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文京楽器工房長の岡本です。スクロールの起源についてははっきりしたことがわかっていないようです。楽器の頭部の彫刻がもつ歴史と意味、国やメーカーによる違いなど、簡単にご紹介したいと思います。


製作者の技術の見せどころ

ルネサンスやバロック時代の家具や調度品、建築の装飾などに見られる唐草模様のバリエーションではないかと考えらえる渦巻きのデザイン。この唐草模様は古代から広く分布し、ローマ時代以降はキリスト受難の象徴として宗教的な意味を持つようになり、聖堂の内部装飾や石棺の装飾にさかんに用いられました。

人の頭部が彫られたものは、楽器がよく鳴るようにとの願いやまじないの意味もあったでしょう。時にはパトロンの注文によって彼らの頭を記念に彫ったものも見受けられます。

製作者が音質や音量に囚われず、自由に想像力を表現する唯一の部位として、彫刻の技量を試したかもしれません。
これら頭部の彫刻は、胴体の装飾と同様に時とともに次第に消えていきます。人や獣の彫刻は、パトロンなどの趣味や嗜好が反映されますが、楽器が人から人へ代々受け継がれたり、商品として流通し始めると、その特定の趣味や記念が煩わしくなってきたのかもしれません。普遍的な形として渦巻きだけが定着していきました。


イタリアとドイツの違い

歴史の長い製作地であるイタリアとドイツでは、スクロールの形状にそれぞれ特色があります。正面から見たときのしぼりの位置は、ドイツ系が中間部の少し上部にくるのに対し、イタリア系のそれは一番上に位置しています。また、巻目び先端がイタリア系では左上で止まっているのに対し、ドイツ系ではさらに中の方まで進んでいるものが多いようです。

裏側の下部の曲線については、イタリア系が正確にディバイダーで測られているのに対し、ドイツ系は細長く伸びた感じが出ています。

ストラディバリのもつ躍動

美しいスクロールを残したアマティとストラディヴァリでは共通する部分はあるものの、異なる性質をもつといえます。アマティは黄金分割をそのまま応用したような、優雅で落ち着いた形状が特徴。ストラディヴァリは黄金分割を規範としながらも、もっと動的に、自分の内面を語りかけるかのような印象を受けます。

スクロールは普通、彫りを深くすると力感が出るのですが、ストラディヴァリは深く彫るのではなく、各部分の彫り具合を変えることで流れを作り出しているのです。

オールド楽器を見ていると、時にはノミのあとやディバイダーで測った時の針の穴などがそのまま作品に残っていたりして、バイオリン製作史を築いた人々の、工房での仕事ぶりやウッドワークの息遣いまでもが想像されます。


スクロールを彫るために

型を何種類か用意しておきます。ストラド型、デルジェス型、またオリジナル型を製作する楽器のイメージによって採用します。それを材料の上にあて、型を描き大雑把に渦巻きのいちばん低い方から巻目の中心へ向かって彫り進んでいきます。左右対称に作るため、様々な方向から見る次元を捉え彫っていく必要があります。

彫りの深さもところどころ変えることで、同じ図面をひいたものがかなり違った感じにもなるのです。

参考文献:季刊ピグマリウス 第22号, 1988.7.1, 文京楽器製造株式会社発行, 6ページ