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連載第70回
世界の若手クァルテットが集う「オーディション」パリで開催

吐く息が白いほど冷え込む1月17日朝10時。フランス・パリのホール『シテ・デ・ラ・ムジーク(Cite de la musique)』の外には、ちょっとした行列ができていました。

人々のお目当ては、ビエンナーレの一環で開かれる「国際弦楽四重奏オーディション」。今まさに世界に羽ばたく若手クァルテットを聴くための、またとない機会です。

フェスティバル最後の週末の催し

フランスで2年おきに開かれているパリ弦楽四重奏ビエンナーレが、2026年1月10日から18日まで開かれました。

 

パリ弦楽四重奏ビエンナーレは、12回目を迎える弦楽四重奏のための音楽祭です。今年は、パリに拠点を置くエベーヌ弦楽四重奏団をはじめ、若手で活躍のめざましいレオンコロ弦楽四重奏団、パリでの最終公演を行ったハーゲン弦楽四重奏団などが登場。クァルテット2団体による弦楽八重奏も含め、クァルテットにまつわる多彩なコンサートが連日開かれました。

 

そのビエンナーレの人気プログラムのひとつに「国際弦楽四重奏オーディション」があります。

 

世界から集められた若い弦楽四重奏団が、 欧州の主要な室内楽ホールの代表者たちや聴衆の前でそれぞれ30分ずつ、自由な曲目を演奏するコンサートです。会場は、フィルハーモニー・ド・パリに隣接するシテ・デ・ラ・ムジーク(Cite de la musique)の地下にあるアンフィシアターでした。

 

個性を聴くための場

 1月17日朝10時から17時ごろまで3度ほど休憩を挟み、合計10団体のクァルテットが出演しました。

 

開演直前、短いスピーチがありました。

「まずお伝えしたいのは、コンクールではないという点です。ビエンナーレの最後の週末に、若いクァルテットの個性を聴くための場として、この特別なコンサートを開催しています。

今回は世界から65団体の応募がありましたが、オランダ・アムステルダム弦楽四重奏ビエンナーレの創設者ヤスミン・ヒルベルディンクさんに、その中から10団体を選んでもらいました。

クァルテットを聴くと、私たちの内面が変化します。皆さん、どうか良い時間を過ごしてください」

 

客席前列には、ドイツ・ミュンヘンやイタリア・レッジョエミリア、フランス・ボルドーなどヨーロッパの主要な弦楽四重奏コンクールや音楽祭を有するホール関係者や、クァルテットのための音楽祭の関係者、イギリス・ロンドンのウィグモアホールなど室内楽の名門のディレクター、BBC3ラジオのプロデューサーなどがずらりと並んでいます。

 

ヨーロッパの弦楽四重奏におけるキーパーソンたちやパリの聴衆を前に、公募で選ばれた若手クァルテットが、それぞれの魅力を伝えるための機会です。

 

たとえ審査員のような音楽関係者たちが招待されていても、「オーディション」は賞が与えられるコンクールとは異なるため、コンクールのような緊張感はほとんど感じられません。客席には、まだ知らない若手クァルテットとの出会いを求める音楽事務所などの関係者や、音楽愛好家の姿も多く見られました。

日本人若手プレーヤーも参加

 オーディションの最初に演奏したのは、オランダのアニマート弦楽四重奏団(Animato Quartet)。ブリテンの弦楽四重奏曲第1番第1楽章をエネルギッシュに奏で、コンサートの幕開けを飾りました。

 

続いて登場したコン弦楽四重奏団(Cong Quartet) は、香港で10代から共演を重ねてきた演奏者たちが、インディアナ大学で2015年に設立した団体です。第2ヴァイオリンに日本人の石渡あやかさんが参加しており、流暢なフランス語で演奏曲の解説を行ったのも石渡さんでした。

1935年生まれの作曲家 Chen Gangの『Morning in the Miao Mountain』編曲版は、3分ほどで短い曲ながら、スケールの大きな東洋的情景を描き出す作品。ドビュッシーの弦楽四重奏曲第1番第1楽章でフランス音楽を披露し、再びアジアの若い作曲家Adrian Wongの現代曲を演奏。最後はドヴォルザークの弦楽四重奏曲『アメリカ』第4楽章で、緻密かつ伸びやかな音楽性が伝わる演奏を華やかに締めくくり、喝采を浴びました。

パリ初登場のクァルテット浬

 2015年に東京音楽大学で結成され、現在はザルツブルグを拠点にする日本人によるクァルテット浬(Kairi Quartet)もひときわ鮮やかな印象を残しました。

 

パリ初登場のクァルテット浬。イッセイミヤケのスーツで衣装を揃えた4人は、ステージに登場するやいなや、ハイドンの弦楽四重奏曲第1番の第1楽章と第3楽章を披露しました。

続いて演奏されたのは、武満徹が弦楽四重奏のために1960年に手がけた『ランドスケープ』、そしてメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番から第1楽章。古典派、日本人作曲家の現代音楽、そしてロマン派前期の3曲で、1曲ごとにがらりと異なる顔を見せてくれました。

 

群を抜いて音に表現が乗っていて、メンバーそれぞれが自発的に表現し、表情豊かな音楽を作り出すクァルテット浬。今回、初めて出会うパリの聴衆から熱狂的な拍手を受けたことも頷けます。今後の活躍からも目が離せない注目のクァルテットのひとつです。 

https://www.quartetkairi.com/

独創性あふれるプログラム

南フランスを拠点にして活動するQuatuor Vårenは、フランス語ではなくあえて英語で曲目解説を行いました。最初の2曲はフランスものでまとめ、ドビュッシーの弦楽四重奏曲第1楽章のあと、ジャン・クラの弦楽四重奏曲から第2楽章、そしてバルトークの弦楽四重奏曲第2番から第2楽章。ジャン・クラ作品では、なめらかな線を描くような響きの連なりを聴かせてくれました。

 

個性豊かなクァルテットが出演する中、トリを飾ったのはフィボナッチ弦楽四重奏団(Fibonacci Quartet)でした。ロンドンのギルドホール音楽院で結成され、昨年はパオロ・ボルチアーニ弦楽四重奏コンクールで、史上初めて優勝と聴衆賞を同時に獲得したクァルテットです。

おもむろに第1ヴァイオリン奏者のクリストフ・コハウトさんが民族的なメロディーを歌い出したかと思うと、クァルテットが自然に加わり、聴衆を驚かせました。同団みずから編曲したモラヴィア民謡の作品です。

それに続くのは、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番『Lettres intimes』。民族的な調べで2作品がつながり、密度の高い響きから、抜け感のある音まで、コントラストがあざやかで聴き手を惹きつけていました。同クァルテットが2年間かけて取り組んだ、モラヴィア民謡とヤナーチェク作品を掛け合わせたプロジェクトの成果が現れています。独創性の高い企画だけではなく、クァルテットとしての一体感も強く、存在感を放っていました。

クァルテットの個性とは

 次々に異なるクァルテットを聴くことで、それぞれの魅力がはっきり浮かび上がってきます。

 

4人の弦楽器奏者が対話し、ひとつの楽器のように奏でるのが弦楽四重奏の魅力。その中で、クァルテットの個性はどこから生まれるのか、どのように形成されていくものなのか、改めて考えさせられました。

 

例えば、ステージに登場したときは、衣装の統一感が第一印象として目に飛び込んできます。選曲や解説を通して、30分間を1つの短いコンサートとして構成する力も重要なポイントでしょう。

演奏が始まると、弾きはじめの呼吸や、間の取り方や音の合わせ方、このホールでどう響かせるか、という違いも明らかになります。

全体的にあたたかい音色のクァルテットもあれば、輝かしく端正でクールさが魅力の団体もあり、ひとつの作品から異なる味わいを引き出してくれることは想像に難くありませんでした。

注目の若手クァルテットに出会える場所

 今後も注目すべき若手の弦楽四重奏団に出会える「国際弦楽四重奏オーディション」。大満足した聴衆が惜しみない拍手を贈ったあとも、若手クァルテットの演奏者たちを囲む関係者らのカクテル・パーティーの賑わいはずっと続いていきそうなようすでした。

Photo・Text : 安田真子(Mako Yasuda)
2016年よりオランダを拠点に活動する音楽ライター。地域のイベントや市民オーケストラでチェロを弾いています。 http://makoyasuda.com/