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写真: "19世紀のフランクフルト" historic photos of Frankfurt am Main, Germany in the late 19th Century by monovisions

手を加えられた楽器


私は、そのドイツの演奏家の家に行って楽器を見せてもらった。「君は楽器に手を加えたんだな」と言うと、彼は「ええ、こんなにぶ厚い楽器じゃ弾けなかったものですから」と答えた。「でも、使いこなせたかもしれないじゃないか。それに、表板をはずしたり、魂柱を立てかえたりしただろう。たしか、私が君に譲った時と全く同じ状態と言っていたはずだが……」とつっつくと、彼は言葉につまり、ばつが悪そうだった。
写真: "19世紀のフランクフルト" historic photos of Frankfurt am Main, Germany in the late 19th Century by monovisions

まあいい。君にとってこの楽器はなんの価値もないことがはっきりしたんだ。売る気はないかね?」とたたみかけるように言うと、「できればそうしたいんですが、元がとれないと困るし……」と言うので、売った時と同じ金額で買い取った。彼は、私に頭が上がらないという様子で、自分の非礼を深く詫びた。私としては、私に対してというより、ヴァイオリンに対して無礼な奴だと感じていた。それで、楽器をこんな奴の手元にこのまま置いておくということがどうしても許せなかったのである。

一件落着と思ったのもつかの間、ある朝、この演奏家がホテルの私の部屋にやってきて、あのヴァイオリンを返してくれと言ったのだから、呆れた話だ。「そりゃまたどうして?」ときいても、彼は「高く買い取るから」の一点張りだった。こんな男にまた楽器を渡すなんて御免だと思い、「それはできないし、しない方が君のためだ。いずれ、君にもわかるだろうが」と言っておいた。それにしても、どうして気が変わったのだろう。

その謎はすぐ解けた。どうやら、同じ街のある楽器商が、自分のねらっていた楽器が取り引きされたと知るや、この演奏家のもとへとんできて、「どうして売ったりしたんだ⁉あの楽器の昔の音色を知っていて、どんなに高くても欲しいというお客が二人もいるんだ」と責め立てたらしいのである。そして、なんとか私から楽器を取り返すようにとそそのかされ、演奏家はその気になったわけだが、その試みが無駄に終わったことは今さら言うまでもない。

途方もない修理家


楽器を丹念に調べたところ、かなりまずい失策が見つかった。ヴァイオリンの中にある魂柱の位置が微妙にずれていた上、この柱がうまく表板に届かないからか、修理家が、魂柱の両端をにかわで固定したのである。このにかわのおかげで魂柱は倒れなくなったかわりに、音色ががた落ちだった。
写真:"Carrodus 1743" by Giuseppe Guarneri del Gesu p.132

驚いた持ち主は、たびたび楽器をこの途方もない修理家につき返したらしく、その度に、修理家は位置をずらしては、前より太くて長めの魂柱を立てた。そのあげく、表板の左側は陥没し、右側は中央部からf字孔の端までの部分よりも盛り上がり、見るも無残な姿に変わり果ててしまったのである。とんでもないことをやらかしておきながら、当の修理家はその欠陥を、「ヴィヨーム氏は、楽器が売れるまでだけ素晴らしい音色がするように巧みな細工をしてあって、売れた後はその効果がなくなってしまった」などとわけのわからないことをうそぶいていた。もちろん、そんなばかげたことなどがあるはずないのだが。私はそのヴァイオリンをパリへ持って行った。そして、ガン・ベルナルデル商会や有名な愛好家などの手を経て、最終的に楽器は、晩年のM・カロダス氏の所有となった。こうした例からわかったことを、演奏用にヴァイオリンを購入する人たちに伝えておきたい。まず、楽器は信頼できる人にきちんと調整してもらい、その後はしばらくそのままにしておくことである。ある程度時間がたってからなら、音色を聞きながら、自分でもいじってみてもよいだろう。よく心得たヴァイオリン商だったら、任せておくのも手である。要するに、ハレ夫人のように、楽器をそっとしておくのが何よりなのである。
第46話 ~アマチュアの楽器製作家たち~ へつづく