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先月末、ベルリンの公園でのフラッシュモブ演奏のために、ヨハネス・モーザーベルリン放送交響楽団(rsb)のチェロ奏者に加え、ネット上の公募で総数150人以上のアマチュアチェリストが集いました。その様子をレポートします。

■テンペルホフ公園に集まったチェリストたち


5月30日、ベルリン。とあるイベントを心待ちにしていた人々にとっては願ってもないような快晴の青空が広がっていました。
『チェロ・スワーム』、訳せば「チェロの群れ」と呼べるフラッシュモブの告知を見たのは数か月前のことでした。友人のアマチュアチェリストも参加すると聞き、筆者はオランダからドイツ・ベルリンに駆けつけました。
写真:会場となったテンペルホフ公園。後方には以前空港として使われていた施設が見える (c)Niemeyer_Robert

ベルリンはチェロ・アンサンブルに縁のある都市で、かのムスティラフ・ロストロポーヴィチがベルリンの壁崩壊10年後にブランデンブルク門前でチェロ・オーケストラを指揮した演奏会や、ベルリンフィルの12人のチェリストの活動などが知られています。

今回のフラッシュモブを主導したのは、ベルリン放送交響楽団(以下rsb)、そしてrsb今期の注目アーティストとして迎えられるヨハネス・モーザーでした。
モーザーは以前からチェロ・アンサンブルやフラッシュモブに積極的に取り組んでおり、トゥッティで演奏予定の3曲を一人四役で多重録画するなど、その気合いの入った様子は、事前練習のために用意されたYouTubeの映像からも見てとれます。

▽モーザー氏による映像はこちら
https://www.youtube.com/playlist?list=PLzv7jjSaSWhGICc5U8AjsuUuS46Zb7IVW 


開催日当日、会場のテンペルホフ公園に足を踏み入れると、辺り一面に草原が広がっており、空が広く感じられました。300ヘクタールを超える敷地を持つベルリン市内最大の公園は今でこそ市民の憩いの場となっていますが、1941年にはナチスの空港が建てられ、その後、西ドイツの食糧供給便のために活用され、2008年までは一般空港として使われていたという歴史のある場所です。

かつての滑走路らしき幅広い舗装道路に、チェリストがずらりと並びます。参加者はドイツ国内を中心に各地から集ったアマチュアチェリストたち。総数は150人以上に及び、世代も人種も様々です。皆、この日を楽しみに集まってきた様子で、席に着くなり嬉々として音出しをしていました。野外でチェロを弾くのは初めてという人も少なくないはずです。ほぼ曲を通すだけの短いリハーサルを経て、いよいよ本番が始まります。

■風が吹き抜ける気持ちの良い公園がステージに早変わり

 

写真:快晴の空の下、演奏を主導したヨハネス・モーザー(写真右手)ら(c)Niemeyer_Robert

「アインツ、ツヴァイ、ドライ、フィーア(1,2,3,4)……」とモーザーが声をかけると、150人以上が奏でるチェロの音がふわっと空に舞い上がりました。

ゆったりとした大らかなテンポで奏でられるバッハ『G線上のアリア』、タンゴのリズムを低音で刻むロドリゲス『ラ・クンパルシータ』のあと、プロチェリストたちによるカタルーニャ民謡・カザルス編『鳥の歌』、そして再び全員参加でアーレン『虹の彼方に』が演奏されました。

次第にチェロ・オーケストラを囲むようにして人だかりが大きくなっていきました。自転車で通りがかった人やスポーツを楽しみに来た人も足を止めて演奏に聞き入ります。誰もが知るメロディが流れてくると、気持ちよさそうに全身でリズムをとる人の姿もありました。

■参加者の眩しい笑顔と演奏は多くの人の心をつかんだ

 

写真:参加者は皆、笑顔に満ち心から楽しんでいる様子だった(c)Niemeyer_Robert

モーザー含め4人のプロチェリストがトゥッティの参加者と向かい合わせに座って演奏をリードしてはいますが、初対面の150人が出会ってからすぐに呼吸を合わせ、指揮者なしで合奏する様子は圧巻でした。

このイベントの正式名称は『Celloschwarm fur die Feldlerche』『ヒバリのためのチェロの群れ』とでも訳せるでしょうか。今回のフラッシュモブには、大人数でのチェロ演奏を通してヒバリという身近な野鳥が危機に瀕している事実にスポットを当てるという狙いがありました。

ヒバリは農地開発や農薬の使用などで棲み家を奪われ、絶滅を危惧されています。そのため、NABU(ドイツ自然保護連盟)から『2019年の鳥』として選ばれ、保護活動が行われています。テンペルホフ公園の敷地内にも、野鳥のために藪を刈り取らずにあえて生い茂るままに残す区画というものが存在するものの、現在のEU全体の法令のままではヒバリの数は減少をたどる一方であるとNABUのスタッフが語りました。

テンペルホフ公園では、モーザー含め4人のプロチェリストによって演奏された『鳥の歌』が、パブロ・カザルスが託したものとはまた別のメッセージを宿して響きました。

チェロの大群が一斉に演奏を始めたら、公園にいる野鳥たちは驚いて飛び去ってしまうのでは……と心配していたのですが、不思議なことに、鳥たちはむしろチェロの音色に惹きつけられるかのように、上空を鳴きながら飛び回っていました。

フラッシュモブの演奏時間はわずか十数分でしたが、半日限りのチェロ・オーケストラは広大なテンペルホフ公園の空気を変え、人々の注目を集めました。
野外で演奏を聴くと、自然の中の音楽の存在に気づかされます。野鳥の歌声からはその儚さ、大切さを教えられるようです。

ベルリンの街には緑が多く、市街地でも鳥のさえずりが聞こえてきます。rsbの来シーズンのテーマは『人類とその土地』。NABUとのコラボレーションで、専門家の解説付きのバードウォッチングが演奏会前に楽しめるという企画も用意されています。

鳥の歌に耳を澄ませて、どのようなメッセージを聴きとることができるか。それは私たちの聴く力や想像力に託されているようです。

 

写真:凧作りが趣味の男性による特製のチェロ型凧。ひらひらと空を舞う姿はどこかユーモラス


▽チェロ・スワーム当日の映像はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=S7JWgzho-yY&feature=youtu.be

取材・文:安田真子

プロフィール:オランダ在住。クラシック音楽について執筆しているライターでアマチュアチェロ弾き