね。


そう。ちょっとさらわなかったり、弾く時気を抜いたりすると、音が出てくれないんですよ。


ーそれでは最後に、原田さんの楽器選びのポイントは?


最近、多分に思うんですが、自分の体に合った楽器を選ぶ事ですね。今持っているトノーニも自分の指や体の大きさに合うので、無意識に買ったんだと思いますよ。楽器がいかに弾き易いかも大切な要因だと思うんです。弓の場合、僕たちにとって難しいのは、ソロを弾く時とカルテットを弾く時とは違うという事なんです。試奏の時には、大体ソロの曲を弾きますよね。力強く弾いてOKとなります。でもカルテットを弾いてベイシックな八分音符のとばし方とか、複雑な動きの所になると弾けなくなっちゃうことがあるんですね。


ー音楽に合った弓を持つという事ですか。


そうね。理想的には両方弾ける弓を持つことだけど、なかなか見つからないね。二~三本音楽に合った弓を持つという事ですね。


ー今回は本当にお忙しいところを有難うございました。