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連載『我らが至宝―ヨーロッパの楽器博物館を訪ねて―』

第2回 クレモナ・ヴァイオリン博物館 (Museo del Violino, Cremona) 前半

ヨーロッパ各地の音楽・楽器博物館をめぐる当連載『我らが至宝―ヨーロッパの楽器博物館を訪ねて―』では、それぞれのミュージアムをご紹介するだけではなく、スタッフや専門家の方々に思い入れのある楽器について語っていただくことで、展示楽器に新たな角度から光を当てます。

今回は連載の第2回として、イタリア・クレモナが誇る弦楽器ミュージアム『ヴァイオリン博物館』を訪ねました。

クレモナ生まれの楽器の里帰り

今回は、ヴァイオリン博物館に在職する展示室担当職員安田惠美子さんにお話を伺いました。もともとイタリアで図書館の目録を取るお仕事をされていた石井さん。8年前に同館オープンのニュースを耳にして、求人に応募し採用され、現在にいたるまで来館者をガイドされているほか、展示楽器の使用状況についてのデータ作成にも関わっています。

イタリア・クレモナは、アマティやストラディヴァリたちが工房を構えていたという歴史から、『現在の形のヴァイオリン生誕の地』として日本でもよく知られています。国際楽器展示市『モンドムジカ』や弦楽器製作コンクールなどのイベントも例年開催されていることでも有名です。しかし、ヴァイオリンに特化した博物館がオープンしたのは、意外なことに2013年9月になってからのことでした。同博物館の成り立ちについて、安田さんはこう語ります。

1961年から、当時のクレモナ観光局長アルフレッド・プエラリ(Alfredo Puerari)さんという人の先導で、『クレモナ生まれの楽器をクレモナに呼び戻そう』と言う運動がおこり、その一環で、国外に売られて世界中に散らばっていた楽器を(クレモナ観光局が)購入しはじめました。今日に至るまで、クレモナ市の弦楽器コレクションとして、収集は続けられています。
博物館が開く前は、大聖堂広場に面した市庁舎内の部屋にこのコレクションが展示されていました。ストラディヴァリの遺品コレクションも、一時期はクレモナ市立博物館の一角に『ストラディヴァリ博物館』として置かれていたものです。

このように町のあちこちに点在していたヴァイオリン関係の資料全てを、2013年9月14日からヴァイオリン博物館として、この建物に一括して展示するようになったのです。観光客にとっては分かりやすくなりましたが、日本からの音楽ツアーなどに組み込まれ、定着してきたのはここ数年ですね」

博物館の建物には、クレモナ市の所有する、1941年建立のファシズム建築の芸術館(Palazzo dell'arte)が使われています。古い建物だったのを、地元クレモナの大手製鉄工場の社長ジョヴァンニ・アルヴェーディ(Giovanni Arvedi)さんが改修費用を一手に受け持ってヴァイオリン博物館とオーディトリアムに作り替えたことで、現在の形のミュージアムが実現しました。
ちなみに、アルヴェーディさんは、現在もご夫婦でストラディヴァリ・フェスティバルに参加される大のクラシック音楽好きなのだとか。オーディトリアムには、彼の名が冠されています。

世界に誇るコレクションの特色

クレモナ生まれの楽器コレクションは、世界に類のないもので、同館の目玉の一つです。赤いビロード調の第5展示室にヴァイオリンの代名詞ともいえる銘器ずらりと並ぶ光景は圧巻です。

「クレモナ市の弦楽器コレクションは常設展なので、いつでも鑑賞できます。ほぼ年代順に並んでいて、一番最初にストラディヴァリのチェロが置いてあります。そして、アマティ一家グァルネリ一家のそれぞれ三世代の楽器があり、最後にストラディヴァリの楽器が3台。彼が若い時の楽器2台と、黄金期の楽器が1台あります」

同館では、さらに『フレンズ・オブ・ストラディヴァリ』という国際的なネットワークを活かした特別展示も設けられており、世界で指折りしか存在しないストラディヴァリのギターマンドリンなどの貴重な楽器も国内外から借り出され、入れ替わりで展示されています。

「『フレンズ・オブ・ストラディヴァリ』という活動は、博物館が開く前から存在していました。世界各国の博物館やコレクター、あるいは弦楽器職人の方などが参加されていて、彼らが持っているストラディヴァリなどのクレモナ生まれの楽器を一時的に里帰りさせて、展覧会等に供するという企画でした。
展示期間が終わりますと、また別の楽器が世界のどこからかやってくるという仕組みになっています。ですので、常に流動的にクレモナ生まれの異なる楽器をご覧いただけるのです」

展示楽器の生演奏が聴ける常設のオーディトリアム

展示楽器の音を定期的に生演奏で聴けることも、同博物館の大きな魅力の一つです。建物地上部には、サントリーホールも手掛けた豊田泰久さん設計のコンサートホールが設けられています。時期によっては週4日も『Auduzione』と称した短いコンサートが開かれ、こだわりの音響のホールで、銘器の音色を生で鑑賞することができます。

「夏季には毎週日曜日の12時から30分程度、博物館1階のオーディトリアムという世界最高音質のコンサートホールで、ストラディヴァリの音を生で聞いていただける企画も行っています。フレンズ・オブ・ストラディヴァリの企画で展示される楽器たちも、持ち主の許可が下りれば、特別コンサートで演奏されます」

このミュージアムでは、芸術的・骨董的な価値だけではなく、実際に演奏され得る『楽器』というものの動的な要素が存分に活かされています。

「他の古楽器たち、最初の時代のピアノでも古いチェンバロでも、1700年代のものでさえ、演奏されませんよね。ヴァイオリンだけなんですよ、いつまでも現役でいられてしまうのは。1566年のアンドレア・アマティのフランス宮廷のためのヴァイオリンだって鳴らせる。1500年代の楽器が未だに現役で使えるというのは、ヴァイオリンの特徴だと思います。
本当のことを言うと、1500年代に作られた楽器などは、保存のためにはもう触らない方が良いんですよ。でも楽器として鳴らせるので、機会があればCDの録音も何回か行われておりますし、特別演奏会で皆様に音を聞いていただいています。これはヴァイオリンが現役であるからこそのアクティビティではないかと思います」

クレモナ在住の専門家たちと協働

オールドの楽器に現役のままでいてもらうためには、メンテナンス、リペアの専門家の協力は欠かせません。同博物館は、町全体が弦楽器工房のような町クレモナならではのネットワークを活かして、価値のある楽器を守りつづけているそうです。

「メンテナンスは、元々弦楽器製作家でもあった同館キュレーターのファウスト・カッチャトーリ(Fausto Cacciatori)さんが中心となって、他の工房の製作家の方と協働しながら行っています。キュレーターさんのつながりですね。
町には、優れた弦楽器製作家の方や、世界的にも権威のある目利きの方も大勢いらっしゃるわけですから、そういう方たちと提携・連携し、共同作業として行っております。古いデータですが、町の商工会議所に登録されている方で130人の楽器製作者の方がいらっしゃいます」

一方、同館コレクションに収められているオールド楽器の研究については、ミラノ工科大学パヴィア大学の研究機関と協力して行われているそうです。

「最終結果としては保存にも役に立つんですが、(研究機関では)どちらかというとデータ収集の作業が行われています。楽器を痛めない形で、どのような材料が使われていたかや何年ぐらいの木を使ったかなどの細かい分析をしています」


ストラディヴァリの工房の道具コレクション

同館では、ストラディヴァリの遺品も常設コレクションとして展示されています。世界で唯一、ストラディヴァリが工房で実際に使っていた紙型やモデル、内型、道具などを鑑賞できるのです。「ストラディヴァリのエネルギーというか気迫を感じるものがあり、生々しいですね」と安田さん。
これらの資料は、言わずもがなクレモナ在住の弦楽器製作家や、弦楽器製作学校の学生たちを強く惹きつけてやまないようです。

「製作されている方にとってのよりどころと言いますか、自分の楽器を作るための参考になるものですからね。楽器自体も、『穴が開くほど』の気迫でチェックしていますよ!」
時々、若い学生が製作中のネックや表板などを持参して、ストラディヴァリの展示ケースの横で見比べていることもあるそうです……!


★次回の記事では、安田さんとともに楽器展示室を巡って、特に思い入れのある楽器についてお話しいただきます。おすすめの楽器鑑賞法も併せてご紹介しますので、お楽しみに。

(後半へつづく)
取材・文 安田真子