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連載第66回 インクルーシブなコンセルトヘボウ管の開幕 in Amsterdam

去る9月12日、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の2025/26年シーズン開幕を祝うオープニングコンサート2025が、アムステルダムのスローテル公園で開かれました。日本ではシーズンが4月に始まりますが、オランダでは秋に新シーズンが始まります、伝統的にこの時期に開かれている、年間を通しても重要なイベントです。

 

緑に囲まれた特設ステージから流れてくる音楽は、誰でも一度は聞いたことのある名曲ばかり。会場で耳を傾けていた聴衆には、クラシック音楽ファンはもちろん、親子連れや若者たちなど、普段コンサートホールで見かけない層の人たちも集まりました。服装から宗教や国籍も異なることがわかります。

何よりも新鮮なのは、クラシックの野外音楽祭というよりも、さながら野外フェスのような賑わいがあることです。金曜日の夜に開かれたことも手伝って、お仕事帰りの人たちもリラックスして楽しめる空間が広がりました。

オランダの名門オーケストラの変革

従来、同オーケストラのシーズン開幕を祝うコンサートは、同団が拠点とするホール「コンセルトヘボウ」の大ホールで開かれていました。

ドレスコードのあるかしこまったコンサートで、公演前にホール内で楽しめる豪華なフルコースのディナーつきのものでした。あえて高級感溢れる特別なイベントとして行われていた、いわばエスクルーシブなものだったのです。


変化が見られたのは、コロナ禍にかかる2021年でした。

感染対策もあって、アムステルダムのダム広場で、屋外オープニング・コンサートとして開催されたのです。事前予約が必要でしたが入場は無料。指揮はダニエル・ハーディング、ソリストはレオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)がコンセルトヘボウ管と共演し、アムステルダム王宮に面する広場で、公演を大成功させました。久しぶりに聴くコンセルトヘボウ管の生演奏に、地元のファンたちは大喜び。客席とステージの一体感が素晴らしく、悪天候ながら公演の最後には打ち上げ花火も!盛大な祝祭の一夜となりました。

(写真)2021年に開かれたオープニングコンサートの模様

礼装の場から野外フェスへ

翌2022年には場所を変えて、アムステルダムのウェスター公園で野外オープニングコンサートが開かれました。

2023年には、アムステルダム北部のヒップな新開発地域でオープニングコンサートを開催。ジャナンドレア・ノセダ指揮のコンセルトヘボウ管が、ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」からラヴェルの「ボレロ」、そして委嘱新作の世界初演まで、同団らしい幅広いレパートリーを聴かせてくれました。

2024年にはアムステルダムの南東に開催地を移し、ザイドースト地区の特設ステージで演奏。南米やアフリカからの移民も多く住むエリアで、より多くの聴衆に生演奏を届けました。

これらの会場選びには、コンセルトヘボウという特定の場所に建つホールにかぎらず、アムステルダムのいくつもの地区に「出張」することで、幅広いオーディエンスのもとに音楽を届けるという思いが込められていました。

(写真)親子連れの姿も多数

ドゥネーヴ指揮で名曲を披露

野外開催がつづいていたオープニングコンサートは、今年2025年にさらにパワーアップ。アムステルダムの市が誕生してから750周年というアニバーサリーに合わせて、盛大に開催されました。
会場は、アムステルダム西部のニーウ・ウエスト地区のスローテル公園に移されました。


特設ステージでタクトをとったのは、フランス人の指揮者ステファン・ドゥネーヴ


バーンスタインの「キャンディード序曲」で華やかに幕を開け、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界』より抜粋や、グリーグのペールギュント序曲「朝」と「山の魔王の宮殿にて」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」、ムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』より「キエフの大門」で締めくくられたプログラムは、名曲づくしの親しみやすいものでした。
プログラムの中には、クラシックの定番に挟まれるようにして、オランダとイスラエルにルーツを持つ若手作曲家による作品や、レバノンの作曲家クロード・シャルーブの作品も盛り込まれていました。

アンコールでは、ちゃめっ気たっぷりにウィリアムズの「E.T.」や「スターウォーズ」なども、コンセルトヘボウ管ならではの生き生きとした美音で披露しました。

礼装の場からインクルーシブな「フェス」風へ

会場内にはキッチンカーなども並び、クラシックの音楽祭よりも、オランダで若年層を中心に楽しまれている野外フェスに近い雰囲気がありました。


また、ストリート・ダンス集団「ISH Dance Collective」とのコラボレーションで、舞台にはダンサーたちが登場。クラシックの名曲と前衛的なストリート・ダンスの組み合わせが、意外な視覚効果を生み出したことも、クラシック音楽の可能性を広げるこころみだといえるでしょう。


未就学児のいる家族連れや若者も来やすく、普段はコンサートホールに足を運ぶことが少ない人々にも楽しんでもらおうという仕掛けが成功していました。

かぎられた層のファンだけではなく、オランダに住む多国籍の人々などさまざまな環境に置かれている人々にとって、より身近で親しみやすいオーケストラになること。それは、オランダの国としての方針に沿っているだけではなく、オーケストラの音を未来に引き継いでいくために欠かせないミッションだということがはっきりと打ち出されていました。

インクルーシブなオーケストラとして、伝統を生かしながら時代に合わせて変化していくコンセルトヘボウ管。以下のラジオ・ストリーミングやショートビデオから、ぜひその雰囲気を感じてみてくださいね。


▶︎演奏会のラジオ・ストリーミング(演奏は21分頃〜)
https://www.npoklassiek.nl/uitzendingen/avrotros-vrijdagconcert/01978307-4e8c-71c1-9c7a-03719217d840/2025-09-12-avrotros-vrijdagconcert

▶︎2025年オープニングコンサートの雰囲気を伝えるショートビデオ

 

Photo:(c)Nathan Reinds(2023年の写真以外すべて)

Text : 安田真子
(Mako Yasuda)
2016年よりオランダを拠点に活動する音楽ライター。地域のイベントや市民オーケストラでチェロを弾いています。