■日曜・月曜定休
Closed on Sundays & Mondays
10:30~18:30
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1F 2-2-13 Koishikawa, Bunkyo-ku,
Tokyo 112-0002 JAPAN
後楽園駅
丸の内線【4b出口】 南北線【8番出口】
KORAKUEN Station (M22, N11)
春日駅 三田線・大江戸線【6番出口】
KASUGA Station (E07)
「まあいい。君にとってこの楽器はなんの価値もないことがはっきりしたんだ。売る気はないかね?」とたたみかけるように言うと、「できればそうしたいんですが、元がとれないと困るし……」と言うので、売った時と同じ金額で買い取った。彼は、私に頭が上がらないという様子で、自分の非礼を深く詫びた。私としては、私に対してというより、ヴァイオリンに対して無礼な奴だと感じていた。それで、楽器をこんな奴の手元にこのまま置いておくということがどうしても許せなかったのである。
一件落着と思ったのもつかの間、ある朝、この演奏家がホテルの私の部屋にやってきて、あのヴァイオリンを返してくれと言ったのだから、呆れた話だ。「そりゃまたどうして?」ときいても、彼は「高く買い取るから」の一点張りだった。こんな男にまた楽器を渡すなんて御免だと思い、「それはできないし、しない方が君のためだ。いずれ、君にもわかるだろうが」と言っておいた。それにしても、どうして気が変わったのだろう。
その謎はすぐ解けた。どうやら、同じ街のある楽器商が、自分のねらっていた楽器が取り引きされたと知るや、この演奏家のもとへとんできて、「どうして売ったりしたんだ⁉あの楽器の昔の音色を知っていて、どんなに高くても欲しいというお客が二人もいるんだ」と責め立てたらしいのである。そして、なんとか私から楽器を取り返すようにとそそのかされ、演奏家はその気になったわけだが、その試みが無駄に終わったことは今さら言うまでもない。