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連載第71回 耳をひらくヴィオラ製作コンクール in Paris

前回の連載記事でご紹介した「オーディション」が開かれたパリ弦楽四重奏ビエンナーレの一環で、2026年1月14日から18日にかけて、国際楽器製作コンクールのヴィオラ部門が開催されました。会場はフィルハーモニー・ド・パリのスタジオでした。

同コンクールでは、2次審査と最終審査が一般公開され、製作関係の学生や音楽ファンなど、たくさんの人々が参加しました。

公開審査には、パリ管弦楽団のヴィオリスト3名とピアニスト1名が協力。公募で集められたヴィオラが、製作者の名前は伏せたまま、次々に奏でられました。

曲間の拍手はありません。ステージと客席の間には黒いパネルが設置されているので、視覚的な刺激もほとんどありません。その静かな審査会場には「楽器の音」をよりよく感じ、深く理解するためのヒントが詰まっていました。

目を閉じてヴィオラの音を聴く時間

パネルの向こう側から聞こえてくるのは、1本ずつ味わいの異なるヴィオラの音色。フランス・パリのフィルハーモニーホールが擁するスタジオは、音がはっきりと伝わる直接的な音響を有しています。

 

2026年1月18日には、第3回パリ国際楽器製作コンクール・ヴィオラ部門の最終選考が行われました。公募で集まった63本のヴィオラから、ファイナルに残ったのはわずか8本。
2次審査とファイナルでは楽器の作りや仕上げではなく、純粋に音だけが評価されるため、客席や審査員席の前には黒いパネルが設けられ、いわゆるカーテン審査が行われました。

 

演奏される楽器がパネルの裏側に運ばれてくるときも、黒い布ですっぽりと包まれているので、誰のどの楽器なのか特定することは不可能です。

 

それぞれの楽器には、審査の段階ごとにA、B、Cなどの新しいイニシャルが割り当てられるます。1・2次審査ですべての楽器を目にした審査員たちにも、どの楽器がファイナルに残っているのか特定することはできません。

 

1台のヴィオラの能力を引き出す演奏が終わっても、演奏者へ拍手を送ることは禁物です。音に集中して聴覚を研ぎ澄ますために、審査員たちも、聴衆の多くの人たちも、目を閉じて聞き入ります。

 

プロ部門と学生部門を併催

同コンクールは、楽器に情熱を注ぐフランス人チェリストのラファエル・ピドゥさんが中心となって、2022年にチェロのための製作コンクールとして始まりました。2024年には、ヴァイオリンを対象にした第2回楽器製作コンクールを開催。今回はついにヴィオラ部門でした。

 

同コンクールの特徴は、大きく分けて2つあります。1つは、先ほどお伝えしたように、2次審査以降は楽器の音だけが評価対象になるという点です。

 

もうひとつは、プロの製作者のための「今日の才能」部門だけではなく、製作学校の学生を対象にする「明日の才能」部門が用意され、公開での演奏審査も含め、同じように審査が行われる点です。

 

「明日の才能」部門では、課題として指定されたモデルの楽器を作る必要がありました。今回の指定モデルは、クレモナのヴァイオリン博物館に所蔵されているジローラモ・アマティ作の1651年のヴィオラ『シュタウファー』。学生たちにとって有益な学びとなる名器が選ばれています。

目を瞑って知る楽器の個性

ピドゥさんは今年も審査委員長を務め、イタリア・ドイツ・メキシコなどから集められた4人の審査員を率いて、それぞれの審査にあたりました。

 

公開審査で演奏される曲目は、J.Sバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番「アダージョ」から、バルトークのヴィオラ協奏曲の冒頭や、ブラームスのヴィオラ・ソナタなど多彩です。

現代曲の鋭い高音からロマン派のメロディー、独奏からピアノとの二重奏まで、求められる音や響き、表現は異なります。独奏はよくても、ピアノの響きに埋もれてしまう楽器もあれば、ピアノと溶け合ってより美しい音色を聴かせる楽器もあります。

幅広いレパートリーに対応する音が引き出しやすく、演奏者が求めるものを表現しやすいヴィオラであることが重視され、1本の楽器が多面的に評価されます。

音だけに集中して聴いていると、音量や響きの豊かさにおける楽器ごとの違いが浮かび上がってきます。楽器の音だけに集中して演奏に耳を傾ける時間は、聴く人の耳をひらいてくれるような、とても豊かな時間でした。

 

ドイツのアンドレアス・ハンペルが優勝

第1位を受賞したのは、ドイツ・ハンブルクのアンドレアス・ハンペルさんでした。ハンペルさんのヴィオラは、伸びがよく甘い音色という印象。ピアノとの二重奏でもヴィオラの音が埋もれることなく、美しく浮かび上がっていました。
審査員だけではなく多くの聴衆も魅了し、特別賞「聴衆賞」も獲得しました。

第2位と製作審査員賞を受賞したのは、ポーランドのピョートル・ピエラツェクさん。第4位は、ドイツのマルクス・クリムケさんと同じくドイツのジョナサン・マーゲルさんが分け合う結果となりました。

(写真)右から平塚謙一さん、アンドレアス・ハンペルさん 、マルクス・クリムケさん

日本から参加の平塚謙一さんが入賞 

ここで嬉しいサプライズがありました。日本から唯一参加していた平塚謙一さんが演奏家審査委員賞を勝ち取ったのです!

平塚さんの楽器をとくに高く評価し、この賞をぜひ平塚さんに与えたいと考えたのは、元イザイ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者のミゲル・ダ・シルヴァさんでした。

シルヴァさんは「とても演奏しやすい。今までに見たヴィオラの中でも特に好きな楽器」と絶賛。外見はマッジーニモデルのオールド仕上げで、豊かで深い音が魅力的な楽器でした。

▶︎「今日の才能」部門の全応募者・受賞者のリストはこちら

(写真)中央が平塚謙一さんの受賞作品

ミルクールの学生が1・2位を受賞

学生のための「明日の才能」部門では、フランス・ミルクール弦楽器製作学校の学生たち6名が合作した楽器が1位を、同校の別の学生6名による楽器が2位を受賞しました。

第3位は、スイスのベルン州ブリエンツの弦楽器製作学校の学生2名による共同製作の楽器でした。こちらのブリエンツ製の作品は、自身も楽器製作者である審査員団のメンバーの心を射抜いた楽器に贈られる特別賞「製作者審査員賞」も勝ち取りました。

今回は、イタリア、フランス、ベルギー、スイスなどの欧州のみならず、メキシコの製作学校(Escuela de Lauderia)を通した応募もありました。ただ、ドイツの製作学校を通しての応募はありませんでした。

▶︎詳しい学校名と製作した学生のリストはこちら

「世界でも稀なコンクール」

コンクールの司会は、フィルハーモニー・ド・パリの音楽博物館コンサーバターを務めるフィリップ・エシャードさん。今回の催しを「世界的に見ても特別なコンクール」だと誇らしげに紹介していました。

全ての審査が終わると、会場にはすべての応募楽器がずらりと並べられ、受賞式が執り行われました。

受賞式の最後には、野平一郎さん編曲のヴィオラ四重奏版J.Sバッハ『シャコンヌ』が演奏されました。1・2位、3位(2名)を受賞した4台のヴィオラは、たっぷりとした豊かなヴィオラらしい音を増幅させながら、広い会場を満たしました。

 

受賞式の後には、展示された楽器を間近で鑑賞できる時間や、審査員や参加した製作者たちと聴衆や学生が出会い、直接話せる「ミーティング」という時間も設けられていました。


このコンクールは、学生たちにとっては、協力しながら名器のコピーを作ることでより技術を高める機会となり、プロの製作家にとっては、楽器にとって何よりも大切な「音」の部分に最大の力を注ぐための好機となったようです。


▶︎パリ弦楽四重奏ビエンナーレ・第3回国際弦楽器製作コンクール公式ウェブサイト

https://philharmoniedeparis.fr/en/musee-de-la-musique/international-lutherie-competition

Text : 安田真子(Mako Yasuda)
2016年よりオランダを拠点に活動する音楽ライター。地域のイベントや市民オーケストラでチェロを弾いています。 http://makoyasuda.com/