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イタリアでも有数の歌劇場として知られているヴェネツィアのフェニーチェ劇場において、12月13日に日本人指揮者の山田和樹さんがデビューを飾りました。公演のようすをお伝えします。
指揮者の山田和樹さんは、今年6月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でデビューを成功させたことでも記憶に新しい、現在もっとも注目されている日本人指揮者のひとりです。
去る12月13日には、イタリアの歴史ある歌劇場のひとつであるヴェネツィアのフェニーチェ劇場のオーケストラにも見事デビューを飾りました。
フェニーチェ劇場は『椿姫』『リゴレット』などのオペラが初演された場所として世界的に知られている場所です。過去にはトスカニーニやバーンスタイン、チェリビダッケなどの指揮者たちも舞台に立ち、その歴史は現在に続いています。
12月13日の公演に足を運びました。日が落ちたヴェネツィアの狭い路地は、すっかり暗くなり、歩くのが心細いほど。劇場の前に到着すると、それが一転。広場の開けた空間とコンサートを聴きに集まった人々のにぎわいで、心が温まりました。
満員の客席には、定期会員のお客さんも数多く足を運んでいるようで、ロビーのあちこちでおしゃべりが始まります。伝統的なホールの格式の高さが漂いますが、スタッフは親切であたたかい雰囲気が漂っていました。
プログラムの1曲目は、今年10月にちょうど生誕95年を迎えた武満徹の『星・島』でした。早稲田大学創立100周年を記念して、1982年に委嘱作曲された作品です。
伝統的なイタリアの劇場は独特の残響を持ち、木のあたたかみを感じるような柔らかい音響を有しています。そこに武満作品の浮遊感あふれる独特の響きが、新鮮さをもって広がりました。
普段、フェニーチェ劇場では上演されることが少ない武満作品が、好奇心のあるヴェネツィアの聴衆に届けられたのも嬉しいことです。
続くサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番では、エットレ・パガーノさんが独奏チェロをつとめました。2003年ローマ生まれ。ベルリン芸術大学でも学んでおり、イタリアの若手の中でもとくに注目を集めているチェリストです。
ホールを満たすたっぷりとした音量と安定感のあるテクニックで、なめらかにサン=サーンスの第1テーマを弾きこなすパガーノさん。最終楽章では、低音もずっしりと深く響かせて、チェロらしい音色を聴かせてくれました。
繰り返す波のようなオーケストラのクレッシェンドは、山田さんの鮮やかなタクトによって、音量だけではなく豊かさを増して響きます。
愛らしく丁寧に奏でられる2楽章の「Allegretto con moto」の始まりも印象的です。洗練された美と自然な歌、さらに壮大な響きが共存して、作品の魅力が引き出されていました。
アンコールとして、パガーノさんはチェロ独奏の曲を3作品(!)も演奏。速弾きの曲から声を出しながらチェロを弾く瞑想的な作品まで披露しました。
後半のラフマニノフの交響曲第2番は、始まりから丁寧なフレージングが印象的でした。
イタリアの歌劇場オーケストラらしいたっぷりとした歌いぶりが生かされるかのように、人間味にあふれる旋律が広がります。メロディーのおさめ方や、わずかなテンポの緩みが、大きな流れを生み出していくようすは、聞いていて自然と引き込まれるものでした。
中低弦と打楽器が音に厚みを加え、全体をしっかりと支えています。旋律はのびのびと歌われ、フェニーチェ歌劇場オーケストラの大きな魅力のひとつが生かされていることが感じられました。
駒そばを全弓で弾くロシア奏法で演奏する弦パートや、大河のように広がる4楽章の響きなど、さまざまな面を持つシンフォニー。山田さんは体全体を使った指揮でオーケストラを導き、ごく丁寧でエレガントなラフマニノフを描き出しました。
オーケストラの力が最大限に引き出され、その響きが劇場を満たすと、定期会員としてホールに通い詰めている常連の観客たちの表情が輝くようでした。聴衆からは熱い拍手が贈られ、『ブラヴォー!』の声も。舞台は興奮のうちに幕を閉じました。
2003年からフェニーチェ劇場管弦楽団でチェロ奏者をつとめるアントニーノ・プリアフィートさんは、公演をふりかえって、こう語ってくれました。
「ステージの向かいに、綿密に準備された指揮者がいると、私たちもコンサートを成功させ、うまくやり遂げ、何かを伝えようと言う気持ちが湧いてきます。
山田さんはとても音楽的な指揮者であり、美しい動きをしている。私は素晴らしい時間を過ごしました。
私たちのオーケストラでは、公演ごとに指揮者について『肯定的』『中立的』『否定的』という3段階で演奏経験のフィードバックを提出しますが、彼については多くの楽団員が『肯定的』にポイントをつけていたと思います」
武満徹作品は初めて演奏したというプリアフィートさん。
「ラヴェルを彷彿とさせる美しい曲です。楽器で弾くのは難しくありませんが、印象的な曲なので、その効果を伝えるのが難しい。この作品を通して、山田さんは意図通りに演奏し、オーケストラに素晴らしい色彩をもたらしてくれました。演奏できてよかったですし、良い発見でした」
世代交代を経て、数年前から楽団員の多くを若いメンバーが占めるようになった同オーケストラ。
それでもなお、イタリアの伝統的な歌劇場の音響のもと、フェニーチェ劇場管弦楽団にはどこか懐かしさのあるあたたかい音色が引き継がれており、独自の魅力にあふれていました。
山田和樹さん指揮のもと、オーケストラは通常のレパートリーにない作品にも全力を注ぎ、スケールの大きな演奏を実現しました。次回が待ち遠しい共演でした。
<続く第2回では、イタリア国内のみならず世界的にも議論を呼んでいる、2026年秋からのフェニーチェ劇場の新しい音楽監督の人選についてお伝えします。>
Photo : Teatro La Fenice提供
Text : 安田真子(Mako Yasuda)
2016年よりオランダを拠点に活動する音楽ライター。地域のイベントや市民オーケストラでチェロを弾いています。 http://makoyasuda.com/