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フレンチ・ヴァイオリンの伝統を支えた弦楽器工房

今回はカレッサ&フランセ社(Caressa & Francais Firm)のご紹介。同社はアルベール・カレッサ(Albert Caressa)とアンリ・フランセ(Henri Francais)により1901年に設立された、20世紀パリの代表的な弦楽器工房です。

写真:パブロ・カザルスのチェロ by Avigdor Arikha, Reference to "les violons.Venetian instruments Paintings and Drawings" -Caompagnie Bernard Baissait, 1995, page 295 より一部引用

カレッサとフランセは、二人ともにガン&ベルナーデル社(Gand & Bernardel Firm)で働く優秀な職人でしたが、ギュスターヴ・ベルナーデル(Gustave Bernardel)の引退を機に事業を継承しました。

彼らは先代から受け継いだ製作伝統を守り、コマーシャルからプロフェッショナルまで、良質かつ実用的な楽器を数多く生産しました。ボディはフラットアーチで作られているため発音が早く、現在は経年変化により落ち着いた音色を備えています。

写真:Portrait of Albert Caressa, Reference to "nicolas LUPOT Ses contemporains et ses successeurs", JMB Impressions, 2015, page 214

カレッサ&フランセ社ではストラディヴァリ(A.Stradivarius)、グァルネリ・デルジェス(Guarneri Del Gesu)、モンタニャーナ(D.Montagnana)、ストリオーニ(L.Storioni)、セラフィン(S.Serafin)、グァダニーニ(J.B.Guadanini)などのオールドイタリアン、そしてトルテ(F.X.Tourte)やペカット(D.Peccatte)、ペルソワ(J.P.M.Persoit)などのオールド・フレンチ弓を多数所有していました。

そのコレクションの中には、J.B.ヴィヨーム(Jean Baptiste Vuillaume)や、彼らの製作流派の始祖であるニコラ・リュポ(Nicolas Lupot)の作品も含まれており、彼らがイタリアに誕を発するヴァイオリンの歴史と同じように、自国の優れた名工らに対する畏敬の念を抱いていた事が伺えます。

1938年にはアンリ・フランセの息子エミーユ(Emille Francais)が会社を受け継ぎ、第二次大戦後の苦境を乗り越えて1981年までパリで工房を営みました。

写真:CELLO Made by CARESSA & FRANCAIS, Paris, 1920, BL756mm

エミーユの息子ジャック・フランセ(Jacques Francais)は、製作者としてではなく、ディーラーとして名器の取引と鑑定の道を進み、ニューヨークに弦楽器専門店"Jacques Francais Rare Violins Inc." を設立しました。

1900年以降、人の目に晒されることなくフランス国内で留まっていた多くのオールド・フレンチヴァイオリンを一堂に会し、”an exhibition of antique french violins”と題した展示会を1970年にニューヨークのリンカーンセンターで開催するなどの功績も、高く評価されています。かの名チェリストで、斎藤秀雄氏の師匠でもあったエマヌエル・フォイアマン(Emanuel Feuermann)の1730年製ストラディヴァリをディールしたのも彼でした。

写真:左 Jacques Francais / 右Emanuel Feuermann

▽ジャック・フランセの訃報を報じた2002年NYタイムズ紙

http://www.nytimes.com/2004/02/08/nyregion/jacques-francais-80-dies-dealer-in-string-instruments.html


リュポ・スクールのここまでの歴史は実に200年に及びます。次回は原点に立ち返って、その創始者であるリュポについて紹介したいと思います。

文:窪田陽平