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写真:"19世紀半ばパリの駅" Gare de l'Est, Paris, middle of the 19th century by wikimedia commons

鑑定家の資質


さて、今度はストラディヴァリウス・ ヴァイオリンの売買について話そう。この取引は何かとめんどうでもあったが、信頼に足る専門家という名声を私にもたらしてくれたものでもあった。
写真:「The Three Vuillaume (左からJ.B、Sebastien、Nicolas-Francois)」, J.B.VUILLAUME His Lige and Work, Roger MILLANT, 1972, イラスト.33より引用

有能な鑑定家には三つの重要な資質が要求される。それは、的確な判断ができる目と優れた記憶力、それに良い耳である。

最初の2点は、違う製作者の作品、及び同一製作者のもので外見や繋作時期の異なる楽器を見分けるのに不可欠である。同じ製作者の楽器には必ず何がしかの特徴があり、素人目には無理でも、専門家には即座にそれと分かるものなのである。

3番目は、鑑定家として成功するのに必須とみなされてはいない。だが、音色を聞き分けたり、どちらの音の方がよく通るか、また、どちらが音楽家、愛好家の大多数から一様に高い評価を得るかなどを判定したりする場合、良い耳は当然、重要な役を担ってくるので、最大限にまで磨きをかけるべきものと言えるだろう。

音楽会によく足を運ぶ人にとって大切なのは、しょせんヴァイオリンの音色であって、音楽を楽しめる限り、製作者が誰であるかは知りもしなければ、気にもとめないのだから。私の耳は、取引のつど、ヴァイオリンの鑑定という厳しい審査をくぐり抜けてきたわけで、この耳で失敗したことはなかった。

ストラディバリウス「エルンスト」


私は「エルンスト」の名で知られるストラディヴァリウスを、パリのJ・B・ヴィヨーム氏の店で初めて目にした。外見の美しさもさることながら、音色もそれに劣らずたいへん美しいものだった。
写真:『Violin Iconography of Antonio Stradivari/ Herbert. k. Goodkind著』より p.384 1709年 Stradivarius "Ernst" (エルンスト)

これは売り物なのかどうかをヴィヨーム氏に尋ねると、「売り物ではあるが、エルンスト氏の未亡人が夫の形見として、15年持っていたもので、彼女は自分の存命中は売る気がないんだよ」と言われた。

しかし、彼女の友人に「その楽器は放っておくと質が落ちるから、弾いてもらえるように手放したほうがいいですよ」と強く勧めた人がいて、未亡人はヴィヨーム氏に売ってほしいと言ってこの楽器を託した。

しかし何しろ指定した値段が法外だった。その上、この楽器の最後の所有者は音が貧弱だと言っていたという。実際には、本人が健康を害して以前のような音が出せなくなったのであるが。

彼が落としてしまった評判に対してヴィヨーム氏はなすすべがなく、私は買い手を見つけるのは至難の技だと言った。私は優れた演奏家の手にかかれば音色は戻るはずだと思っていたので、彼の言葉は気にならなかった。

いずれにせよ、あまりに高価なために、この2年というもの安値がつけられては、エルンスト夫人から売却を断られていた。ついに私は、「買うつもりだが、もっと安くできないか」と彼に聞いてみた。答えは、否であった。ただ、エルンスト夫人に会ってみたらと言われた。意を決して夫人を訪ねたが、ほかの値段はあり得ないと言われてヴィヨーム氏と交渉するほかなくなり、結局私は、楽器を手に入れた満足感に浸ることとなったのである。

私はパリを離れる数週聞、ヴィヨーム氏に楽器を預け、私が戻るまでに演奏できる状態に調整してくれるよう頼んだ。彼はストラドを含めて、自分の手持ちの楽器で調整の経験があったので、私が帰るよりはるか以前に仕上げていた。彼は自分の新しいヴァイオリンはストラドよりずっといいと固く信じてたびたび公言もしていたので、この時は自分の気が済むように試す良い機会となった。音楽院のアラール教授門下の優秀な学生に試奏してもらうことにしたのである。

楽器の癖を飲み込めるようにと、音楽会の数日前にこの学生はヴィヨーム氏の最良の楽器と「エルンスト」をあてがわれ、楽器の演奏順を説明された。最初にヴィヨーム氏ので弾き、アンコールでは、その中の一部分をストラドで弾くというのである。これは、音色を試すのになかなかよいやりかたである。

第42話 ~ストラディヴァリウスの取引で得た名声ーその2~ へつづく