第4回はナポリの弦楽器製作者 アントニオ・ガリア―ノ2世(Antonio Gagliano Ⅱ, 1791‐1860)をご紹介いたします。
ナポリ派の製作家
ガリアーノ一族は18世紀において最も多作な製作者ファミリーで、
ナポリ派のヴァイオリン製作スタイルを確立したことで知られている。4世代に渡って一族から数多くの製作者を輩出した。
1. パフリングの素材
・白い部分にビーチウッドを使用している。クレモナ派はこの部分にポプラ材や梨材を使用した。
・黒い部分は紙に似た素材を用いている。一説にはトウモロコシの表皮から作られたともいわれている。クレモナ派のパフリングに比べ黒い部分の線が細く、色も灰色に近い。経年変化によってパフリングが溝から浮き上がっているものもある。
2.楽器内部の構造
・側板に沿って取り付けられるライニングもナポリ派はビーチウッドを使用している。それに対しクレモナ派はウィロー(柳材)を使用した。北イタリアと南イタリアでは気候が異なるため、エリアによって取れる木材の種類も違ってくる。また南北をむすぶ運河がないイタリアにおいて、当時の水運中心の物流情勢では、ナポリ派メーカーは地元で取れるビーチウッドを使用せざるを得なかったといえる。
アントニオ・ガリアーノ2世について
第4世代に属するアントニオ2世は、兄のラッファエレ(Raffaele Gaglano)と共同で楽器製作を行っていたことで有名です。彼ら兄弟はコマーシャル作品も含め数多くの楽器を製作しているため、残念なことに“この時代のガリアーノは量産楽器”という誤ったイメージを持たれてしまうこともしばしばです。しかし実際は、音量・音質のバランスが良く、演奏性に優れたオールド楽器として広くプレイヤーに親しまれています。
1813年製の本作品は、彼が19歳ときに製作した初期作品に当たり、父ジョヴァンニ・ガリアーノ(Giovanni Gagliano)の影響を強く感じさせ、アントニオ2世の後期作品より楽器としてのレベルが高いといえます。ボディはクレモナ派を想起させる優美なミディアムアーチで作られており、充分な音量とレスポンスの良さを備えています。機能性とオールドの音色を求めるプレイヤーに好まれる楽器であるといえるでしょう。
第5回はトリノ派のモダン製作者、リッカルド・ジェノヴェーゼ(Riccardo Genovese)を取り上げます。
文:窪田陽平