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写真:”クレモナ市内、大聖堂前広場" Cremona, Province of Cremona, Italy by wikimedia commons

楽器の扱い方


私はひょんなことから、その楽器を買いとり、たいへん素晴らしい楽器だと後で知ることになった。

そして、帰る道すがら、貴重な楽器がしばしば、非常に手荒な扱いを受けていることについて、考えを巡らした。実は、そうした無神経な扱いのために、なんとも背筋の寒くなるような経験があったのである。

私は、ある時、ドイツ人の演奏家に、独奏用としてヴァイオリンを貸した。楽器に慣れることができるように、演奏会の1、2日前に渡しておいた。

演奏会の当日、通りでその演奏家を見かけたので、疑いもせず、リハーサルに行くところだと思った。だが、彼は楽器を持っていない。彼の、というか、私のあの楽器はどうしたのだろう。彼がひどい近眼で、私に気づかなかったのをいいことに、後をつけていくと、小柄な女性が1本指でヴァイオリン・ケースをゆらゆらさせながら歩いているのが目に入った。どう見ても、ヴァイオリン・ケースを揺すっているとしか考えられない。

そうなのだ。その女性が危なっかしい持ち方をしている楽器こそが、800ポンドもする私のヴァイオリンだったのである。私はあわてて二人の後を追った。そして、彼らが目的地に着いたのを見届けると、やっと一息ついた。以後、こうしたことが起きないよう、充分に気をつけているのは言うまでもない。

壊れた楽器が少ない理由


私は長いこと修行を積み、慎重な観察を重ねてきた結果、次のような結論に達した。イタリアの楽器は、そのほとんどが、多かれ少なかれ損傷を受けてはいるものの、完全に壊れたものは極く稀にしかない、ということである。理由は以下のとおりである。

"ヴィオラ・ダ・ガンバ” viola da gamba by wikimedia commons

ヴィオールやヴィオラ・ダ・ガンバなどに代表される弦楽器は、ヴァイオリンが出現する以前に、長いこと使われていた。このような楽器は、おおむね、教会の祭事と深く結びついていたので、聖職者たちは、自分たちの職務に欠くことのできない物として、とても大切にしていた。

ヴァイオリンが作られるようになり、演奏をする上で重要な、高音部が強化されることになった。この楽器は、それ以前のものに較べてずっと小さく、ケースの中にきちんとしまいさえすれば、教会の中の安全な場所に保管するのはわけはなかった。だからこそ、ヴァイオリンはあちらこちらに持ち運ばれることもなく、また、ぞんざいな扱いを受ける、というような憂き目にも遇わずにすんだのであった。

さらに、当時の製作者たちは、事実上、取り引きを独占しており、価格も設定していた。その価格は、別に法外だったわけではない。適度に高かったため、結果的に、楽器を買った人たちが、傷つけまいと慎重に保管することになったのである。だいたい、楽器を買うような人というのは、上流階級の人であった。そして、彼らは音楽をこよなく愛し、ヴァイオリンのことを「すばらしい音楽を次々に生み出すもの」と呼んでいた。

こうしてヴァイオリンは、導入されてからこのかた、大切に扱ってくれる人の手から手を渡ってきた。多くの楽器が我々に伝えられてきているのは、そのような経緯があってこそのことだ、と私は確信している次第である。
第49話~ストラディヴァリウス晩年の力作 ・その1~ へつづく