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写真:ニースの眺め シャトーの丘から ("Panorama of Nice by Rafael Puerto, wikipedia)

今回は20世紀ニースの製作者、ピエール・ガッジーニについて紹介します。イタリア統一の代償としてフランス領となったニースですが、文化的にはイタリアの影響を強く受けており、ガッジーニの作品もまた、モダンイタリアンと評されるべき芸術性と機能を持ちあわせております。

■ 生い立ち

写真:ガッジーニ肖像画 (Photo Gargano, Collection Academia Nissarda)

ピエール・ガッジーニは叔父にあたるイタリア人製作者 アルベルト・ブランキのもとで弦楽器製作を学びました。1924年より軍役でパリに滞在していた際、製作者 ルイ・ビロテと知り合い、仕事を共にしていたと考えられています。1927年にはニースへ帰国し、再びブランキの下で働いた後、1934年に独立しました。


■ 隠れた実力派

1949年にはハーグのコンクールにてカルテット製作賞を、ベルギーのリエージュコンクールでは金賞を獲得するなど、数々の受賞経験を誇ります。ガッジーニの作品はモダン・イタリアン楽器と比べても遜色がないと評され、プレイアビリティに優れた隠れた名器として、欧米諸国ではプロ演奏家の間でも人気が高いようです。

その秘密は、ニースというイタリアに強く影響を受けた土地で製作を学んだことによる、楽器の構造的な特徴にあると考えられます。

■ 作品の特徴

写真:Violin made by GAGGINI, Pierre, 1937 

同時代のパリやミルクールの楽器とはスタイルに大きな違いが見られます。 それらモダンフレンチ作品はフラットアーチ構造の作品が多く、鳴らしやすいが遠鳴りしにくい特徴があるのに対し、ガッジーニの楽器は立体的なアーチ構造を持ち、コンサートホールの隅まで伸びる音色を備えています。

また乾燥などにより自然発生するニスのカラカーレ(ひび割れ)はプレッセンダのようなトリノ派のそれに酷似しており、外観に深みを感じさせます。

1934年から1942年にかけての作品はブランキの影響が良く表れており、なで肩で丸みのあるアウトラインが特徴的です。 1942年以降は、よりオリジナリティあるモデルへ変化し、やや四角張ったアウトラインを持つ大型モデルを用いました。

1982年の時点で、ヴァイオリン380挺、ヴィオラ50挺、チェロ26挺とポシェットヴァイオリン4挺ほどの作品を製作したとされています。

■EILA創立メンバーとして

写真:1955年当時の会員写真 (http://www.eila.org/mission/)

EILA(Entente Internationale des Luthiers et Archetiers) は、1950年に設立された欧州発の国際製作者協会です。 第二次世界大戦により荒廃したヨーロッパに、再びヴァイオリン・弓製作の芸術文化を復興し、次世代へと繋げていく事を目的として発足しました。

各国メーカーの国際的な親睦と交流を通して互いの芸術性を学ぶこと、そして作品の品質を維持する為に最適な手段を考え、次世代の職人を育成する活動を行なっています。 ガッジーニはEILA創立メンバーの1人であり、国や人種を超え、優れた芸術文化を後世に伝えていこうとする活動を立ち上げた、我々ヴァイオリンに携わる者にとって偉大なる先輩だと言えます。

現在では製作者だけでなく、鑑定家や修復士のメンバーも加盟し、会員数は154名にものぼります。鑑定家ではイギリスのチャールズ・ベア氏、オランダのアンドレアス・ポスト氏、イタリアのエリック・ブロット氏、イタリア製作者ではクレモナのシメオネ・モラッシ氏、パルマのエリーザ・スクロラヴェッツァ氏、日本人製作者では園田信博氏、松下敏幸氏など、世界中から様々なアーティストが在籍しています。
写真:楽器内部のスタンプデザイン

ガッジーニはプロユースに耐え得る真の実力派メーカーであるばかりでなく、未来の文化発展を願って尽力した行動は今後さらに評価されるべきと言えるでしょう。

彼のインターナショナルな感性は、これまでのニースの歴史が育んだ恩恵だったのかもしれません。

文:窪田陽平 

動画:ガッジーニの製作風景