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写真:キューガーデン内のパームハウス, Wikipedia Commonsより引用 

かの有名なバイオリニスト C.ベリオが愛奏したマジー二については前話「第25話 ~王家のマジーニ(1)~」を参照。

■ 王家の所有したバイオリン

写真:ジョージ4世の肖像画"George IV by Thomas Lawrence", via Wikipedia Commons
私が次に購入したマジーニのバイオリンは、とても大変な経歴を持つものだった。これはバイオリンを習うことを好んでおられた、かのジョージ四世がかつて所有していたバイオリンであった。陛下はあまり上達が早くないと自ら悟り、このバイオリンをキュー植物園の庭師に下された。

その後長期間にわたってその家族の手元にあったが、ついにロンドンのウォーダー街の業者に売られてしまった。そのディーラーは、このバイオリンをいったん売っては買い戻し、また売ったりしたので、この楽器はロンドン市街のほとんどのディーラーの手をゆだねた結果になった。常に売りにかけられていたと同じ状態になり、とうとう、“並のもの”になってしまった。

その頃、私はロンドンのディーラーの一人にストラディバリウスを売りにかけていた。彼は残金支払いの形で、このマジーニのバイオリンを受け取ってくれないかと言うのであった。しかし彼の付け値が安かったし、外観もとても新しかったので、私は真偽の程を疑っていた。

すると彼は、私の疑念を見てとってこの楽器にまつわる話をしてくれた。さらに安値の言い訳には、この周辺の業者が皆、嫌気がさしているので、なるべく外国へ持ち出して売りにかけた方が良い値で売れるだろう。それでも自分の言葉に信頼がなければ、どの業者にでもその経歴を尋ねてみたら、彼等は自分の話を保証してくれるだろう、とも言った。

私は彼の自信ある言葉を信頼できるものと認め、そのバイオリンを下取りとして受け取ることにした。


■ マジーニの響き

この楽器は私が前に述べたように、指板とネック以外はすべてにおいて新しく見えた。この指板とネックは、指で押さえる部分を長くする為にくさびが打ち込まれていた。なぜなら古い時代に作られた楽器のほとんどは、オリジナルの指板やネックが使用に耐える程丈夫にできていなかったから、指板とネックは継ぎネック等によって取り替えられていた。

しかし、賢明な修理人の手によって本体とネックの付け根の間にくさびを打ち込みネックを長くしたようなオリジナルの指板とネックは、幸運にもそのまま保存されていた。
さて話をこのバイオリンに戻すと、表面は光沢と深みのある美しい黄金色のニスでたっぷりと覆われていて、裏板の中心部には黒檀で作った象眼の胴飾があり、そして上下の端にはクローバーの葉があしらわれていた。

裏板と横板は非常に良質な正目板で、透明なニスを通して美しい絵の細部を見るかのように、その木目をはっきり見せていた。

表は木目の細かい赤松の木で、そのために堅い感じであった。頭部の形状はド・ベリオのものと同様であったが、例の半回転渦巻きではなく普通の型のものであった。

しかしこの製作者が好んで使ったとみられる丸ノミの跡が、両方のバイオリンの頭部に認められた。f字孔は表板上の位置は正しかったが、長くて彫りの悪い、非常に特徴のあるものだった。さらに表板の隆起は、ド・ベリオのバイオリンより更に扁平であった。縁から、ほんのわずかくぼんで見える中央部に向かって直線的な感じさえ与え、裏にいたっては更に幾分か扁平であった。音色は、まさに本物のマジーニの音であった。

■ J・Bビヨーム氏の反応

写真:Jean-Baptiste Vuillame,''Stradivarius'',ASHMOLEAN,2003,page28より引用
私はかなり長い間手許に置いたあと売却したので、その楽器の経歴について様々な業者や鑑定家に見せる機会があったから、はっきり確認できた。なかでも、J・Bビヨーム氏に見せた時は面白かった。

楽器を見て彼も最初は気乗りしなかったらしく頭を振っていたのだが、調べていくうちについには座り込んで入念に調べるのであった。

その楽器のつくりは、細部にわたってすべてマジーニであり、ニスもまた疑う余地もなかった。そしてf字孔が巾広く長かったので、内部の構造やブロックの一部さえも見え、このバイオリンが古い時代のものであることも確認できたし、正真正銘のマジーニであることも証明することができた。

しかし全体を一見した時に新しい感じがするこ とが、私の時と同様にビヨーム氏さえも 動揺せしめたのであった。

しばらくして彼は立ち上がって、「そう、確かに本物ですね。しかし状態は不安です。売るつもりですか?」「そうです」と私は答えた。「いくら位で?」私が値段を言うと、「それは安すぎます。このバイオリンの価値をかなり下回るものですよ。」とビヨーム氏が言った。
私は彼にこのバイオリンにまつわる話をして、なぜロンドンに持ち帰りたくないかを話した。しかし彼は、どんな理由があろうとも王家の所有した楽器は滅多に世に出てくることはないから、このような経歴は楽器の価値を高めるものだと言うのであった。

また必要以上に安い値を付けておいたのでは、たとえその経歴を買手に話して聞かせたところで、信じてくれないだけでなく、かえって疑念を持つだろうと言った。


第27話 ~セント・ペテスブルグにて(1)~へつづく