The Reminiscences of a Fiddle Dealer by David Laurie #7
【ビヨーム氏のチェロ】-2
彼は部屋へ私たちを招き入れると、所有しているストラディバリとベルゴンツィのバイオリンを見せてくれた。
もう1本、とても立派なチェロも出してきた。私はいつものくせで、f孔の穴から作者のラベルを読み取ろうとしたら、ジャンセン氏いわく、「その楽器には、ラベルが付いていないよ。」ビヨーム兄弟はこのチェロを、アマティ派のイタリア製だと鑑定していて、ジャンセン氏はそのことに満足をしていた。
私はニスなどの細かい点をチェックしてみたところ、とてもイタリア製とは思えなかった。その時、指板の下部の表板の上に、円形の飾りが刻まれているのを偶然見つけた。たしか、ロンドンでこれと同じ模様のついた楽器を2本見たことがあった。メーカーはバラク・ノーマンで、その飾りには作者の頭文字が刻まれている。ノーマンは英国の古い弦楽器製作家である。その時私と一緒にいたロンドンの楽器商の主も、それらのチェロをノーマンの作だと言っていた。ここにあるジャンセン氏のチェロは、その時の2本のチェロに似ているではないか。

多少の迷いはあったが、あまりにも似ていたので、思い切って言ってみた。「これと大変良く似たチェロを2本見たことがあるんですよ。」そして断言は出来ないが、ノーマンがイタリアの誰かの作風をコピーしたものかもしれないと付け加えた。「円形の模様」は動かしがたい事実で、明らかに3つのチェロは同一モデルに基づいて作られたものだと私は確信していた。しかし、ジャンセン氏は明らかに気色を損じた様子だった。
しばらくして帰る段になり、ジャンセン氏は階下まで我々を送ってきた。その時ジャンセン氏に先ほどの話を聞いたビヨーム氏は、「あのチェロはイギリス製ではなく、イタリア製としか考えられない。」と言った。しかし、そう言うビヨーム氏自身、表板の円形飾りを見落としていたのである。
2~3ヶ月経ってからビヨーム氏の所を訪ねると、おかしい程の敬意を表して私を招き入れるではないか。そしてすぐジャンセン氏を呼んできたのだが、彼もまた、どういうわけか私に大変な尊敬の意を示したのである。
(つづく)
