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1984年から1993年まで、文京楽器が発行していた季刊誌Pygmalius(ピグマリウス)より、インタヴュー記事を復刻掲載します。当時、Pygmalius誌では古今東西のクラシック界の名演奏家に独占インタヴューを行っておりました。
レジェンドたちの時代を超えた普遍的な理念や音楽に対する思いなど、心に響くメッセージをどうぞお楽しみください。
—数年前、私どもがヨーヨー・マ氏にインタヴューした時、彼の楽器についてお話をしたことがあります。確か彼もストラディヴァリ(A.Stradivari)の前に、モンタニャーナ(D.Montagnana)のチェロを3年ほど弾いていたのですが、この楽器を弾きこなすまでにずいぶん時間が必要だったが、ストラディヴァリのチェロに変えた時は3か月ほどで思うように弾きこなせたと仰っていました。ハレルさんの場合はいかがでしたか?
私のモンタニャーナは、ヨーヨー・マ氏の使っていた楽器より弾きやすくできています。というのはセンター部分でカットダウンされており、型も弾きやすく音の焦点がとってもはっきりして綺麗な楽器でした。とても気に入ってまして、弾き始めてもう25年にもなるんですよ。
ーハレルさんのストラディヴァリは1673年製で、ストラディヴァリの楽器としては初期の頃ですね。
ええ、私のチェロはアマティのようにも見えますしね。横板と裏板はポプラなんです。私がこの楽器を最も興味深く思ったのは裏板なんです。
実はバスバーの修理で表板をはずした時、ニューヨークのジャック・フランセ(Jacques Français)氏のところにお願いしたのですが、その職人のルネ・モレール(René Morel)氏が裏板を測ったところ、なんと13ミリもあったのです。普通はせいぜい8~9ミリ程度でしょう。とっても厚かったし、とても厚く、ずいぶん重たかったですね。モレ―ル氏もとっても興味を示して、“ポプラ材でこんなに厚く作っているんだ”ってね!
柔らかいポプラの材料が優しくデリケートな音を作ると私は思っています。そして魂柱を強めにして力強い音を引き出すんです。とても良いチェロだと思いますし、モンタニャーナよりは優れていると思いますが、ここ数週間はモンタニャーナの方を使用しています。実は今回の来日もモンタニャーナを持ってきているんです。多分、ストラディヴァリより弾きやすいからでしょうね。
ー以前インタヴューした東京カルテットの原田さんのお話しでは、アマティのチェロはとても強く、弾いていて腕を痛めてしまうほどだったとか。そんな時はトノーニのチェロを使っていると仰っておられました。初期のストラディヴァリウスとはいえ、かなり強い楽器なんでしょうね。
ええ、私も彼の楽器は知っています。良い楽器、例えばゴフリラ、モンタニャーナ、そして栄光あるストラディヴァリの楽器を自分のものにするためには,
時間がかかりますね。
写真:アントニオ・ストラディヴァリの1673年製チェロ、Ex Du Pre, Harrell
引用元:書籍 CHRISTIE'S ”THE ART OF MUSIC” p62-63より
ーモンタニャーナの前は、何をお使いでしたか?
ダーヴィド・テクラ―(David Tecchler)です。とっても良い楽器でしたよ。17歳の時に手に入れたんですが、ちょうどその頃、ソロ・プレイヤーとして出発した時で、とっても素敵な音で気に入ってたんです。ただ、力強さには欠けましたね。ピアノとのデュオやオーケストラとのコンチェルトで演奏する時には良くなかったですね。
ー そんな感じの楽器では、色々ご苦労もおありだったかと思います。
そうなんです。それでテクラーを手放してテストーレ(Testore)を手に入れました。テストーレもとても良い楽器でしたが、その後、モンタニャーナにしたんです。とっても高くてね!大変だったんですが、もっとひどいことに私がチェロを買ったすぐ後に保証人だった私の両親が亡くなりましてね。最初のテクラーの何倍だったか、今じゃ考えられない程です。
ー弦は何をお使いですか?
私はピラストロのクロムコア・スチールを使っているんです。ガット弦も使います。ストラディヴァリには、C、G、D、にガット弦、Aにクロムコアを張っています。
ー日本では、ヤーガーとスピロコアの組み合わせがとてもポピュラーですが。
スピロコアの弦はとても良いのですが、演奏中にピッチが上がってしまうことがあるんです。ほとんどのスチール弦がそうですね。
でもクロムコアはピッチの狂いがとっても少ないんです。クロムコアのA線はヤーガーよりも密度が高くなっているんですね。最初、クロムコアをつけて弾いた時、柔らかくてあたたかなヤーガーのような音がしたんです。
私の使っている少し小さなモンタニャーナにはガット弦ではなく、スチール弦を張っています。その方が弾きやすいんです。
ー確かに良い楽器には、クロムコアなどのスチール弦でよい音がしますが、ステューデント・クラスの楽器だとそうでないことがありますよね。
そう思います。
ーステージの上では、ガット弦は使いにくいのではないかと思うんですが。
そう、ピッチが変わってしまいますからね。
ー弓は何を使っていますか。
ジークフリードを使っています。ロサンゼルスに住んでいる弓作りの人の弓なんです。あと、トルテ、パジョー、それとメアーを持っていて、そのうちのトルテを時々使います。
ジークフリードの弓は角弓でトルテよりも演奏はしやすいんですが、音の出方やサウンド自体はトルテの方がいいんです。
写真: ピグマリウス第20号より
引用元:季刊誌『Pygmalius』第20号 昭和63年1月1日発行
ー何歳くらいからチェロを始められたんですか。
私がチェロを始めた時はもう成長していたので3/4のチェロから始めました。チェロはヴァイオリンと弾き方も違うので、2~3歳の頃から始めるのではなく、大きくなってある程度の力がついてから始める方が良いと思います。
私は18歳の時クリーヴランド管弦楽団に入団して、その後10年間そこで勉強しました。62年から71年までです。それからニューヨークへ移って、ジュリアード音楽院で教え始めました。86年からはロサンゼルスでマスタークラスの12人を教えています。
ー日本で演奏して印象はどうですか。
日本の聴衆は世界の中でもとても素晴らしいと思います。演奏にとても集中して聴き入っているのは素晴らしいことです。多分少し内気で自分の気持ちをあまり主張しようとしないんでしょうけど。けれども日本人のそういうスタイル、演奏に集中して聴き入っているスタイルは、大変良いことだと思います。
ーヨーロッパの聴衆と日本のそれとはやはり反応が違うんでしょうね。
ええ、ヨーロッパの聴衆はダイレクトに自分を主張してくるんです。でも、今回の日本での渡辺康雄さんとの演奏では、私はヨーロッパの時よりも多くのアンコールに答えたんですよ(笑)。
ーええ、あまりにサービス精神が素晴らしいので、喜んだり驚いたり実はしていました(笑)
私は1日に少なくとも7時間以上は音楽と関わっています。それは演奏すること、練習することはもちろん、演奏旅行に出かけていることやチェロを生徒に教えていることなど沢山のことがあります。他のどんなアメリカ人よりも多くの時間、仕事をしているんじゃないですか(笑)。
でも、そうやって沢山働くことは悪くないことですよ。とってもエキサイティングだしね、そういう仕事をすることは。たとえ今よりもっといい仕事につくことがあったとしても、今の仕事を悪く思ったり、後悔することはないでしょうね。
写真: ピグマリウス第20号より
引用元:季刊誌『Pygmalius』第20号 昭和63年1月1日発行
ー日本のアマチュア・プレイヤーに何かメッセージをお願いします。
アマチュア・プレイヤーに言えることは、とにかく練習に集中することですね。特にウォーミング・アップに時間をかける必要はないと思います。練習というものは、自分ではどんなにうまく弾けていると思っていても、それは音楽を形成する上では単なる過程にしかすぎないのです。
むずかしいパッセージを練習する時は、注意深くそのフレーズを弾くように練習し、また時間を決めて練習することが大切です。例えば15分で2バースと決めて練習します。これは簡単そうですが、やってみるととても難しいことです。自分自身で順序良く決めて練習しなくてはなりません。
まあ、例えるなら汽車に乗るようなものですね。時間通りにやらなくてはいけないからね(笑)
ーアマチュアの人に、楽器を選ぶ時のアドバイスが何かありましたら教えて頂きたいのですが。
アマチュアの方の場合、とても素晴らしい音がするなら楽器のコンディションを余り心配する必要はないと思います。自分の楽器が好きであるという気持ちを高めることが重要だと思います。でもやっぱり健康で割れや傷の少ないものが価値のある楽器でしょうね。なぜならそういう楽器こそ強い音がして、質の高い良い楽器だからです。A線がよくてもD線がよくない、これでは良い楽器とは言えません。4本の弦が平均して質の高い、強い音がするものでなくてはね。私はいつも私の生徒に言うんです。「チェロには4つの音しかない。4本の弦しか張っていないからね。」
ーどうもお忙しいところをありがとうございました。
写真:Photo by ChristianSteiner
引用元:wikimedia commons