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ストラディヴァリの遺伝子
第1話 〜若き日のストラディヴァリ〜


ストラディヴァリは、生涯における各時代ごとに、明確な意図をもって楽器製作の型を使い分けていました。その根底には、「究極のヴァイオリンとは何か」という命題への、あくなき探究心があったといえるでしょう。1666-1690年頃のアマテーゼ期、1690-1700年頃のロング・パターン期、1700-1720年の黄金期、1720-1730年頃の円熟期に分けられる彼の作風の変遷と、その成果をたどっていきましょう。

今回は、アマティ風という意「アマテーゼ」と呼ばれる1666年から1690年頃までの、20-30歳代の若きストラディヴァリの作品をたどります。

写真:"Side view from corner of the Church of San Domenico", Stradivarius.CHARLES BEARE.2013.page19より一部引用






ストラディヴァリの名が歴史上に現れたのは、1666年製ヴァイオリン "Serdet(セルデ)"のラベルが最初です。

そこには、「Antonius Stradivarius Cremonesis Alumnus Nicolaij Amati, Faciebat Anno 1666」(=ニコロ・アマティの弟子であるアントニオ・ストラディヴァリが1666年に製作した
)、と記されています。この師弟関係を示唆するような内容はこの例が唯一で、1667年以降のラベルには見られない表現です。

写真:"Undistributed original lable", Stradivarius.CHARLES BEARE.2013.page48より一部引用


アントニオ・ストラディヴァリの生まれは1644年頃といわれています。当時のクレモナではアマティ家の工房が最も大きく栄えていたので、若き日のストラディヴァリも最初はアマティの仕事を請け負いながらキャリアを磨いていったのだと思われます。しかし、アマティ家とストラディヴァリ家は所属する教会区が異なるため、ストラディヴァリはアマティの直弟子ではなかったと考えられています。

ストラディヴァリの初期作品は、全体的にはアマティスタイルを彷彿とさせる外観で製作されておりますが、パフリングの剣先のラインや、やスクロールの形など、細部に彼の特徴的な様式がすでに表れております。 この時代の代表的な作品として、上記の“Serdet”や、1667年製“Ex-Jenkins”などがあげられます。



1666年製ヴァイオリン “Serdet” 

BL(ボディ長) :356mm 
LABLE (ラベル) :Antonius Stradivarius Cremonesis Alumnus Nicolaij Amati, Faciebat Anno 1666


ストラディヴァリ最初期の作品とされるヴァイオリン。パフリングの剣先がコーナーの中心からやや内側に向かって伸びています。f字孔やスクロールの形状は、すでにストラディヴァリ黄金期に通じる個性が表れています。

写真:"top of Serdet", Stradivarius.CHARLES BEARE.2013.page50より一部引用


1667年製ヴァイオリン “Ex-Jenkins” 

BL(ボディ長) :350mm 
LABLE (ラベル) :Antonius Stradiuarius Cremonensis FaciebatAnno 1667AS


黄金期の標準的なサイズ(355mm)と比べると、かなり小型であることが分かります。そのため音色は美しいものの、やや音量に欠ける傾向があります。製作当時はバロック音楽が主流であり、楽曲や演奏様式そのものがコンパクトで、大音量よりも繊細な音質を重視した設計であったと言えるでしょう。アーチは楽器の中心部にかけて丸みを帯びており、アマティの影響が見てとれます。



写真:"top of violin (ex-Jenkins)", FOUR CENTURIES OF VIOLIN MAKING.Tim Ingles.2005.page50より一部引用



次回は彼の転機ともいえる、1690年から始まる「ロングパターン期」に迫ります。

(つづく)