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楽しいテレワーク演奏動画の作り方

昨今、インターネット上で演奏動画を見る機会が増えてきました。ソロからオーケストラ合奏にいたるまで、さまざまな動画がYouTubeやSNS上で配信されています。ご自分でも動画を作った方や、これから作ってみたいと考えている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、楽しく質の高い動画を自宅でも作るための方法について、実際に人気動画を作った演奏家にインタビューしました。

芸大生が作った人気のテレワーク演奏動画


別々の場所での演奏を一画面に集めた『テレワーク演奏』の動画を見ていて、「別々の場所にいるのに、一体どうやってアンサンブルをしているのだろう?」と不思議に思った方がいらっしゃるかもしれません。かくいう筆者もその一人です。

こちらの動画、【芸大生テレワーク】ルパン三世’80弾いてみた【コントラバス5重奏楽譜】 Lupin The Third / Double bass Quintetでは、現役の東京藝術大学の学生たちがルパン三世の有名な主題曲『ルパン三世のテーマ‘80』をコントラバス・アンサンブルで聞かせてくれます。公開されてからわずか1か月のうちに3万回以上の視聴回数を記録した人気の動画です。



ご覧いただくとわかるとおり、演奏はもちろん映像も楽しいこの動画。演奏、制作に関わった東京藝術大学器楽科コントラバス専攻4年の水野翔子さん(まつり)、米光椋さんにお話を伺いました。

外出自粛の関係で直接人と会う機会がなくなってしまったけれど、少しでもアンサンブルをしたいと考え、東京藝術大学の同期5人で動画を作ろうと考えた水野さんたち。五重奏のレパートリーから「みんなが知っている曲の方が盛り上がるかな」と思ってルパンを選曲したのだそうです。もともと動画制作にも関心があった米光さんが録音や映像の編集を一手に引き受け、プロジェクトが始まりました。

お二人に教えていただいた動画の作り方を手順を追ってご紹介していきます。

手順① 基準となる演奏を録音し、それに合わせてそれぞれのパートの音だけを録音

基本的に演奏の動画では、以下のような方法を使って録音します。Skype、Zoomなどの映像つきの通話サービスを使って合奏しようとすると、どうしても音がずれてしまって難しいため、それぞれの演奏者が録音・録画を行うのが一般的です。

1)あらかじめ決めたテンポのメトロノームのクリック音に合わせて、それぞれが録音
2)基準となる演奏に合わせて、それぞれが録音

今回は2)の方法で、まず合奏の土台部分となる米光さんの刻みのパートを最初に録音し、他のメンバーと共有。各自がその演奏を聞きながら、それぞれのパートを録音しました。

「それぞれスマートフォンで録音しましたが、(特に低音域のパートを担当していた)僕だけコンデンサーマイクを使っています。コントラバスは音域の低い楽器ですが、メロディなどで高い音域の音を弾く場合はアイフォンのマイクでも拾えます」(米光さん)

手順② 全パートの録音を合わせて編集

全パートの録音がそれぞれ仕上がったら、米光さんがその音声ファイルを一つにまとめ、編集します。音量や音質を調整する作業を行います。
「コントラバスは音域が低いので、イコライザーで音色をいじったり、聞きやすいようにちょっとエコーをつけたりと音の調整もしました」(米光さん)
米光さんは音楽制作ソフトウェアのLogicを使用していますが、iMac付属のソフトウェアGarageBand(ガレージバンド)でも簡単な調整はできるのだそうです。
ここまでの作業が終わると、映像なしの音声の部分が完成します。

手順③ 演奏に合わせて、それぞれが映像を撮影

音ができたところで、今度は映像をつける作業に入ります。いわゆる『当て振り』です。
このとき、スマホを撮影対象から近すぎない場所に置いておけば、後で映像を編集する際にクローズアップして寄りカットに加工することもできます。

手順④ 全パートの映像をまとめる

各演奏者の映像が揃ったら、映像をまとめて編集します。

動画では、映像としてのビジュアルの魅力もとても大切。映像編集を担当する人の腕の見せどころです。
ポイントは、音楽に合わせて映像を編集すること視覚的に楽しくかつ音楽の邪魔にならないように気をつけることだそうです。仕上がった動画では、ソロの部分はもちろん、合いの手、特徴的な奏法のパートの映像がぱっと現れたり、大きく表示されたりと映像としての面白さが光っています。編集を担当する人が事前にある程度仕上がりを想像してからメンバーに指示して撮影してもらことのが大切なのだそうです。
「基本的にはメンバーに通しの動画を撮ってもらっているので、アップしたり画面が切り替わっているように見えるのは、それを僕が切り取って編集しているんです」(米光さん)

衣装などのちょっとした工夫も、視覚的な効果を発揮しています。
「色味が揃っていた方がいいかなと。コスプレになると見てる人には一番面白いけれど、そこまでいかなくても手軽に『何色で揃えてきて』と言うとやる人も負担じゃないし、統一感があっていいかなと思います」(米光さん)

音と映像を別々に録ることの利点

今回のように音と映像を別々に録ることで、動画のクオリティを上げられるポイントがいくつもあります。
まず、音を録る時は音に集中でき、何度も録り直して、最終的にミスのない良いテイクを使えること。さらに、編集時に音の細かい調整を加えることも可能です。
一方、映像を撮る時は視覚的なことに集中できるので、笑顔を見せたり、動きをつけたりすることができます。ちょっとした遊び心があったり、演奏者の楽しそうな表情が見えると、動画を見ている人もつい笑顔になってしまうこと、ありますよね。

「クオリティが低かったら『コントラバス五重奏だ、珍しい』で1回見て終わってしまう。でも中身を見て、クオリティが高かったら2回、3回くらいは見てもらえるかなと思います」(米光さん)

「音と映像が別というのはありがたいです。動画の第2弾では一番上のパートを弾いていたのですが、意外と難しくて。音に集中していないと、音程やフレーズとかも考えてる余裕がなくなる。実際、絵的にはめちゃめちゃ楽しそうに弾いてるんですけど、(録音のために)弾いてるときはあまり余裕がないので、そばから見ると『無』って顔になっていると思います(笑)」(水野さん)

思いが伝わる動画作りのポイント

当然のことながら、『お客さん』の顔が見えない動画のための演奏は、演奏者にとってコンサートでの生演奏とは大きく異なります。

「演奏会だと、『今日はお客さんいっぱい入っているな』とか分かるけれど、動画はできても、たくさんの人に見られるのかどうか、その時はまだ分からない。それがある種面白いところでもあるし、違いですね」(米光さん)

「今回のテレワークの場合は、常に自分がアウトプット側にいるというのがすごく印象にありました。生で演奏しているときは、お客さんの反応やその場で一緒に弾いている人たちの空気とかをインプットしながらアウトプットするみたいな感じがある。(動画のための演奏には)それがないので、みんなが録ってくれた音を聞いて、細かいところを『ああこうしたいのかな』と想像の世界で……。やっぱり得られる情報の量が格段に少ない。普段の演奏とは別物かなという気がします」(水野さん)

動画の良いところは、何万人もの人に音楽を届けられる可能性があること。さらに、それぞれの人が都合の良い時間と場所で楽しむことができます。見る人の心に届く動画づくりの秘訣は何でしょうか。

音のクオリティを上げること。あと、楽しさを伝えるために、動画のテンポも大切かなと。テレワークでは固定で4画面があって最初から最後まで同じというのも多いと思うんですが、曲に合わせて動かしたりとか」(米光さん)

視覚的に変化があるのは見ていて楽しい動画の重要なポイントですが、やりすぎは厳禁です。何よりも大切な演奏を邪魔しないように気をつける必要がありそうです。
演奏も聞いてもらいたいし、絵も見てほしいので、バランスが難しい。画面が4分割だけの動画だと演奏を聴くことがメインだし、画面がうるさいと演奏に意識が行きにくく、集中できない。そういう意味で、米光くんの編集は画面が見やすいし、コントラバスという楽器の性質があるかもしれませんが曲も聞きやすくてバランスが取れているような気がします」(水野さん)

現在、第3弾の動画も準備中とのこと。楽しみです。
取材・文/安田真子