バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録 第10話

2010.06.21

前回までのお話はこちら

The Reminiscences of a Fiddle Dealer by David Laurie #10

【初めての取引】-1

ある日、ブラッセルに住むN.F.ビヨーム氏を訪ねると、彼はちょうど外国から着いたばかりの荷物をほどいているところだった。

どういうわけか、難しそうな顔をして中のバイオリンを調べている。
「この楽器を全部修理して調整すると、どうやら楽器の価値以上の時間がかかりそうだ」
と、がっかりしたふうに呻いている。
「ローリー、どうだろう。ここにある半ダースのバイオリンを持っていかないかい。最近は楽器が見つからなくなっているらしくてね。ここにあるバイオリンも、長いこと私のために集めてくれている人が選んで送ってきたものだけど、どうみても”がちゃ”にすぎないんだ」
と、残念そうに言い、さらに続けて、
「僕自身、この全部の楽器をベストの状態にするだけの時間がないんだ。多分、英国の製作家なら買うだろうから、僕の買値のままでいいから、もっていかないか」
と言うのだ。
彼は1,200フランの領収書を私に見せた。私は丁寧に、1本1本を調べてみた。すべてが駒さえも立っておらず、とても弾ける状態とはいい難いものばかりだった。ひどいものになると指板さえもとれてしまって無いものもあった。ラベルをのぞいてみると、良く聞く有名な名前が3本(ブレシア派のJ.B.ルジェリ、ミラノ派のC.ランドルフィー、フィレンツェ派のJ.B.ガブリエリ)と、無名なものが3本である。

私は、ひとつ冒険をしてみようかという心が動いて、申し出を受けることにした。さっそくロンドンに持ち帰って、ワーダー通りの主な3人の業者に見せてみた。最初に訪ねた人はじっくりながめ回してから値段を聞いた。
「卸値で60ポンド」
と、やや高めに答えると、
「私の知ったことではないがね…」
と前置きして、
「もしこの楽器が自分のものだったら、その半額でもいいから喜んで処分するだろうね」
と言った。
他の2人も訪ねてみたが、ほとんど同じ反応だった。それ以来、私は楽器の卸売りはやめることにした。家に持ち帰った楽器は、丁寧に箱にしまって、しばらくの間、戸棚の中にしまい込んだ。

(つづく)

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