新進製作家の後藤詩歩は、イタリアで独立開業する準備を進めながら製作活動に取り組んでいる。弦楽器との出会いにも、製作者となるきっかけにも、コントラバスがあったことは特徴的だ。
―弦楽器製作者を志したきっかけはありますか?「幼い頃から音楽はずっと好きだったのですが、高校時代に部活でコントラバスに触れたことをきっ
かけに弦楽器に興味を持ちました。演奏することだけではなく、楽器そのものに魅力を感じ、弦
楽器職人の道を目指しました」
製作を学ぶため留学した弦楽器の聖地クレモナでも、学校だけではなく、『コントラバスのマエストロ』として広く知られるマルコ・ノッリの工房に渡伊直後から弟子入りして修業を続けている。
「在学中にはヴァイオリンやヴィオラを製作しましたが、今はコントラバスを製作しているところです。工房でもコントラバスの製作作業によく携わっています」
現在、「半日は師匠のお仕事の手伝いで、自分の作業ができるのは半日」だという。
コントラバスの製作には、楽器の大きさの違いから、ヴァイオリンの数倍の時間が費やされる。現在の師匠ノッリが製作したコントラバスの写真を日本で見たとき、「すごく綺麗だな」と感じたという後藤。その思いが、今も活動の原動力につながっているようだ。
―製作者としてやりがいを感じるのはどのような点ですか?「正解がなく常に課題があるところはやりがいだと思います」
イタリアを始めとする欧州では、日本よりもさまざまな業界で活躍する女性が増えている。
「製作学校にも女性の先生が入ったり、女性製作者の名前を聞くことも多くなりましたが、今回のように女性製作者が『特集』になるのはまだ進出途中だからだと思うので、これからも課題だと思います」
歴史に触れる機会の多いクレモナに拠点を置き、まっすぐに未来を見据えている期待の若手製作家だ。